安倍晋三首相が参院本会議で「内閣の恣意的な人事が行われることはない。自らの疑惑追及を逃れることが改正の動機といった指摘は全く当たらない」と述べている検察幹部を退く年齢に達しても政府の判断でポストにとどまれる特例を新設する検察庁法改正案だが、与党がめざした 衆院内閣委員会での採決では野党が 武田良太国家公務員制度担当相の不信任決議案提出という対抗手段を取ったため採決ができなかったのだ。採決提案に対し抗議の高まりを受けた攻勢に与党の描く日程は狂ったわけだが、自民党の森山裕国会対策委員長は「週内の衆院通過」を掲げていたが本会議どころか委員会での採決もできず、記者団に「この法案の委員会可決を急ぎたい」と語り早期成立をめざす考えは変わらないことを強調したという。
検察庁法改正案は国家公務員法改正案などとの束ね法案として国会に提出され、与党は検察官についても法務委員会ではなく公務員の定年延長として処理しようとし、内閣委員会では森雅子法相は出席せず武田良太国家公務員制度担当相が検察庁法改正案への質疑でも答弁に立っていたが、「本来なら法務省からお答えすべき」と本人が言うだけに、答える気があるのかと言われそうな答弁が目立ったという。半年ほど前にはなかった規定が盛り込まれたことについて「ご指摘で時間があったことは理由にならないとおっしゃいますけども、時間があったのが一番の理由だと思います」と説明して、野党から失笑が漏れた。委員から「重大かつ複雑困難事件ってどんな事件ですか」と問われ「様々であります」と言う場面もあったそうなのだ。
政府が検察幹部の定年を延長する際の判断基準をめぐり武田良太国家公務員制度担当相が「新たに人事院に規則を出して頂く。現時点で内容を具体的に示すことは困難」と説明したそうなのだが、野党の要求を受けて出席した森法相も「検察官の独立性は害しないし、三権分立にも反しない」と答弁したという。どんなに反対があっても検察庁法改正案の批判は収まるとの見方をしている与党は、衆院内閣委員会 での審議には武田良太国家公務員制度担当相とともに森雅子法相も出席させてて予定された質疑を終えた後で採決日程が提案したが、野党 4 党が不信任案を衆院に提出したそうなのだ。閣僚の不信任案は優先的に審議することが慣例となっていることから衆院内閣委員会の今後の日程もいったん白紙になったという。
ツイッター上では「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが数百万件も投稿されるなど審議の行方に関心が高まっており、国会前では反対派によるデモも展開されるなどしたが肝心の審議の方はこれまでの与野党の応酬が繰り返されただけだったという。引き続き答弁に立った武田良太国家公務員制度担当相は「こんな質問なら法務省に出してほしいが、通告を出してもらえなかった」として素っ気ない発言を繰り返し、続いた森法相も自分の言葉をほとんど使わず用意した原稿を棒読みしたような答弁が目立ったという。元検事総長ら検察 OB が法務省に提出した改正案に反対する意見書についてコメントを求められると、森法相は「様々な意見は承知しており、引き続き真摯に説明したい」とだけ述べたそうなのだ。
与党側は審議再開と採決への切り札で森法相の衆院内閣委員会出席を受け入れ、質疑後の採決を目指したが答弁は不十分でそんな環境は吹き飛んだという。しかも法務省が検察官にも国家公務員法の定年延長規定が適用されるとした解釈変更について、省内の会議や内閣法制局などとの打ち合わせに関する文書を保存していないというのだ。政府が閣議で黒川弘務東京高検検事長の定年を延長したことなどを踏まえて関連文書の開示を請求したのに対し法務省は「請求時点で議事録などは省内にない」と回答しているという。つまり定年延長は国会で審議中の 検察庁法改正案で明文化されているのに、この検察庁法改正の基礎となる解釈変更の「意思決定過程」は不透明なままだというのだ。
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