少子高齢化・人口減少が急速に進展する日本において、実質 GDP を経済成長の指標に設定することは望ましくないというのだ。欧米と比較しても日本は中程度の成長をしているのだが、一般の感覚は異なる理由は実質 GDP の成長率が年々低下しているからだとされている。「社会保障・人口問題研究所の将来推計人口」によると、労働投入量と深く関係する「生産年齢人口」は 30 年後までに毎年 1.2 %程度のスピードで減少していくというのだ。労働投入量が 1.2 %ずつ減っていくのを補ってなおかつ実質 GDP 成長率 2 %を達成するためには、技術進歩などを上昇させることで労働生産性を 3 %超上昇させることが不可欠なのだが、この日本の状況を考えると極めて厳しいハードル課すことになるというのだ。
生産の増加のうち労働や資本と言った生産要素の増加で説明できない部分の増加を計測した「全要素生産性」とは、通常「技術進歩の進捗率」を示すものとされており、経済成長に与えるこの「全要素生産性」の寄与は高度成長期でも 4 ~ 5 %であったのだ。その後は 2 %程度にまで低下し労働生産性の伸びは日本が 1.48 %になってしまい、このように労働生産性の伸びには限界があるとされているのだ。このような環境で経済成長の目標について極めて厳しいハードルを設定すると、もはや目標としての現実味を失い市場における政府への信認を低下させるリスクさえあるといわれ、付加価値重視にして生産性を向上させ交易条件を改善させていく方法が必要となっている。
社会保障についてなのだが現状は中福祉・低負担で財政赤字が出ているわけだが、これを米国のような低福祉・低負担とするのか、北欧各国のような高福祉・高負担にするのかが問題だとされている。あるいは社会保障が高齢者中心になっているのを、少し子どもに重点化させるような方向とするのかが議論されているそうなのだ。「アベノミクス」ではないがとにかく 5 兆円や 10 兆円の補正予算を編成し公共投資を拡充することで、実質 GDP 成長率を一時的に嵩上げすることはできるのだが、その結果残る財政赤字や膨大な政府債務のツケは将来世代や若い世代が支払うことになる。このためいまおこなわれている「アベノミクス」のような成長には限界があることは明らかなのだ。
政府が実質 GDP 成長率を経済成長の目標に位置付ける限り、メディアもそれを指標として報道し国民は間違ったメッセージを受け取ることになるのだが、少子高齢化や人口減少が急速に進む日本で、実質 GDP 成長率を経済成長の目標に設定することは望ましくないのだ。人口は長期的な減少を許容するのかといったことが、移民とか出生率との関係で見えてくる。経済成長の適切な目標を考える時に「選択する未来委員会」が行った議論は重要なのだ。内閣府の資料である「目指すべき日本の姿について」は、経済成長の目標として人口減少を許容するのか否かで経済成長の目標が異なること、「 1 人当たりの総生産」と「国内総生産」のどちらを重視すべきか選択の視点を投げかけているのだ。
この「選択する未来委員会」は「経済財政諮問会議」の下に今年 1 月から 安倍晋三首相の指示で設置されたもので、 人口やエネルギー・財政など日本が抱える構造問題について、 50 年先を見据えた日本経済の課題を議論するというものなのだが、人口減少が進むことで懸念される国内需要の縮小や、労働力人口の減少などをどのように解決するべきかを議論する 専門調査会なのだ。この「選択する未来委員会」が公表した恐ろしい予想では、地方は最低限の機能でさえ確保できない地域が多数出現し、過疎化が進む全国約1800の自治体のうち、 523 自治体は「消滅可能性」が高く、 生活水準が 2 割低下し社会保険料の水準を維持するなら消費税は 25 %まで引き上げられることになるというのだ。
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