のぽねこミステリ館

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2005.08.10
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~集英社~

1.「FACE」
 病院で掃除のアルバイトをしている僕。その病院には、ある噂があった。死が間近に迫った者には、一つだけ願いを叶えてくれる、「必殺仕事人」が現れる…。ある事情から、僕は噂で言われているような仕事をするようになった。依頼者は、老人。戦時中に殺してしまった男の親族に近づき、その様子を報告してほしいという。

 コメント。本書に関する予備知識がほとんどないままに読んだので、話がどうなっていくのか全く読めませんでした。温かい方向なのかな…と漠然と予想をたてていたのですが、いやはや、そういう展開で、そういう結末ですか。
 何度か書いていると思いますが、私は本を読んで自分の在り方(考え方)を見つめたり考えたりするのですが、今回も少し考えました。傷つけるつもりがないのに、人を傷つけてしまう。たとえば、何気ない雑談。悪気もなく、相手を傷つけるつもりもない…むしろ、関係は良好のままでいたいのに、ちょっとした発言で、相手の気分を損ね、自分もつらくなる。私自身何度か経験がありますし、「些細なけんか」というのはこういうものでしょう。コミュニケーションとは本当に難しいと思います。人は、「些細なけんか」が起こるのは仕方ない、自分が傷つくのは当然だし、自分が誰かを不本意とはいえ傷つけてしまうことも仕方のないことだ、と割り切って生きているのでしょうか。その都度、辛さを感じ、自分が相手を傷つけてしまった場合は反省し、そして生きているのでしょうが、その繰り返しです。宗教の道を歩む人間にだって腐った奴はいますからね。まったくもって嫌な気分になることが多い世の中ですが、それでも生きているのは、幸せだと思える瞬間があるからでしょう。…結局一般的な結論になってしまいました。他の小説の感想でも同じことを書いている気がしますが、最近ちょっと考えていたことなので、本の感想にかこつけて、つらつらと書いてしまいました。…ともあれ。脱線が長くなってしまいました。あまり読後感は良いとはいえないですが、面白い作品です。

2.「WISH」
 心臓が弱く、なんとか生きているという状態の少女、美子。彼女の願いは、中学校の卒業旅行で行ったときに出会った、男性に会うことだという。旅行のときに一緒に撮った写真を彼に送ったのに、写真が返ってきた。僕がその住所を探すと、そもそもそんな住所は存在しないことが分かった。

 コメント。自分の死が近いと知り、それでも14年生きてきた少女。友達にも親にも気丈に振る舞う彼女の姿には、うたれるものがありました。あらゆる人間が死を迎えます。それはどうしようもないのです。その形が違うだけ。それに対する意識が違うだけ。美子さんが一時期の私を見たら、本気で怒ったでしょう。怒られても仕方ないと自分でも思います。それでも、やっぱりしんどさは人それぞれなんです。今まさに貧困、食糧難、病気、様々なかたちで多くの方々が亡くなっています。死ぬほど思い悩んでいる方々もいます。直接的に死にたいと思っている方々もいます。死が近いことを宣告され、それでも気丈に生きている方々もいます。


3.「FIREFLY」
 乳癌が再発し、再び入院することになった上田。彼女が誰かに電話をしているのを、僕はよく見かけていた。上田がある日、僕にバイトを依頼する。勤め先に置いている荷物を取りに行くこと。昔付き合っていた男から届けられたお金を返すこと。…そして、デートすること。

 コメント。上田さんの考え方に、自分と似たものを感じました。世の中には素敵なことはある。でも、いやなこと、しんどいことの方が大きい…。私は、そういうネガティブな思考なので、あたたかい気分になり、安心すると、ほっとして涙するのでしょう。涙するのは涙腺がゆるすぎるだけかもしれませんが…。この作品、切ない気分になります。上田さんは、何を感じながら、電話をしていたのでしょう。国語の問題が質問してくるかもしれません。字数指定して答えさせるかもしれません。もちろん自分あるいは他人の感情や抱いた気持ちなどを(比較的理論的に明快に)説明することも大切なのかもしれませんが、他人とのコミュニケーションの中で、「自分はあんなことを言ってしまったけれど、いったいなぜだったのだろう?」とか、「あの人にあんなことを言ってしまったけれど、あの人はどう思ったのだろう?」とか、「あの人はああいう言動をしたけれど、どういう気分だったのだろう?」と自分で問いかけ、決して答えの出ないその問題について、決して明快に理論的に言葉で説明することは無理でも、混沌とした言葉の渦の中で考えることも、きっと大事なのだと思います。自分が必至に考えておぼろげに浮かんだ結論らしきものは、過去の自分の気持ちや相手の気持ちとは全く的外れなこともあると思います。その方が多いでしょう。でも、考えることは、多少は将来の自分の言動に影響を与えることでしょう。だから、大事なのだと思いたいのです。自分がそうやって考えることが多い人間なので、自分を弁護しようとしているだけかもしれませんが…。何も考えずに無神経に他者を傷つける奴にはなりたくないので。

4.「MOMENT」
 僕がずっと気にかけていた老人に、頻繁に、いかにも「その筋」に見える二人組が訪れるようになった。老人は、僕に問う。人は死ぬときに、何を考えるのだろう。何を考えるべきなのだろう。僕は、うまく答えられずにいた。その頃、オリジナルの「必殺仕事人」の噂が、再び病院でなされるようになった。

 コメント。いままでの三つの短編についてだらだらとコメントを書いてきましたが(一つの短編を読むたびにパソコンに向かいました)、「あ、こういうところに落ち着くのか」と思いました。この作品でもいろいろと考えたのですが、結局それはこの本全体を通して言えることなので、全体の感想で書くことにします。

 というんで、全体を通して。
 連作短編集(このくらいの長さだと、中編になるのでしょうか?)です。
 舞台は病院。物語の核をなす装置(?)は、一つの噂。死を目前に迎えた者に、「必殺仕事人」が現れ、一つだけ願いを叶えてくれる。この噂には、僕の登場で、二つのバージョンができることになるのですが…。そして、物語の核となる概念は、「死」でしょう。
 「MOMENT」の中で、一人称の「僕」と、主要な二人の人物が交わす会話は、とても興味深いものでした。死をどのようにとらえるのか。生きるとは何か。自ら死を選ぼうとしていた時期があるので、正直、少しつらい部分がありました。けれど、向き合わなければなりません。
   *

 314ページに、共感できる言葉があったのですが、その直後のセリフに笑ってしまったので、付箋を貼るのを控えました。自分の思考回路がよく分かりません…。
 異例の長さの紹介になってしまったと思います。ここまで読んでくださった方へ。ありがとうございます。(『MOMENT』という本についてほとんど分からなかったぞ、という声が聞こえてきそうですが…)。

ーーー
一応追記(本日9/12)
本文中、本書のタイトルを間違えていました。いままで気づきませんでした…。本日訂正いたしました。





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Last updated  2005.09.12 21:44:55
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