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2025.11.01
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R・W・サザン ( 大江善男・佐藤伊久男・平田隆一・渡部治雄訳 ) 『歴史叙述のヨーロッパ的伝統』
~創文社、 1977 年~
R. W. Southern, “Aspects of the European Tradition of Historical Writing”, Transactions of the Royal Historical Society , 5th Series, vols. 20-23, 1970-1973


 リチャード・ウィリアム・サザーン ( Richard William Southern, 1912–2001 ) は、イングランド北部ニューカースル生まれ。『中世の形成』『西欧中世の社会と教会』などの邦訳書があります。
1969 年から4年間、王立歴史学会の会長をつとめたとき、各年度に講演した内容をまとめたものです。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
凡例

第1章 アインハルトからモンマスのジェフリに至る古典古代の伝統
第2章 聖ヴィクトルのフーゴーと歴史的発展の理念
第3章 預言としての歴史
第4章 過去の意味

原注
訳者あとがき
索引
―――

 第1章で、著者は、「歴史家の第一の任務は芸術作品を作成することだと言明」し、さらに「歴史家は情緒的・知的要求を満足させることを目指さなければならない」 (6 ) という自身の立場を表明します。もちろん、「利用しうるデータの制約内」 ( ) でのことと述べた上で、ではありますが。ここから、先日読んだ​ 兼岩正夫『西洋中世の歴史家』 ​の中で、イギリスの歴史叙述として、「トレヴェリアンによれば歴史は科学であるとともに芸術である」 (2 ) と指摘されているのを想起しながら読みました。
 なお、同章では、​ 『カール大帝伝』 ​を著したアインハルトについて、彼が材料を改作しているとして近代の学者が非難する中、著者は、「帝国の偉大さのイメージを呼び起こすこと」 (23 ) がアインハルトの意図だったとして、その意図の中でその作品を判定することが重要だという立場に立っていることが興味深いです。
 第2章は、サン=ヴィクトルのフーゴーの著述に見られる(歴史の)「発展」の理念を丹念に見た後、特にその歴史観を受け継いだ人物としてハーヴェルベルグのアンセルムスとフライジングのオットーに着目し、それぞれの著作の特徴を論じます。
 第3章は「預言」というキーワードで歴史叙述を見ていきます。預言の典拠として、大きく(1)聖書、(2)異教的預言(例としてシビュラとマーリン)、(3)キリスト教的預言=幻視、(4)宇宙的預言=占星、の4つを概観した後、これらを預言を研究した人物としてロジャー・ベイコン、フィオーレのヨアキム、そしてニュートンを取り上げます。
 第4章はイギリスにおける歴史研究の意味を考えるにあたり、注目すべき時代としてノルマン・コンクェスト後の歴史叙述と、 16-17 世紀の歴史叙述の2つの時代を取り上げます。前者に関しては、複数の修道院で、「征服」以前から自分たちは偉大であったこと(と征服による不当な侵略)を明らかにするという実際的な動機、後者に関しては、様々な公職を歴任したウィリアム・ラムバードに着目して、彼が自身のついた職に関する歴史を精力的に調査・公刊したことを示した上で、彼らは「自分たちが [ 過去から ] 継承したものは一体何であったかを発見するため」に記録文書を探索した、と論じます。

 タイトルから想像されるような、ヨーロッパにおける歴史叙述を通史的に論じるというよりは、歴史叙述の様々な側面に着目し、その観点ごとに意味を論じる試みであるように思われます。
 解説では、サザーンの略歴と主著、そして本書成立の契機などが紹介されていて、こちらも興味深いです。

(2025.08.15 読了 )

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Last updated  2025.11.01 12:33:19
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