佐藤真一『ヨーロッパ史学史―探究の軌跡―』
~知泉書館、 2009
年~
著者の佐藤真一先生は国立音楽大学教授(本書刊行当時。現在名誉教授)。ドイツ近代史、ヨーロッパ史学史を専門にされています。
―――
I 古代ギリシアの歴史叙述
概観
1 歴史叙述の誕生―ヘロドトス
2 批判的歴史叙述の追求―ツキディデス
3 問題意識と歴史家の条件―ポリュビオス
II
キリスト教の歴史観
概観
1 「時の中心」と救済史―ルカ
2 「神の国」と「地の国」―アウグスティヌス
III
近代歴史学の形成
概観
1 現実政治と歴史叙述の世俗化―マキァヴェッリ
2 宗派時代の教会史叙述―フラキウスとバロニウス
3 「博識の時代」における史料の収集と批判―マビヨン
4 啓蒙の世紀と救済史観の排除―ヴォルテール
5 近代歴史学の基礎づけ―ランケ
IV
第一次世界大戦後の歴史学
概観
1 第一次世界大戦と国家理性の行方―マイネッケ
2 アナール学派と「心性史」―マルク・ブロック
あとがき
参考文献
索引
―――
ヨーロッパ史学史を大きく4つの段階に分け(4つの部に対応)、それぞれの概観と、代表的な歴史家の具体的な検討から論じていきます。
注はありませんが、原典の引用が豊富で、引用に際しては該当ページも明示されています。また章ごとに参考文献も示されています。
本論全 12
章ですが、それぞれについて簡単にメモ。
ヘロドトス…個人の問いかけからの研究;異民族への文化や習俗に対する公平な態度。
トゥキディデス…ヘロドトスへの批判(超自然的な説明の排除)
ポリュビオス…「普遍史」という新しい視野;個々のものの相互の関連付け
第2部第1章でルカを扱っていること(彼の人物同定…結論は出ていないが研究史を踏まえ可能性を示唆;福音書と使徒言行録の著者としてのルカ;同時代の歴史への言及)
アウグスティヌス…ギリシア的な「循環史観」とは異なる歴史観=歴史的出来事の一回性
マキャヴェッリについては、その『君主論』での極端な議論が生まれた歴史的背景への言及。また、彼を批判した後のプロイセン王フリードリヒが、結局「「目的のためには手段を選ばない」、まさにマキャヴェッリズムの立場」 (132
頁 )
をとるに至ったという指摘。
フラキウスとバロニウスは宗教改革と反宗教改革の立場からの歴史叙述。
マビヨンについては、最近紹介した 佐藤彰一『歴史探究のヨーロッパ―修道制を駆逐する啓蒙主義―』(中公新書、 2019
年)
、 79-119
頁でも詳細な経歴や業績などが紹介されています。本書では文書の真偽判断についての具体的な事例が紹介されます。
ヴォルテール…その『風俗試論』では、「最古の文化発生地と考えられた中国から叙述を始めて」いることや、「軍事・政治よりも社会や文化の諸相への注目、中国や日本にまで及ぶヨーロッパ以外の諸外国・諸民族に対するまなざし」の指摘。
ランケ…救済史観に基づく歴史叙述と歴史学の区分、綿密な史料批判、「個性」と「発展」という新しい歴史意識の結びつきによる近代歴史学の確立( 239
頁)。
マイネッケ…第一次世界大戦への関わり、大戦を通じての叙述の変化。
ブロック… 二宮宏之
、 キャロル・フィンク
の著作の記事も参照。
佐藤先生ご自身も書いていらっしゃいますが、他にも有名な歴史家は多くいます。あえて、これらの歴史家を選んだことに先生の立場も示されていることでしょうし、また同時に、たしかに一定の方向性は示されているように思われました。
ずっと気になっていた一冊なので、この度通読できて良かったです。
(2021.04.17 読了 )
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