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2008.01.24
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筒井康隆『日本列島七曲り』
~角川文庫、1975年~

 11編の短編が収録されています。下ネタのしょうもない話(それでいて社会風刺の感もあるのがすごい)からホラーから、バラエティに富んだ一冊です。

「誘拐横町」 「融合家族」 は、最初の設定が面白いのですが、あれよあれよと変な方向に進んでいくのがまた良かったです。前者は、Aさんが親しい人(Bさん)に子どもを誘拐(?)され、お金を工面するために自分も親しい人(Cさん)の子どもを誘拐して、Cさんもまた…と連鎖していくお話。後者は、同じ土地に二つの夫婦が家を建てたため、相手の寝室が自分の台所であるような、奇妙な家ができてしまい、二組の夫婦はそれでもそこで相手を無視して暮らしている、というお話です。
「陰悩録」 は、最近はこれが表題作なった本もあるかと思うのですが、それでタイトルは知っていました。しょうもない下ネタと思わせながら、どきっとする部分があり、やられました。
「奇ッ怪陋劣潜望鏡」 は、性を抑圧されていた男女が結ばれたとき、彼らが潜望鏡に見られるようになる、という話。行為を覗かれるところからはじまり、日常の中にも潜望鏡がどんどん出現するという、どこかホラーテイストもあるように思いました。
「郵性省」 …自慰行為をしてテレポーテーションするというとんでもない設定だけは聞いたことがあったのですが、これは笑えました。馬鹿馬鹿しい話はそれはそれで面白いのですが、これが真面目に(?)マスコミや政治の風刺になっていたり、その風刺の部分も楽しかったです。しょうもない話もここまでいくとすごいですね。
 表題作の 「日本列島七曲り」
「桃太郎輪廻」 もインパクトのある話でした。川に尻が流れてきて、その尻から生まれた桃太郎は、義母に貞操を奪われるのを避けるべく、観念的な場所たる鬼ヶ島へ向かいます。この中では、他の昔話もどんどん混じってきます。面白かった一節を引用しておきます(文字色は反転で)。


「大判小判を掘り出して、何になる」と、桃太郎はいった。「お前、自分の生き甲斐を見つけるつもりはないのか。おれはこれから鬼ヶ島へ行くつもりだが、もし無駄に生きていると思うなら、ついてきてもいいぜ」。
「そうだな」犬はしばらく考えてから、ゆっくりとうなずいた。「ついて行こう」


 次の、猿と出会うときの猿との会話も面白いです。ちなみに、あらゆる登場人物や彼らの行動は、すべて観念的に読まなければならないようです。そう考えると、たとえば上の引用部分もなんだか深いですね。
 ただのパロディかと思いきや、うまい設定もあり、面白い短編でした。
「わが名はイサミ」 イサムと呼ばれて腹を立てたり、自分が一番じゃないと嫌がる近藤勇の話。日本史に疎いのでなんともいえません…。
「公害浦島覗機関(たいむすりっぷのぞきからくり)」 公害を風刺した一編。どこか島田荘司さんの展開しておられる都市論・日本人論を連想する記述もあり、興味深かったです。
「二人の秘書」 は、労働組合などの風刺といえるのでしょうか。興味深いです。
 最後に収録されている 「テレビ譫妄症」 は、ホラーテイストの作品。テレビを長時間観ていたテレビ評論家の下半身がある日とつぜん麻痺し、さらに様々な症状に襲われるという話。明らかにそれがあまり良くないことと分かっていても続けてしまう、人間のあり方の風刺にもなっていて面白いです。

ーーー
 というんで、全体的に面白い短編が多くて、満足の一冊でした。いろんな意味で、なんでこんな話を書けるのだろうと思わされる作品が多いですが、そんな筒井さんの作品にはまってしまっています。
(2008年1月22日読了)


*なんだか楽天の禁止ワードにまたひっかかる言葉があったようで…。やわらかい言葉を選んだつもりでもこれでは、小説の感想も書きにくいですね。いわゆる有害サイト規制のためには仕方ないのでしょうから、こちらがなんとかするしかないのでしょうけれど。





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Last updated  2008.01.24 06:50:54
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