Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2020/12/23
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カテゴリ: ITTETSU GALLERY
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【もう一つの成田一徹】 こんな作品も手掛けていた(1)

 バー・シーンを描いた切り絵で有名な成田一徹(1949~2012)ですが、実は、バー以外をテーマにした幅広いジャンルの切り絵も、数多く手掛けています。花、鳥、動物、職人の仕事、街の風景、庶民の暮らし、歴史、時代物(江戸情緒など)、歴史上の人物、伝統行事・習俗、生まれ故郷の神戸、小説やエッセイの挿絵、切り絵教則本のためのお手本等々。
 また、初期には切り絵以外の表現手法(油絵、水彩画、パステル画、ペン画、版画、コラージュなど)による作品にもチャレンジしています。今回、バー・シーンとは一味違った「一徹アート」の魅力を、一人でも多くの皆さんに知ってもらいたいと願って、膨大な作品群のなかから、厳選した逸品を1点ずつ紹介していこうと思います(※一部、バー関係をテーマにした作品も含まれますが、ご了承ください)。
※絵の著作権は、「Office Ittetsu」が所有しております。許可のない転載・複製や二次利用は著作権法違反であり、固くお断りいたします。


(1)自画像 (1990年代前半?)
 ※切り絵ではなく、ペン、サインペン、墨汁を使った珍しい肉筆画


(2)バーの情景 (1980年代前半)
 ※エッチング(残された作品の中では極めて数少ないエッチング版画による作品)




(3)居酒屋の情景 (1980年代前半)
 ※ペン画(絵のタッチからして竹ペンのようなもので描いたと思われる。自身のアート表現手法で試行錯誤を繰り返していた時期の作品)
 → どこの店を描いたのかが不明です。何か手掛かりをご存知の方はご教示頂ければ幸いです(手掛かり等情報がございましたら、メール<arkwez@gmail.com>で宜しくお願い致します)。





(4)北大路 魯山人 (1988年)
 ※油絵(山城新伍、宍戸開、岩井半四郎ら出演、津川雅彦・演出の舞台「幻・魯山人」のPRポスターのために制作された。一徹氏の油絵作品は極めて珍しく、現存が確認されているのはこの1点のみ)。


(5)酔いつぶれた男 (1981年)
 ※色鉛筆とクレヨンに手彩色(プロデビュー前、バー空間の表現手法を模索していた頃の作品。真上から見下ろす大胆な構図が面白い)。




(6)バーの情景(ルル) (1980年代前半)
 ※ペン画(この作品も、「切り絵」と言う表現手法にたどり着く前、様々な手法にチャレンジしていた時期の佳作)。



(7)新大陸へ (1980年代前半)  ※ペン画に手彩色
 ※トリノまさる氏との共著「ペンとカラーインクで描く」(1993年、グラフィック社・刊)で紹介する「作例」として制作したもの。





(8)女性像スケッチ  1985年  ※サインペンと黒鉛筆(デッサン用)に手彩色
 ※バー巡りをする際、一徹氏はいつも必ず、筆ペン(自著にサインを求められた時に使う)と黒のサインペン、デッサン用黒鉛筆などの筆記用具と小さなスケッチブックをカバンにしのばせていた。バーでマスターや客の求めに応じて、その場でサラサラっとその姿(顔や上半身像)をスケッチして、プレゼントした。
 この絵は誰をどのような場面で描いたのかは謎だが、結果的に、プレゼントはされずに手元に残されていた。絵の隅には、「藤子様」または「蒔子様」と読める文字と、日付(1985.5.9.)が見える。まだ独身時代。頭に手ぬぐいを「姉さん被り」した、この色っぽい着物姿の女性は誰なんだろうかと、つい想像を巡らせてしまう。





(9)デス・バレー(Death Valley 死の谷)  1980年代前半
 ※プロデビュー前によく挑戦していたエッチング版画作品。砂漠、満月(or太陽)、死にゆく恐竜、バラ…。まるでダリの絵のような不条理なテーマと構図。制作意図も含めて不思議な絵である。




(10)踊り子(連作)  1980年代前半 デッサン用黒鉛筆
 ※一徹氏は美大や美術系学校で専門教育は受けず(大阪経済大学大学院終了という"お堅い"学歴)、ほぼ独学で「切り絵」というジャンルにたどり着き、職業アーチストとなった。
 しかし基礎的なデッサン力、配色力や絵の構想力(モチーフの配置)などの不足を自覚していた本人は、プロデビュー前の80年代前半、後に自らも講師となる講談社フェーマススクールズ(絵画系アーチスト養成講座)に通い、基礎的な画力アップにつとめた。これはその頃の作品だが、後の画才の片鱗が見られるとともに、作者の優しい眼差しがとてもよく伝わってくる。





(11)バーにおける様々な情景  1980年代前半  デッサン用黒鉛筆に手彩色
 ※これもバー空間の表現手法を模索していた時期の実験的作品。バー空間で見られるであろう情景を、様々な視点(方向)から描き、それを一つの画面に集めたユニークな一作。


