本多孝好『 MISSING
』
~双葉社、 1999
年~
本多孝好さんのデビュー短編集です。本書所収の「眠りの海」は、第 16
回小説推理新人賞受賞作で、本書には加えて4編の短編が収録されています。
それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。
「眠りの海」
自殺に失敗した私の前に、一人の少年が現れます。私はなりゆきで、その経緯を少年に語ります。教員だった私は、一人の女子生徒を保護することになりました。しかしある夜、事故で彼女を死なせてしまいます。少年はしかし、その事故の裏にある事情を推理し、私に現実を突きつけます。
*
謎解きが鮮やかだけでなく、主人公の過去と少年の関りなど、様々な人のつながりで、深みを感じる物語です。
妹の友人の「幽霊ちゃん」は、幼い頃に事故で亡くした妹の名を名乗り、妹になりきって生きていました。ある日、妹とともに招かれ、幽霊ちゃん一家と食事した僕は、彼女の両親に対する悪意を感じ取ります。そして、幽霊ちゃんが妹のふりを続ける事情と、過去の事故にとある解釈を与えることになります。
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主人公の妹さんのつらい過去と、幽霊ちゃんの過去。苦しい過去を抱える二人がリンクし、つらい気持ちになる真相(と思われる物語)でした。
「蝉の証」
祖母の暮らす老人ホームを訪れた僕は、同じ老人ホームの相川さんの様子が変わってしまったので、原因を探ってほしいと頼まれます。派手な姿の男性が相川さんを訪れた日から、彼の態度が変わってしまったとのことで、僕はその男性を探すところから始め、そして男性の過去と態度の変化の理由にたどりつきます。
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男性の態度の変化、そしておばあさまの最後の言葉や蝉の声と、印象的な物語でした。
「瑠璃」
堅い親戚の多い中、奔放に生きるいとこのルコちゃんにあこがれていた僕と、ルコちゃんに訪れる変化の物語です。
「彼の棲む場所」
テレビでも人気のコメンテーターとなった学者の「彼」から声をかけられ、親しかったわけでもない旧友の僕は「彼」と話をします。同級生の死の思い出から始まり、話は、僕も含めほとんどのクラスメイトから存在自体を忘れられているある少年のことにつながります。
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きっと誰もが一度は抱いたことのある、ある思いを突き詰めた物語です。「祈灯」「蝉の証」同様に印象的でした。
―――
いわゆる、がちがちの謎解きメインのミステリではなく、人の死が描かれる中でも、あえていえば「日常の謎」に近いスタイルの物語と感じました(たとえば、「祈灯」は、幽霊ちゃんの妹の死がありますが、主題はなぜ幽霊ちゃんが妹さんのふりを続けているのか、にあります)。
そして、「日常の謎」といえばあたたかい物語も多いですが、本書収録の短編は、どちらかといえば重たい物語も含め、深く、印象的な物語と感じました。
かなり前に読んでいるのですが、記事を書いていなかったので久々の再読でした。良い読書体験でした。
(2022.10.20 読了 )
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