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2022.01.19
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小川幸司(責任編集)『岩波講座 世界歴史 01  世界史とは何か』
~岩波書店、 2021 年~

 岩波講座 世界歴史シリーズの第3期全 24 2021 年から始まりました(第2期から四半世紀を経ての最新シリーズです)。
 本書はその第1回配本にして第1巻。個別の地域・時代ではなく、世界史実践の様々な諸相を論じます。
 本シリーズは大きく、対象地域・時代の通史や概観を描く「展望」、通史・概観の中で特に大きな問題となるテーマについて掘り下げる「問題群」、個別的なテーマの考察により時代像を補完する「焦点」の3つの部からなり、適宜コラムが配置されています。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
<展望>
小川幸司「<私たち>の世界史へ」
コラム 後藤真「デジタル技術を活用した歴史研究の展開」
<問題群>
佐藤正幸「人は歴史的時間をいかに構築してきたか」
西山暁義「世界史のなかで変動する地域と生活世界」
コラム 吉嶺茂樹「「民族共生象徴空間」と高校「世界史」―『ウポポイ』 upopoi (原意:「歌うこと」)」
長谷川貴彦「現代歴史学と世界史認識」
<焦点>
三成美保「ジェンダー史の意義と可能性」
コラム 川島啓一「対話で学ぶ世界史の実践」
粟屋利江「「サバルタン・スタディーズ」と歴史研究・叙述」
金沢謙太郎「環境社会学の視点からみる世界史―先住者の生活戦略から探る持続可能な社会」
飯島渉「「感染症の歴史学」と世界史―パンデミックとエンデミック」
吉岡潤「ヨーロッパの歴史認識をめぐる対立と相互理解」
コラム 三沢亜紀「世代を越えた問いに向き合う―満蒙開拓平和祈念館」
笠原十九司「東アジアの歴史認識対立と対話への道」
勝山元照「新しい世界史教育として「歴史総合」を創る―「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」歴史学習への転換」
コラム 池尻良平「教育工学からみた歴史学習の未来」、 325-326
―――

 内容が多岐にわたるため、<展望>と<問題群>について簡単にメモ。
 小川論文は、東日本大震災を経験した消防士の回顧から始まり、「世界史実践」の説明につなげていきます。本稿の中では、家永三郎氏の教育論(教育=子どもたちの「可能性を花として開かせる」営み≠「時の権力がその権力の欲するような人間像を造り出す政治的目的のための手段」が紹介されており、興味深かったです( 48 頁)。その他、本書全体を概観する位置づけとして、古代から現代までの世界史実践の通史や、ジェンダー史など新たな研究動向の概観も見通せるので有用です。
 佐藤論文では、紀年法の歴史や地域差が論じられます。ここでは、世界で使われてきた紀年法を、「直線型」(過去・未来の両方に無限に延びる=キリスト教紀年法のみ)、「線分型」(始まりと終わりがある=元号、年号など)、「半直線型」(始まりはあるが未来に無限に延びる=ローマ建国紀年など)の3つに分類し整理しているのが興味深いです( 94 頁)。
 続く西山論文は、時間に対して地域・地域史に関する論考です。本章では、「幻想国境」論(ポーランドなどのように国境線が何度も書き換えられる中で、過去の国境線がどのように人々の空間的な認識や行動を規定しているかを主題とする)の紹介が勉強になりました( 124 - )。
 長谷川論文は社会史→言語論的転回・文化論的転回→空間論的転回・時間論的転回という、現代歴史学を特徴づける潮流を簡明に整理しています。個人的に関心の強い分野なので特に興味深く読みました。
 メモは省略しますが、<焦点>の各論文やコラムも興味深く読みました。
 ただ1点、勝山論文が論じる「歴史総合」についてメモしておきます。高校での歴史教育は、従来の「世界史A」又は「世界史B」にかわり、近現代を中心として「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」ことを目的とする「歴史総合」が必修化されます。勝山論文では、その際の実践事例を紹介しており、「歴史総合」必修化自体にあまり批判的な論調ではありません。一方、従来の記憶偏重自体の是非はともかく、高校で世界史を一通り通史的に学ぶことができたという「強み」を、すなわち前近代の世界史教育を切り捨ててしまい(従来の「世界史B」にあたる「世界史探求」は選択制)、さらに中学校での教育と重複的な取り組みになってしまうことへの批判を強く主張する論文として、たとえば津田拓郎・コンラート フレンツェル「日独の中等教育課程における歴史教育の現状と課題」『史流』 48 2021 年、 59-84 頁(北海道教育大学学術リポジトリからPDFダウンロード可能)がありますので、紹介します。

 西洋中世史の勉強に特化しているので、このように「世界史」を概観する書物に触れるのは久々で、良い刺激になりました。このシリーズは今後も(できればすべて。せめて西洋史関係だけでも)追いかけていきたいと思います。

(2022.01.01 読了 )

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Last updated  2022.01.19 22:18:17
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