西洋中世学会『西洋中世研究』 1
~知泉書館、 2009
年~
2009
―――
佐藤彰一「巻頭言」
【特集】 21
世紀の西洋中世学
<基調講演>
樺山紘一「中世はいかにして発明されたか」
<報告>
甚野尚志「十二世紀ルネサンスの精神―「十二世紀ルネサンス」を真に再考するために―」
久木田直江「中世末の霊性と病の治療―ランカスター公ヘンリーの『聖なる治癒の書』―」
那須輝彦「中世音楽研究―その足跡と現状―」
鼓みどり「 21
世紀の西洋中世美術史研究」
山内志朗「中世哲学と情念論の系譜」
【論文】
足立孝「 9-11
世紀ウルジェイ司教座聖堂教会文書の生成論―司教座文書からイエ文書へ、イエ文書から司教座文書へ―」
平井真希子「カリクストゥス写本の楽譜史料―ポリフォニー写譜者と緑の線―」
今井澄子「 15
世紀フランドル絵画における祈禱者とヴィジョン―中世末期のキリスト教社会におけるイメージの役割をめぐる一考察―」
徳永聡子「修道女と書物―サイオン修道院の書き込み本について―」
山本芳久「西洋中世哲学の研究動向―多元化の現状と今後の課題―」
梶原洋一「若手による「西洋中世学会若手セミナー」報告記」
金沢百枝「生命の泉に集う鳥たち―学会ロゴについて―」
―――
特集は同年6月に開催された学会での報告をもとにしています。どの報告も大変興味深く拝聴したのを覚えています。
さて、冒頭の樺山基調講演は、「中世」とは相対的で「発明」された概念であり、その形成史を念頭に置いておく必要性を説きます。
甚野報告は 12
世紀ルネサンスという概念を、古代への距離感の欠如が本質であり、いわゆる 15
世紀の「ルネサンス」とは異なり「刷新」と呼ぶべきと説きます。
久木田報告はランカスター公ヘンリー『聖なる治癒の書』を取り上げ、文学、宗教、医学の接点を探ります。同書に、中世における解剖や、精神病治療法など、医学的な知見と宗教的な記述がないまぜになっていることが示されます。
那須報告は中世音楽の復元の困難性を説きます。様々な中世の楽譜が示されているのも興味深いです。(学会で実際に音楽を流してくださったのが印象的でした。)
鼓報告は中世美術史の研究史を簡明に提示します。様々な展覧会やそのカタログ、近年の日本での研究業績の提示など、貴重な文献目録となっています。
山内報告は哲学の観点からの報告。トマス・アクィナスを中心に情念論について分析します。
論文は5本。足立論文はオリジナル文書が多く伝来しているという特徴のあるウルジェイ司教座聖堂教会文書を取り上げ、贈与、売却、交換、遺言状といった文書がどのように作成され伝来してきたかを論じます。
平井論文はモノフォニーとポリフォニーの2つの楽譜が記された写本を取り上げ、両者が別の写譜生が異なるものの、前者に後者の写譜生が書き加えたと思われる一本の線に着目し、ポリフォニー筆写の際にモノフォニーが参照されていた可能性を指摘します。
今井論文は初期フランドル絵画に特徴的な祈禱者(寄進者)と聖人が同一の空間に描かれるという絵画に着目し、聖人がヴィジョンであることを示すため、両者の視線が交わらないような工夫がなされていることを示す興味深い論考。
徳永論文は修道女図書室に所蔵されていた書物を取り上げ、修道女による書き込みや書物の種類(言語、写本か印刷本かなど)などに着目し、修道女と書物の関係を論じます。
山本論文は近年の「西洋中世哲学」研究が、イスラーム哲学やユダヤ哲学などと不可分であるという点で「西洋」を越え、古代や近代の哲学との連続性や影響関係の重要性から「中世」を越え、神学や論理学との関係性から「哲学」を越え、多元化しているという状況を示す研究動向を論じます。
久々に読み返しましたが、学会発足当時の感動を思い出します。
(2022.01.21 読了 )
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