奈良市は勤務中に職場を抜け出す「中抜け」をしたなどとして、5件の不祥事に関連して職員10人を停職や減給などの懲戒処分にしたと発表したのだ。中抜けでは市環境部収集課の男性職員が減給10分の1を3カ月とけっこう重い処分だったのだが、中抜けと判断したのは昨年の9月24日と同じく26日に10月24日の3回だとされているそうなのだ。職員は委員会の聴取に「休憩時間の範囲内」と中抜けを否定したが、審査委は「同僚職員への聞き取りで『職場離脱が無かった』という証言を得られなかった」などと判断したというのだ。懲戒処分は会社等の運営上の秩序を保つために、或いは秩序を保てない社員への制裁の手段として無くてはならない制度だとされているのだ。
それでも懲戒処分そのものに関しては労働基準法に規定されておらず、社員や職員に減給の制裁をする場合には「1回の額が1日分の半額を超えてはならない、総額が月次給与総額の10分の1を超えてはならない」と規定してあるだけだというのだ。しかも勤務中に職場を抜け出す「中抜け」疑惑を報じたテレビ報道を根拠に懲戒処分を下したというのだ。奈良市から減給の懲戒処分を受けた男性市職員は「客観的な根拠も裏付けもなく、報道のみを安易に信用した」として、処分の取り消しを求める訴訟を奈良地裁に起こしたそうなのだ。奈良市側は同僚職員らの証言などが処分の決め手だと言っているのだが、調査では同僚職員の証言を得られないまま処分したことを認めたそうなのだ。
つまり今回の懲戒処分は同僚職員らの証言などが得られないまま、報道内容を基に処分したことになっており、専門家からは処分の妥当性を疑問視する声が出ているそうなのだ。この職員の提訴は8月なのだが訴状などによると男性職員は清掃工場に所属で、大阪の毎日放送が昨年12月のニュース番組で、工場から私有車で外出した職員が休憩時間を超過して「中抜け」した疑惑を報道し、奈良市はこの映像を主な根拠に7月に勤務中の職場離脱が計3回あったとして減給10分の1を3カ月の懲戒処分にしたというのだ。報道では工場を出入りする職員は匿名で顔も映っていなかったが、奈良市は車の形などから懲戒処分を受けた職員の可能性が高いと判断したというのだ。
この職員はその後の奈良市側の聴取に対し取材を受けたことを認めたうえで「休憩時間の範囲内」と中抜けを否定したというのだ。奈良市によるとこの報道を行った毎日放送に対し、放送されたもの以外の映像提供を求めたが「映像は報道目的」として拒否されたというのだ。しかし毎日放送が「内容に自信は持っている」と返答したことを受け、「映像の信頼性は高い」と判断し懲戒処分を決めたというのだ。訴状では職員側の主張として「報道された映像からは休憩時間を超えて勤務離脱したことは認められない。他の職員らへの事情聴取など一切の調査をしていない」などと主張しているのだ。一方の奈良市側は同僚職員への聞き取りをしたが、「『職場離脱はなかった』という証言を得られなかった」と説明したそうなのだ。
「職場離脱はなかった」という証言だけでなく、「職場離脱があった」という証言も得られなかったとされているのだ。今回の提訴について奈良市側は「裁判の中で処分の正当性を主張していきたいと考えている」とコメントしているのだが、この騒ぎの発端を作った毎日放送は「訴訟の当事者ではなく、コメントする立場にない」としているのだ。メディア法に詳しい立教大学の服部孝章教授は「主観の入る余地がある取材や編集をした報道機関の映像で懲戒処分するのは疑問。職員管理のできていない奈良市のような行政組織が、他人のふんどしで相撲を取ったような処分だ。処分するなら奈良市側の調査結果に基づくべきだ」と指摘しており、裁判の原則である「疑わしくは罰せず」の精神も踏みにじる処分となっているのだ。
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