池上俊一『公共善の彼方に―後期中世シエナの世界―』
~名古屋大学出版会、 2014 年~
池上先生の博士論文です。
シエナについては、既に新書が刊行されています ( 池上俊一『シエナ―夢見るゴシック都市』中公新書、2001年 )が、本書は膨大な研究文献はもちろん、刊行史料や未刊行史料も駆使した重厚な著作となっています。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序 章
第1章 行政上の地理区分と市民
第2章 さまざまな仲間団体
第3章 噂と評判の世界―裁判記録から
第4章 社会関係の結節点
第5章 イメージの媒介力
終 章 新たな公共善へ―後期中世都市の世界
あとがき
註
文献目録
シエナ市街図
図版一覧
索引
―――
全体で約 600
頁、中世後期シエナについて多角的に論じた重厚な研究書です。テーマも多岐に渡るため、簡単にメモしておきます。
序章は、シエナ市庁舎内にあるアンブロージョ・ロレンツェッティという画家による有名な絵「善政と悪政の寓意と効果」の解読を行うとともに、中世後期シエナの政治史の動向、ソシアビリテ(社会的結合関係)の考察の方法論について論じます。
第1章は、都市条例を中心とする史料について紹介した上で、シエナ内の行政上の地理区分と市民の概要を描きます。マルジノー(周縁人)として娼婦、奴隷、ユダヤ人を挙げて紹介している部分について、興味深く読みました。
第2章は、本論が約 170
頁に及ぶ、本書の中心となる章です。家族・親族組織、職業団体、遊興集団、霊的な絆で結ばれた人々の4つの節からなります。職業団体では規約の丹念な分析を、霊的な絆で結ばれた人々ではサンタ・マリア・デッラ・スカラ施療院についての詳細な叙述などを、特に興味深く読みました。
第3章は最も面白く読んだ章です。シエナにおける犯罪の傾向などの概論ののち、具体的な一つの裁判を例にとり、噂が持っていた重要性を浮き彫りにします。ここでは、色々な罵詈雑言が紹介されているのも面白いです。
第4章は、第1章で論じた場所や、第2章で論じた様々な人間関係をリンクされる論述となっています。中心にあるカンポ広場を挟んで、市庁舎と商館があることの意味、市門や泉が果たした役割など、興味深いテーマが満載です。
第5章も、第3章同様に興味深く読んだ章です。シエナを象徴する、水と血、聖母マリア、狼の3つの観点から、中世後期シエナの人々が抱いたイメージについて分析します。
私はイタリア史を専門にしていませんが、一つの都市について徹底的に多面的に分析する本書の方法論からは、学ぶところ大でした。
なお、本書については、大黒俊二先生による書評(『史学雑誌』 128-2
、 2019
年、 84-90
頁)があります。
(2020.01.25 読了 )
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