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2008.04.13
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Michel Pastoureau, "Arthur, Lancelot, Perceval et autres"
Figures et Couleurs : Etude sur la symbolique et la sensibilite medievales , Paris, 1986, pp. 177-182.

 ミシェル・パストゥローの初期論文集 『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』 所収の論文「アルテュール、ランスロ、ペルスヴァル、その他の英雄」を読んでみました(人名表記はフランス語風に)。
 アーサー王伝説など、中世に流行した物語の中の人名が、現実の人々によってどれだけ採用されたかを、印章の銘を史料として分析している論文です。

 ロマン主義の時代には、ゲーテの作品からとったウェルテル、シャトーブリアンの作品からとったルネといった名前が流行したそうですが、このような流行は中世にも見られる、というところから論文がはじまります。
 13世紀半ばから、フランス、イングランド、イタリアなど、ヨーロッパ各地で、人々はゴーウェン、トリスタン、ランスロなどの名前をもつようになります。
 12-13世紀、円卓の騎士の物語は貴族階層の人々に読み聞かれるようになります。ところが興味深いのは、貴族階層だけでなく、そうした物語を聞く機会もなかったような人々でさえ、先に挙げたような文学上の英雄の名前をもつようになるといいます。



 まず、年代的には、13世紀末と、14世紀の最後の三半期に、こうした名前がもっとも流行したそうです。もっとも、その時期の印章にそれらの名前が見られるということですので、実際に所有者が生まれ、名付けられた時期はそれより前になるということに注意する必要があります。

 地理的には、史料の分布の偏りということもありますが、ピカルディーやボーヴェで最も多く、フランドル、パリなどが続きます。

 名前の流行を見ると、フランスで最も多いのはトリスタン、イングランドではゴーウェン、イタリアではランスロなどとなります。また、物語上の女性の名前が見られる例はごくわずかで、イズーという名前が3件確認できたのみだそうです。

 あらゆる社会階層でこうした名前が採用されたのですが、中でも小貴族と「ブルジョワジー」が、もっとも意識的に自分たちを飾ろうとしていたというのが興味深いです。
 両者が英雄の名前を採用した理由には違いがあります。
 小貴族は、後期中世には失墜していた威厳を少しでも保つために、「ブルジョワジー」は、貴族的な文化、階層に入っていくために、これらの名前を採用した、と氏はいいます。

 論文の最後の方では、いくつかの問題提起がなされます。姓(家系)の問題をはじめ、洗礼名については、いかに、だれによって、なぜ、その名前が選ばれるのか、その名前をつけられた人は、その名前をいかに受け入れ、あるいは拒むのか、他者はその名前をどう感じるのか…、といった問題です。

ーーー
 私は、まだアーサー王伝説をはじめ、中世ヨーロッパの物語をほとんど読んだことがないので、論文の中に出てくる名前も、聞いたことはあるものの、ぴんとこないまま読み進めました。『トリスタン・イズー物語』(岩波文庫)は読んでいますが、ほとんど覚えていませんし…。

 とはいえ、中世の人名に関する論文ということで、興味深く読みました。

 なお、日本では、宮松浩憲先生が、西洋中世の人々のあだ名について研究を進めておられます。最近の論文はまだ読んでいないのですが、私が読んでいるのは次の二つの文献です。


宮松浩憲『金持ちの誕生-中世ヨーロッパの人と心性-』刀水書房、2004年

 宮松先生の最近の論文「セーヌ川を飲み干す―中世フランスの人名と心思」もぜひ読んでみたいです。
(2008/04/12読了)





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Last updated  2008.07.12 17:43:57
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