のぽねこミステリ館

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2017.06.10
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~知泉書館、2016年~


 石坂尚武先生は同志社大学教授で、本書のテーマである説教例話の研究や、近年では黒死病の史料研究を精力的に進めていらっしゃいます。
 私の手元にある論文として、
「14世紀黒死病時代の説教例話集―13世紀例話と中世カトリシズムの伝統から見る―」
『人文学』171、2002年、75-127頁
 があります。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
凡例
略記


第I部 序論
 一 キリスト教と「改悛」
 二 パッサヴァンティの例話集の書かれた背景
 三 例話とパッサヴァンティの作品
 四 パッサヴァンティの生涯
 付記
第II部 パッサヴァンティ『真の改悛の鑑』(全49話)
第III部 カヴァルカ例話選集
おわりに―中近世人の心性を把握するポイント―

初出一覧
解説注


 13世紀頃から、教会や屋外で説教師が担った説教の中に、説教の話を分かりやすくするため、イソップ寓話や聖人伝などの文献や、説教師が他の人から聞いた(という態をとった)話を元にした、例話というものが挿入されるようになりました。例話は、聖職者や君主、農民、女性など、「民衆」の生活や心性がうかがえる史料として注目されています。本書はまさに、正式名称を「説教者修道会」というドミニコ会に属していたパッサヴァンティの49の例話と、同じくドミニコ会士のカヴァルカの例話集から抜粋した3話の翻訳を提示し、その例話に関連して、時代背景や心性を分析するという試みです。

 私が勉強してきたジャック・ド・ヴィトリの例話には、イソップ寓話などから題材をとった動物譚も多いですが、パッサヴァンティの『真の改悛の鑑』には、ほぼ動物譚はないようです。改悛をテーマにしているので、人間たちの具体的な悪事や改悛の効果などが主に描かれています。

 個々の例話が面白いのはもちろん、それぞれの例話に付された詳細なコメントも魅力です(コメントは、改悛の効果、聖人のとりなし、幽霊、などなど、大変多岐にわたります。例話のタイトルを示した目次の次に、コメントの見出しも示した細目次が掲載されているのが親切です)。

 面白かったのは、例話への「つっこみ」(?)もあること。特に印象的だったのは、こんな話へのコメントです。一人の学生が、自分の犯した悪事が恥ずかしくて告解に行けませんでした。彼はある修道院長のもとに告解に行き、告解をしようとしますが、涙があふれて言葉が出ません。そこで紙に自分の罪を書き、修道院長に読んでもらいます。修道院長はあまりの内容に、大修道院長に相談をし、紙を見せます。大修道院長が読もうとしますが、紙には何も書かれていない。それは、神が、心から改悛したことから生まれる効力をかたちで示したのだ、という例話です。この話への石坂先生のコメントとして、「修道院長がうっかり間違えて、別の紙を渡してしまったのでなければいいのだが」(359頁)。思わず笑ってしまいました。

 コメントの分析も深いのですが、一方でこのようにユーモアにあふれていて、文章もとても読みやすいです。また、石坂先生自身が撮影されたという写真も豊富に掲載されていて、それらを眺めるのも楽しいです。



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Last updated  2017.06.10 07:48:40
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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