Jenny Swanson, John of Wales. A Study of the Works and Ideas of a Thirteenth-Century Friar
, Canbridge, Cambridge University Press, 1989
フランシスコ会士ウェールズのジョン (1210/30-1285)
本書の構成は次のとおりです。(拙訳)
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謝辞
略号表
序論
1.ウェールズのジョンの経歴
2.ウェールズのジョンの著作:典拠と技術
3.『古代の君主・哲学者の美徳についての要約』 (Breviloquium de Virtutibus Antiquorum Principum et Philosophorum)
4.『コミュニロクィウム』 (Communiloquium)
第1部:国家とその構成員に関するウェールズのジョン [
の思想 ]
5.『コミュニロクィウム』 (Communiloquium)
第2~3部:世俗社会に関するウェールズのジョン [
の思想 ]
6.『コミュニロクィウム』 (Communiloquium)
第4~7部:学者と教会人に関するウェールズのジョン [
の思想 ]
7.哲学者と聖人:ウェールズのジョンの『コンペンディロクィウム』 (Compendiloquium)
と『聖人たちの知に関する要約』 (Breviloquium de Sapientia Snctorum)
8.ウェールズのジョンの著作:普及と影響
結論
付録
1.ウェールズのジョンの著作
2.ウェールズのジョンによる著作を含む写本
3.ウェールズのジョンによる個別テクストの現存するラテン語写本の数
4. 16
世紀半ばまでの、ウェールズのジョンの写本を所有していた組織及び個人のリスト
5.ウェールズのジョンによる著作の初期印刷本のチェックリスト
参考文献
索引
―――
上記構成を記すにあたり、ネット検索をしてみましたが、著作名で日本語はヒットせず…。ウェールズのジョンは日本語でもほとんど紹介されていません。管見の限りでは、赤江雄一「語的一致と葛藤する説教理論家―中世後期の説教における聖書の引用―」ヒロ・ヒライ/小澤実編『知のミクロコスモス―中世・ルネサンスのインテレクチュアル・ヒストリー―』中央公論新社、 2014
年、 14-41
頁において言及されています(上記構成のうち、3~6章の著作名は本論文の訳語を参照)。
序論は、ジョンは同じくフランシスコ会士であるボナヴェントゥーラらと同時代を生き、重要な著作を残したにも関わらず、こんにちほとんど知られていないことを指摘した上で、本書の目的は、説教手引きの文脈でジョンの著作を見ていくことだとします。
第1章は、ジョンの経歴について。彼は 1210/30
頃におそらくウェールズに生まれ、 1258
年以前にオクスフォードで学び、フランシスコ会に入会。 1270
年以前にパリで活躍、 1285
年に没したとのこと。 1257
年以降、数々の著作をあらわしており、 p.14
ではその年代と影響関係を整理した図が掲載されています。
第2章は、ジョンがその著作で多くの古典作家を引用していることを挙げ、主に引用されている典拠を概観したのち、たとえばセネカの作品がいかに用いられているかといった技術面について論じます。
第3章は、著作名のとおり古代の君主・哲学者の有徳な振る舞いを語る例話集である作品について、その特徴と内容分析を行います。なお、以下、ジョンの著作を扱う章では、典拠に関する情報(どの著者のどの作品が何度引用されているか)が提示されています。
第4章から第6章までは、ジョンの主著『コミュニロクィウム』についての詳細な分析。この著作は、聴衆の多様性を意識しており、「身分別説教集」に近いものとして Swanson
は論じています。第4章は、国家、君主、戦争、法、教会と民衆、弁護士・法律家、兵士などについて。ここでは、宮廷にまつわる7つの罪に関する議論が興味深いです。
第5章は世俗社会ということで、領主との関係(従属)、家族などを扱う著作の第2部をみたのち、第3部の内容として、性別、年齢ごとの特徴、貴族、女性などについて概観します。
第6章は同書の残りの部分として、教会の各々の位階の聖職者の果たすべき役割、学者と学生、修道生活、死について、などを扱います。
第7章で論じる著作の1つ目、『コンペンディロクィウム』は、中世キリスト教徒に教訓を与えるため、特筆すべき哲学者たちの生活と道徳的言葉を扱います。具体的な哲学者として、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ヒポクラテス、セネカなど、多数が挙げられます。2つ目の著作『聖人たちの知に関する要約』の基本テーマは、聖人たちによる美徳ある模範を提示することです。
第8章は、ジョンの著作の同時代・後世への影響を論じ、写本伝来の調査や写本所有者の同定など、綿密な研究に基づく論述です。
「身分別説教集」について勉強していることもあり、「身分別説教集」に近しい性質の著作『コミュニロクィウム』を著したウェールズのジョンに興味を持っていたので、このたびざっとですが目を通すことができて良かったです。
(2024.10.09 読了 )
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