成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2009.11.26
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カテゴリ: バス産業
昭和30年代の神奈川をテーマとする写真展で見た、川崎駅東口の俯瞰写真が忘れられない。イベント会場かのように人・ヒト・ひとで溢れたロータリーに次から次へと路線バスが進入してくる写真だ。まるで、押し寄せる報道陣を政治家や芸能人がかき分けているかのように、人ごみをかき分けてバスが進入してくる。その人ごみは全てバスを待つ通勤客なのである。あまりの混雑に今の感覚で言うと危険極まりなくヒヤヒヤするものの、そこは時代の相違と目をつぶれば、数多くの人たちがバスを必要としていた時代を象徴する1枚であり、いわゆる「既存事業者」の原風景と言えるのではないだろうか。

諸先進国においては「公共」が担当することが多い地域の路線バス事業を、なぜ日本では民間が担うことが可能だったのだろう。まず前提としては我が国の人口密度の大きさがある。基幹作物であるコメは多くの人口を養う力がある(反面、麦などに比べ労働力も多く必要だが)上に、居住に適した平地が少なく、その平地に多くの人が集中して居住する。運輸業と言う立場からすれば非常に効率のいいマーケットである。また日本のバス産業は黎明期においては個人企業の乱立に近い状態であったが、いわゆる「戦時統合」を経て地域ごとにほぼ1社にまとめられ、ある程度効率的また網羅的にネットワークが整備された。

ただ、ここで考慮しなければならないのは「日本型経営システム」との兼ね合いである。以前にも書いたが、終身雇用と年功序列をベースとするこのシステムは、常に規模の拡大を求められる「ネズミ講」である。ある年に新入社員が10人いたとして、30年後にはその10人全員に「部長」「担当部長」「専門部長」「子会社の部長」などのポスト(少なくともそれに相当する給料)を提供することになる。その10人の何倍もの新入社員を雇える規模になっていなければ、その会社は30年かけて高コスト化しただけとなり市場で競争力を失ってしまう。だから常に規模を拡大し続けないといけない。メーカーなら海外への輸出で規模を拡大できるから、自動車や家電メーカーの営業マンや商社マンが「エコノミックアニマル」と揶揄されながらも世界中でメイドインジャパンを売りまくったことで、メーカーやその周辺の企業は成長を続けてきた。

しかし、内需型産業である路線バスは海外進出とはいかない。にもかかわらず典型的な日本型経営でここまでやって来られたのはなぜか。それは外部環境が大きく変化したからである。戦後の高度経済成長が始まると、これまで自宅近くの田畑で農業にたずさわっていた人たちが「サラリーマン」となり、市街地の事務所や臨海部の工場などへ「通勤」することになる。高校への進学率が上がり「通学」需要もふくらむ。冒頭に挙げた川崎駅の写真は、ちょうど戦後のベビーブーム世代が社会に出る頃の1シーンである。以前紹介した「満員になって車体が沈み、コーナーでは路面に接触して火花が散った」という古株社員の思い出話もこの頃であり、その彼自身が田舎の学校を出て都会のバス会社に「ボーイ車掌」で就職したというまさにこの世代の人である。

同時に各バス事業者は、地域を代表する大資本の企業として地元で圧倒的な存在感を築く。田中角栄の越後交通、堀内光雄の富士急行など保守系政治家との強い関係はもちろん、地元メディアへの影響力を強め、ビジネス面でも、小林一三が阪急で築き上げた「日本型私鉄経営」モデルに習い流通業やレジャー産業さらに学校や病院などから成る「ミニ阪急」が全国に展開され、地域での生活に無くてはならない、民間企業の枠を超えた存在に成長していく。今から見れば「利権」「既得権益」と言われる事業もあるが、その時代においては地域経済の牽引車として全地域住民のために有用だったと言えるだろう。ある既存事業者の経営者によれば「子会社の社員、家族を含めれば地域人口の5人に1人は関係者」であり、私がよく「高速路線バスは現地側事業者の地元での販売力で成長した」という時の販売力とは、単に路線バスの車内に高速バスのポスターを掲出できるといった目に見える側面だけでなく、生活のあらゆるシーンで地域住民の役に立つ事業者の存在感全体を指しているつもりである。

合わせて、既存事業者のビジネスの中で大きな要素が「土地」である。わかりやすい例が、バスの営業所(車庫)を郊外に移転させることで余剰となった中心市街地の土地を、売却ないし運用(貸ビルの建設、ホテル・流通を自ら経営など)することだ。戦前から中心市街地に大きな土地を保有していた既存事業者ならではの収益モデルであると同時に、ホテルや流通業を営む上で地元には他に大資本は少なく、かつバス事業者ならではの高い知名度もあり非常に有利に進められただろう。

だからこそ、バス事業が赤字化した後も各事業者は地域への責任感を持ってバス事業を継続させてきた。ただ、こうやって見るとあらゆる「前提」が崩れつつあることが理解できるはずだ。最もわかりやすいのが「土地」だろう。土地の値上がり神話のもと保有しているだけで企業価値が上昇した時代では既に無く、わけても郊外化の進展により地方都市における中心市街地がむしろ「忘れられた繁華街」になりつつあり、そこに土地を持つ意義は低下した。地元では競合が少なかったホテルや流通も、中央資本が容易に地方進出するようになった今アドバンテージは小さい。そして本業のバス、である。昭和30年代とは対照的に地域人口は減少し、モータリゼーションの進展が追い討ちをかける。「既存事業者と言う名のビジネスモデル」は、非常に厳しい状況なのである。

「安定性」に魅力を感じてバス事業者に入社した方が多いなら申し訳ないが、このままだとその地盤はゆるい。決して既存事業者に未来が無いと言っているのではない。「古きよき時代」の感覚から脱しなければ、未来は無いと言っているのだ。「既存事業者と言う名のビジネスモデル」にこだわり過ぎては、その事業者そしてバス産業の未来をも、逆に閉じてしまうような気がする。





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Last updated  2009.11.26 18:14:41
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京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
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