渡辺節夫『フランスの中世社会―王と貴族たちの軌跡―』
~吉川弘文館、 2006
年~
著者の渡辺節夫先生は青山学院大学文学部名誉教授。主著として、私の手元には『フランス中世政治権力構造の研究』東京大学出版会、 1992
本書は、渡辺先生の業績を一般向けに比較的分かりやすくまとめた一冊です。(あとがきによれば、西洋史関係の講義ノートを整理したもの、とのこと。)
本書の構成は次のとおりです。
―――
ヨーロッパ史の中のフランス中世―プロローグ
[
第1章 ]
中世社会の構造的特質
[
第2章 ]
貴族の世界と民衆・教会
[
第3章 ]
王権による統合とその基盤
[
第4章 ]
王の権威の源泉
[
第5章 ]
王権イデオロギーの強化と儀礼
[
第6章 ]
王権の拡大と貴族層の対応
あとがき
参考文献
図版出典一覧
―――
プロローグで明確にされる本書の立場は次のとおりです。すなわち、中世ヨーロッパを基本的に「貴族=領主制の時代」とする前提に立ち、王権が次第に拡大・強化され、「封建王制」が形成される過程に力点が置かれます。
第1章は前半で中世という歴史区分の問題などを論じたのち、「中世社会の基本構造」として封建制の概観を示します。 19
頁に示される中世の社会構造(模式図)は興味深いです。
第2章では、騎士層の概観(階層、親族構成など)、貴族支配と都市・農村の関係、教会との関係、十字軍などの宗教運動との関係の大きく4つの節で議論を展開します。個人的には、中世盛期フランスの教区の構成が示されている部分が勉強になりました。
第3章は王権の拡大過程に焦点を当てます。後述しますが、地方役人に関する部分は勉強したいと思っていた部分で、たいへん参考になりました。
第4章は王の権威の源泉ということで、王権の象徴的な面についての議論です。血統、キリスト教的権威の源泉など、こちらも興味深く読みました。王の聖別がランス大司教座聖堂で行われるのが固定されはじめるのは、 1027
年のこと。そして、サン・ドニ修道院は王の墓所としてよく知られます。
第5章・第6章は主に中世後期の王権の過程を論じます。「皇帝」概念との関係や、葬送儀礼など、興味深い話題がいくつもあります。
私は主に教会史や修道院の歴史(あるいはいわゆる社会史)の領域に関する文献を主に読んできていて、政治史には弱いので、本書で比較的平易に概要が得られるのは大変ありがたかったです。(いつか『フランス中世政治権力構造の研究』に挑戦する足掛かりにもなりそうです。)
特に、バイイ、セネシャル、プレヴォといった地方統治の役人のことがよくわかっていなかったので、その概要が得られたのは貴重でした。
(2021.05.29 読了 )
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