国会では「働き方改革」が審議中で主要メディアなどでもさまざまな見解が示されているが、「働かされ過ぎ」のサラリーマンは「時代遅れ」とみなされる一方で、働き手としての女性や高齢者が企業にとって貴重な人材で戦力になるということで重要性が高まっているという。これらの時代の変化が底流にあるのだろうが、「働き方改革」によって低下しているように見える日本の生産性を高められると考える論者もいるというのだ。そして一部の論者は安倍政権による「働き方改革」は十分ではなくこのため生産性や人々の豊かさが高まらないなどと批判的に対し、「多様な働き方」や「中間層の所得底上げ」・「格差固定化の是正」などの趣旨に反対する人はほとんどいないだろうというのだ。
安倍政権は一貫して労働者を保護するための労働法制の規制緩和を目指してきているが、過去にも「高度プロフェッショナル制度」の導入や「裁量労働制」の拡大などを目指して法案を提出したが、野党から「残業ゼロ法案」と叩かれ世論の反発を受けるなどしたため、成立を断念している。しかし今国会に提出された「働き方改革」関連法案は、過去に実現を目指しながら挫折してきた労働者保護法制の規制緩和はそのまま踏襲しておきながら、労働側の長年の「悲願」ともいうべき残業時間の上限規制という「アメ」を含んでいるため、過去の「残業ゼロ法案」や「ホワイトカラー・エグゼンプション」のような一方的な規制緩和という批判を巧みにかわすような立て付けになっているというのだ。
安倍首相も今国会を「働き方改革国会」と位置づけた上で、所信表明演説では「戦後の労働基準法制定以来、 70 年ぶりの大改革」とか、「我が国に染みついた長時間労働の慣行を打ち破る」などと大見得を切っている。確かに今回一括審議されている 8 法案の中には残業時間の上限を設ける労働基準法改正が含まれている。現行の労働基準法にも残業の上限は設けられてはいるが労使で合意した上で、いわゆる「 36 (サブロク)協定」を結べば上限を引き上げることができる抜け穴があるほか、サービス残業による長時間労働が常態化していることも否めないとされている。しかし労働法制に詳しい法政大学の上西充子教授は「上限規制」という言葉に騙されてはならないと警鐘を鳴らしている。
正社員と非正規労働者の待遇に不合理な格差があるうえに過労死自殺が後を絶たないような現在の日本の労働環境に改革は必須だが、今回の法改正には残業について罰則つきの上限が設けられているのに、残業の上限を基本的には月 45 時間と定めておきながら例外的に月 100 時間までの残業が認められ、年間の残業時間の上限も 720 時間まで認められる。月 100 時間の残業をするためには毎日平均して 5 時間残業することになることから、抜け穴が多いとされる現行法でも残業が年 360 時間を超える場合には「 36 協定」が必要とされていることを考えると、毎日最低でも 5 時間の残業を前提とするこの上限値で長時間労働の打破と言えるかどうかもよく考える必要があるというのだ。
今回の法改正の最大の問題点は「残業時間に上限を設ける」ことで労働側に一定の配慮を見せるかのような体を繕いながら、実際は「高度プロフェッショナル制度」の導入や「裁量労働制」の対象拡大によって、事実上残業時間の上限自体を無力化させる制度変更が含まれていることだというのだ。「働き方改革」が、どのような経路でサラリーマンなど家計の所得を押し上げるのだろうかということでは、今回の働き方改革は「同一労働同一賃金」や「働き方に左右されない税制」などの文字が並ぶが、その中身は「同一労働同一賃金」の方は非正規雇用者の雇用条件の改善よりも正規雇用者の待遇の低下を、「働き方に左右されない税制」はサラリーマンの所得控除の縮小を意味していると言われているのだ。
キーワードサーチ
コメント新着