「水混じりの砂が津波のように押し寄せてきた」というのは、昨年 11 月の福岡市営地下鉄七隈線延伸工事に伴う JR 博多駅前の道路陥没事故の状況だったそうなのだが、事故発生前後のトンネル内部の緊迫した状況が地元新聞社の入手した事故報告書で明らかになったという。トンネル上部の土砂がパラパラと崩れる「肌落ち」が連続的に発生し、作業員がコンクリート吹き付けによる補強を試みたが食い止められず、急きょ全員退避するなど作業員の生々しい証言が記されているという。報告書は当時現場にいた大成建設を代表とする共同企業体の職員 1 人と、成豊建設の作業員 8 人から聞き取った内容で大成 JV が作成している。それによると「 11 月 8 日午前 0 時 40 分、トンネル掘削を開始」から始まるというのだ。
11 月 8 日の 4 時ごろ作業員が天井付近の岩盤がもろいことを確認し「地山が不良」と周囲に声を掛け掘削作業を中断したというのだ。崩落には予兆があったとされているが、午前4時25分ごろ地中の工事現場で作業員9人が掘削をしていると、トンネル上部の土砂がパラパラと崩れる「肌落ち」という現象が起きたというのだ。土砂を固める吹き付け処置をしたが止まらないことから、コンクリートを吹き付ける補強作業に切り替えるための準備を始めたが、その間にもそれまでとは異なる連続的な肌落ちが見られたという。 4 時 30 分に補強作業を始めたが 20 分後には天井から異常出水があったそうなのだ。濁った水が噴きだし 0 ・ 25 立方メートルの黒い石の塊も落下してきたため、安全衛生責任者は急きょ全員退避を指示したという。
11 月 8 日の 5 時の退避完了後に作業員たちがトンネルの真上の通行規制を実施したが、それから 20 分後に道路陥没が始まったという。また時刻は不明だが退避後に現場につながる立て坑に作業員が再び下り水が迫ってきているのを確認したという。作業員の男性は「いきなりだった。早めに作業を止めていなかったら穴の中に落ちていた」と供述しているが、初めは道路の左右2カ所に開いていた穴は徐々に広がり、道路は細い橋のように真ん中だけが残った状態になってという。通勤ラッシュの時間なら大惨事となった恐れもあるが、作業員のとっさの判断で人的被害は免れたといえるのだ。その頃になって犬の散歩をしていた福岡博多区の会社員は、道路がごう音を立てて陥没する瞬間を目撃したというのだ。
この会社員は「下水の臭いがして、滝のように水が激しく流れる音もしたし、目の前にあった信号機も穴の中に消えた」と当時の様子を語っている。 11 月 8 日の6時40分ごろには近くの不動産会社に出勤しようとした女性が警戒中の警察官に制止されている。穴の端が少しずつ崩れみるみる巨大化していったというのだ。他の会社員男性が近くのビルから現場を見ていると、地鳴りがして土煙を上げて幅が約30メートルある5車線の道路全体が崩れ落ちたというのだが、この男性は「信じられない光景だった。自分たちのビルも危ない、避難した方がいいのでは、と不安になった」と振り返っていた。今回の報告書は事故原因究明のための「国の第三者検討委員会」に提出されているというのだ。
この JR 博多駅前の道路陥没事故に関して国土交通省の担当者は「周囲の建物の基礎が見えてしまうような陥没は記憶にない。前にも事故があったのに、また陥没を起こしており、問題がなかったか調べる」としていたが、事故の起きた工区では硬い岩盤を掘る際に使う「ナトム工法」が使われていたが、都市部では地下水が出ることが多いため「ナトム工法」よりコストが高いものの遮水性が高い「シールド工法」が使われるのが一般的としている。福岡市交通局建設部の角英孝部長は「先行トンネルの掘削時に異常はなかった。岩盤質の地盤の一部が風化するなどして、弱くなっていた可能性がある」としているが、二度とこのような事象を発生させることのないよう厳重な注意が必要だとしている。
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