成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.06.28
XML
カテゴリ: 高速ツアーバス
一部の高速路線バス事業者からは、「サイトの入り口(トップページ)で、高速路線バスと高速ツアーバスをもっとはっきり分けて欲しい」という風に言われる。銭湯の入り口で「男湯」「女湯」が分かれているように、「高速路線バス予約はこちら」「高速ツアーバス予約はこちら」と分けてしまえばいいのではないか、そうすれば各事業者の心理的な抵抗感が小さくなり、契約できるんだけど、と。そう意図したわけではなかろうが、実は私たちの競合である 「YAHOO!トラベル」のページ は、既に擬似的にそのような形になっている(高速路線バスを予約しようとすると、宿泊予約などでYAHOO!と強いつながりがあるJTBの高速バス予約サイトにリンクされている)。私としても、それで高速路線バスの取扱が増えるのなら、と、ちょっと気持ちがゆらがないでもない。だが私としては、それをやってしまえば負けだとじっと我慢である。私が実現したいのは、一つの「商品棚」になるだけ多くのバスを並べ、それを利用者に選んでもらう形である。

従来、区間独占的に認可を得た事業者(多くの場合は共同運行ペア)のみが高速バス事業を行なっていた際には、高速バスとは高速路線バスしか存在しなかったし、高速路線バス同士を比較しながら予約をするような環境もまた、存在しなかった。しかし今は違う。高速路線バスについても需給調整が撤廃されマルチトラック化が進展している。さらに高速ツアーバス業態が容認され、むしろ高速ツアーバス同士は激しい競争のさなかにある。利用者一人ひとりが、高速バスと高速バスとを比較しながら、より自分の希望に近いバスを選んで予約できる状況が生まれたのだ。

もちろん、「ルイ・ヴィトンの鞄が欲しい」と、あらかじめ欲しい商品が決まっている人は、ルイ・ヴィトンの直営店に行けばいい。「クルマは絶対にジャガー」という人は、ジャガーのディーラーに行けばいい。しかし「100万円くらいで、買い物に使いやすい手ごろな中古車が欲しい」というような漠然とした希望しかない人は、なるだけ多くの中古車を揃えた中古車センターに出向いて、何百台と並ぶ中古車から、予算や年式、メーカーなど希望に合わせて絞り込んでいって、希望に一番近いクルマを最後に選ぶことになろう。最初から「JRのドリーム号に乗りたい」と決めている利用者を簡単に予約まで結びつけることは、JRバスの「直営店、公式ディーラー」に当たる高速バスネットの仕事であり、私たちが担うべきなのは、どの会社のどの高速バスが自分の希望に最も近いのか比較検討しながら予約したいという利用者を、予約にまで結びつけることである。

そのためには、なるだけ「同じ商品棚」に並べることが重要だ。京王百貨店で売っている298円の牛乳と、京王ストアで売っている198円の牛乳があったとして、どちらが高級でおいしい牛乳か、簡単に判別できるだろうか? その100円の価格差は、牛乳そのものの価値の差なのか、百貨店とスーパーという販路が異なるから生まれたものなのか、一般の消費者がブレイクダウンできるだろうか? 

だからこそ、同じ商品棚、同じ空席検索結果画面上に並べ、その中で利用者が一つひとつの商品を見比べながら予約する環境を作ることによって、利用者は自身が最も求めている商品にたどり着くことができる。老舗路線バス事業者の安心感を求める利用者もいるだろう。少しでも安く、という人もいるだろう。わかりやすい停留所や待合室のあるバスターミナルから乗車することを望む人もいるだろうし、アメニティグッズ付きなど柔軟な商品性を好む人もいるだろう。希望のタイプは満席で、やむを得ず次点の商品を選ぶケースもあるだろう。利用者のニーズは多様であり、その全員に万能な商品などあるはずもない。しかし多くの事業者が多様な商品を用意し、それを比較検討する場を用意することができれば、なるだけ多くの利用者が希望のバスにたどり着くことができ、結果として高速バスマーケット全体は拡大していく。

利用者が商品を「選ぶ」ということは、事業者側も利用者を選ぶ必要が出てくる。時は既に従来の区間独占認可の時代ではない。同じ商品棚に競合する各社の多様な商品が並んでいる以上、ぼんやりとした輪郭の、個性の乏しい「最大公約数的な」商品を作っていたのでは誰からも選んでもらえない。事業者自ら「この商品は女性向け」「ビジネス出張向け」などとターゲットを明確に選定していかなければならない。事業者側も、商品ごとに、あるセグメントを採ってあるセグメントを捨てる「覚悟」を求められているのである。そこでは、「路線」か「ツアー」かといった業態の選択そのものも、ターゲティングの重要なツールのひとつとなりうる。老舗の路線バス事業者が高速ツアーバス業態を(あるいは両方の業態を)選んでそれに合ったセグメントに向かい合うこともまた、選択肢なのである。

かつて酒販免許ががちがちに運用されていた頃、ビールといえば、近所の酒屋の親父に電話してラックで配達してもらうものだった。その頃、近所の酒屋が扱っているビールが極端に「女性向け」だったら、男性は不満に感じただろう。その逆もしかり。だから当時、ビールは余り個性がなかった。しかし、コンビニの冷蔵ショーケースから消費者本人が自身で好みのビールを選べる時代になった今、高級志向や低価格志向、女性向けや健康重視など様々な種類のビールが自らを主張しあっている。上記のような市場の変化は何もバスとビールだけでなく、この国の多くの商品で起こっている。競争が「磁場」を生んで新たな需要を集めるのである。

一つ運用面での具体例を挙げれば「夜行便の開放休憩」だ。区間独占だったころ、開放休憩すべきかどうか事業者ごとに(結果として路線ごとに)判断が分かれ、利用者からの不満に各社頭を悩ませていた。休憩ごとに夜中に起こされるのは嫌だという利用者も、気分転換や喫煙で車外に出たいという利用者もいるからである。今なら「休憩しないので睡眠を邪魔されません」「2時間ごとに休憩するのでタバコが吸えます」とサイト上に明記すればいい。独占認可と引き換えに事業者が背負わされていたのは「特定の乗客に不利にならない、不満を持たれない」という責任だったが、競争になった以上、「ウチは開放休憩しません」と言い切ってしまって休憩を望んでいない利用者だけを集めればいいし、「どうしても休憩がお望みなら、他社に乗ってください」と言い切ることができるようになったのである。もちろん休憩は一つの例であって、車両タイプや価格にしても、わかりやすい停留所の有無も含めた「路線」業態か「ツアー」業態かにしても、各事業者が戦略に応じて使い分ければいいだけのことである。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.06.29 08:38:49コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

nalys

nalys

Comments

京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

Calendar

Archives

2026.10
2026.09

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: