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2005.10.22
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ポビーとディンガン

Ben Rice, Pobby and Dingan
~アーティストハウス~

 アシュモル・ウィリアムソンの妹、ケリーアンには、「特別な人にしか見えない」友達がいた。ポビーとディンガン。アシュモルも、父のレックスも二人の存在を信じていなかった。
 レックスは、鉱山でオパールを採掘するため、家族とともにオーストラリアのライトニング・リッジにやってきた。
 ある日、レックスは、ケリーアンに、ポビーとディンガンが存在しないことを認めさせようと、ケリーアンが学校に行っている間に、鉱山に連れて行くと言い出した。
 その夜から、ケリーアンは具合が悪くなり始めた。ポビーとディンガンがいなくなった、鉱山で死んでしまったのかもしれない。彼女はそう主張し、食べなくなった。
 二人を探すために鉱山に行き、盗掘疑惑をかけられる父。日に日に衰弱していくケリーアン。二人を助けるためには、ポビーとディンガンを-あるいは、二人の死体を-見つけるしかない。少なくとも、ライトニング・リッジの人々に、二人を探すふりをしてもらうしかない。こう考えて、アシュモルは二人を「探す」ために奔走する。

(以下の感想では、多少オチに言及しています)

 アシュモルの一人称で物語は進みます。ポビーとディンガンなんてうそっぱち。ずーっとそういうスタンスで語っている彼ですが、自然と、スタンスを変えるときがくるのです。うそっぱち、架空の友達、見えない、でも、「いる」。最初は、少しぎこちなく、けれど、次第に自然と、そういうスタンスに移っていくのです。
 彼の淡々とした語り口のせいか、最初に読んだときに感動したのは覚えているのですが、今回、なかなか泣けなかったのです。はて、泣けるのかな、と思ったのですが、物語が終わりに近づくにつれて、やはり涙しました。
 ところで、人は、自分が関心を持っていることには、注意をひかれてしまうものだと思います。ある言葉を知ると(あるいは意識すると)、それから、よくその言葉に出会うようになる、だとか。なんのことはない、それ以前から当然のように存在している言葉を、意識するか、しないかの違いだと思います。で、私は中世ヨーロッパの説教について勉強を進めているわけですが、本書の最後の方でも、牧師さん(というからには、プロテスタントでしょう)のお説教があります。人々は、ありがたくその言葉を聞いていますし(少なくとも、そのように読めました)、牧師さんも、説教に対する意気込みをもっています。なにしろ、そのお説教に私も涙してしまいましたし…。先日読んだ『白い犬とワルツを』にも、説教について言及がありましたが、説教の重要性というものを感じます。
 なお、「ポビーとディンガン」は、辻村深月さんの『子どもたちは夜と遊ぶ(下)』の章題の一つとして使われています。同書の紹介のときにも、少しふれておきました。その記事は こちら です。
 ちょっと疲れてしまったとき、そんなときに読みたくなるような本ですね。
   *
 訳者あとがきによれば、本書はベン・ライス氏のデビュー作だそうです(他の作品は読んだことがないのですが…)。舞台の事情、アシュモルのある行動など、物語の背景を知るのに参考になりました。





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Last updated  2005.10.22 17:07:43
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こんばんは  
torezu  さん
日記を拝見しましたが、すごく面白そうな本ですね。
意識するかしないかの違い。わかる気がします。
私が以前行っていた教会?では、牧師さんというよりはお兄さんとお姉さんが聖書の話をしてくれましたが、私も説教は重要だと思います。
もし日本でも説教を聞く習慣があれば(仏教・キリスト教に限らず)、少年犯罪も少なくなるのでは?と思ったりもします。古本でも手に入るでしょうか?
今度探してみることにします。w (2005.10.22 22:40:08)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。こういったコメントをいただけるのは本当に嬉しいです。
いま、「楽天フリマ」にも出ていますし、私がよく行くブックオフでも見かけた覚えがあります。古本でも、手に入りやすいと思いますよ。
説教を聴きたいのですが、なかなか機会がなく…。
私も小学生の頃にキリスト教徒の方のところのクリスマス会に参加して、聖書の話などを聞いていたのですが、当時はプレゼントやお菓子にばかり気がいってしまい…。ダメなコでした(笑)
説教師のあり方も、説教にとっては大事ですよね。中世では、扇動的な説教が、ユダヤ人らの迫害のきっかけをつくったという事例もあるようですし(現代は状況が違うことは認識していますが、ある種の団体では起こりえることではないでしょうか)。
ちなみに本書の牧師さんは登場シーンでビールをぐいぐいしていて、大丈夫かいなと思いましたが、説教の場面はよかったです。
とまれ、本書の主題は、「目に見えない大切な人たち」です。機会があれば、ぜひ読んでみてください。 (2005.10.23 07:41:32)

こんばんは  
torezu  さん
記事をアップしたので、TBさせて頂きました。w
古本で見つけて即購入しましたが、独特の雰囲気を持つお話ですね。牧師さんのお葬式での説教やケリーアンが死ぬまで笑顔だったという場面は、ジーンときました。このお兄さんは何だか以前読んだ「チョコレートアンダーグラウンド」の主人公のような勇ましさを感じました。妹のために奔走するお兄さんは、本当に素敵なお兄さんでした…w (2005.10.28 21:21:01)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
トラックバックにコメント、ありがとうございました。
最初は妹を小ばかにしたような態度をみせていたのに、妹を思うだけでなく、自然と「見えない友達」も受け入れていく…。受け入れてくれない町の人々にも負けず、二人を探してください、と探し回る彼は、たしかにかっこよいですね。
いま大学にいて手元に本書がないのですが、ケリーアンの笑顔について、また読み返してみます。
書き込んだコメントが編集できたらいいのになぁ、とつくづく思った午前中でした…。
それでは、失礼します。 (2005.10.28 22:40:04)

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