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2005.08.11
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フィリップ・デュ・ピュイ・ド・クランシャン『騎士道』
~白水社文庫クセジュ、1963年~

 騎士道。その制度と理念。本書は騎士道について、その起源から、消滅、形骸化した形と(比較的本来のものに近い)理念の存続を扱っています。騎士道といえば中世(特に11世紀から)ですが、本書は、その起源を扱うところではローマ起源説、アラビア起源説にふれ、さらに終章では現代までを扱っています。幅広い視野で見ることで、中世における騎士道の意義が浮き彫りになっていると言えるでしょう。
 本書の簡単な目次は次の通りです。

序論
第一章 騎士制度の誕生
第二章 花咲ける騎士道
第三章 騎士制度の衰頽
第四章 現代の似而非騎士道


 仙台にいた頃に、(授業の)プレゼンの仕方について、まずそこで話す内容-項目が三つあるなら三つ-を挙げ、それからそれぞれの説明に入るのが良い、と教わりました。意識はしているのですが、私はなかなかうまくいきません…。ともあれ、本書は、まさにそういう構成をしており、実際とても分かりやすいのです。授業でずいぶんレジュメを作りましたが、こういう構成だとレジュメ作りも簡単だろうと思いました(笑)。

 序論では、騎士道の事実について知る手掛かりとしては、(a)騎士叙任式典礼定式書、(b)武勲詩と宮廷風騎士道物語、の二つしかないと指摘されます。著者は、騎士制度について詳しく知られていないと問題提起をし、その後の章で、騎士道の実態を描こうとしています。
 第一章から第三章は、中世における騎士道の誕生と衰頽(消滅)について論じています。中世騎士道に関する概説的知識を得るには、うってつけでしょう。残念ながら、本書は絶版のようですが(私は古本屋で安く購入しました)。なお、同じく文庫クセジュから、『中世フランスの騎士』という本が出ているようで、こちらは新品で購入できるようです。私は未読ですが、文庫クセジュの性格とタイトル、ネットで見た目次の構成から判断する限り、中世の騎士の概説書として参考になりそうです。
 さて、第四章がとても面白かったです。第一節「騎士道的といわれる現代の団体(オルドル)」の冒頭で、著者は次のように言っています。「もっとも真性な騎士制度は十五世紀とともに死滅した」。第一節では、勲章などが扱われますが、これらはうわべは騎士道的であっても、形骸化したものにすぎない、という論です。第二節「空想的ないし詐欺的ないわゆる騎士団」では、騎士道理念をうたい、騎士団を自称する団体を徹底的にこきおろしています。こうした著者の皮肉を、第三節「騎士道精神の存続」からいくつか例示しましょう。ここで、まず著者は、「王公や君主が、おのれに奉仕する者をさらに縛りつけようとして、昨日も今日もばらまいている勲章の、みだりに騎士の名をつけた佩用者の群のなかに、昔の騎士道は生きていない」と言います。痛烈ですね。しかし、騎士道精神が生きている運動が二つあると言います。それは、スポーツとボーイスカウトです。ところが、スポーツについて論じる際、著者の口調はやはり皮肉に満ちています。その小見出しは、「スポーツにあらわれる錯覚的騎士道」なのですが、ここからもスポーツへの著者の態度はうかがえます。本文から例をあげます。「試合の公正さという点では、ボクシング(中略)を除いては、見つからなければ反則をやってもかまわないのだ。スポーツの新聞や雑誌を見ればすぐわかる」。さらに著者は続けます。「では、騎士道の姿を伝えようとする国境を越えた友愛精神はどうか。国際スポーツ大会となるときまって低級なナショナリズムがわきかえるのを見さえすればよい。友愛精神など薬にもしたくないのだ」
 お世話になっている先生から、どういう構成・文体をお手本にしたいか、そういう観点からも論文、本を読みなさい、とご教示いただいたのですが、本書はまさに、見習いたいと思うものでした。分かりやすい構成、文体。がんばっていきたいものです。

*さきほどこの記事を書いていたら、とつぜん電源が切れてしまいました…。バックアップもできていなかったし、ちょっとへこみました。部の季刊誌に載せる作品や論文・レジュメなど、大切な文章を書いているときに、データが飛ぶことがないよう気をつけようと、あらためて思いました。





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Last updated  2005.08.11 22:14:16
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