(12)神戸百景  1981年  ペン画
 ※一徹氏の生まれ故郷の神戸で、1981年、初めて全国規模の博覧会「ポートピア神戸」が開催された。これを記念して、神戸のタウン誌から依頼された作品。神戸にちなんだ様々な情景、人々が描かれている。なかには「鬼が松明を持つ姿」(長田神社の追儺式<ついなしき>)など一見神戸らしくないモチーフもあるが、これは何だろう? 誰だろう?と考えてみるのも面白い。


(13)ブラッサイに捧ぐスケッチ  1981年  筆ペン
 ※ブラッサイ(Brassai 本名は、ジュラ・ハラース<Gyula Halasz>1899~1984)はハンガリー出身の世界的写真家。1920~30年代、パリを拠点にして、カフェに通いながら多くの文化人とも交流し、パリの街や人びとの様々な表情をカメラでとらえた。1932年に出版された写真集「夜のパリ」は世界的ベストセラーになった。
 日本でも1977年、みすず書房から写真集「未知のパリ 深夜のパリ」として初めて紹介されたが、この本に衝撃を受けた一徹氏は、80年代前半パリを訪れた際にも、ブラッサイが撮った20~30年代のパリの面影を追った。スケッチブックには、ブラッサイが撮ったであろうパリの人々が、筆ペンで軽やかに残されている。

(14)海王丸  1980年代前半  ペン画に手彩色
 ※神戸港振興協会に勤めていた頃、一徹氏はたびたび仕事場のそばの突堤に接岸する帆船を見る機会があった。時には業務として、船員たちの接遇や船内の一般公開の手伝いにも行った。スケッチブックに残されていたこの1枚は、おそらくはそんな機会に描いたのだろう。繊細なタッチのペン画に、一徹氏はあえてセピア色の彩色を施し、まるで水墨画のような雰囲気をつくり出している。



(15)経済学者たちの肖像のための習作 (未完?) 1980年代前半 サインペン&ボールペン
 ※大学院修士課程で経済哲学を専攻したという異色の経歴を持つ一徹氏。経済哲学とはどういう学問かはよく分からないが、スケッチブックには、学ぶ対象となったのであろう学者たちの顔が描かれている。フリードリッヒ・リスト、ジョン・スチュアート・ミル、フリードリッヒ・エンゲルス(上段)、ヨーゼフ・アロス・シュンペーター、カール・マルクス(名前の表記はなし)、氏名不詳の1人(中段)、カール・メンガー、マックス・ウェーバー(名前の表記なし)、もう一人の氏名不詳の人(下段)。
 恥ずかしながら、リストとメンガーはあまり馴染みがない名前。このような難しい学問を修めた一徹氏が、なぜ専攻とは畑違いの切り絵という芸術に魅せられるようになったのか? 生前の本人に、きちんと理由を聞いておくべきだった。




(16)船長の肖像  1980年代前半  エッチング版画
 ※これもプロデビュー前の「試行錯誤」期の実験的作品。「パイプをくわえた船長さん」は好きなモチーフの一つで、プロデビュー後も、切り絵としてたびたび制作している。






(17)谷崎潤一郎と法然院  1980年代前半  コンテとクレヨン(上)、クレヨンに手彩色(下)
 ※京都市左京区の法然院と言えば、著名人のお墓が多いことでも有名。作家・谷崎潤一郎をはじめ、河上肇、九鬼周三、内藤湖南、稲垣足穂、福田平八郎らがここに眠る。一徹氏がとくに谷崎好きだったとは聞かなかったが、何らかの理由で法然院を訪れ、文豪の肖像をスケッチブックに残していた。




(18)暖炉のあるバーのスケッチ  1981年  デッサン用黒鉛筆
 ※プロ・デビュー前の80年代前半、一徹氏は「バー・カウンターに座る一人の客」というシーンをたびたび絵にした。水彩画、版画(エッチング)で、ペン画で…。様々な表現手法にチャレンジした。これは、一番素朴な素材である鉛筆画のスケッチだが、かなりしっかり描き込んでいる(この店内に暖炉のあるバーは、おそらくは神戸の「YANAGASE」をイメージしたのだろう)。
 一徹氏は最終的に、バー空間を描くのには、モノトーンの「切り絵」という手法が一番と信じるに至る。そして、彼が創り出した切り絵によるバー・シーンは多くの人たちに支持された。私たちはいま、一徹氏の残した切り絵のお蔭で「今はなきGood Bar(古き良き酒場)」の情景に思う存分浸ることができる。この幸せは「後世への財産」だと信じて伝えていきたいと、改めて思う。




(19)バー切り絵のためのスケッチ  1980年代後半  鉛筆
 ※バーの切り絵を制作する際、一徹氏は基本、以下のような手順をとった。
 (1)カメラで自分の描きたいと思う構図の写真を撮る
 (2)写真に基づいて、鉛筆で下絵のスケッチを描く
 (3)トレーシング・ペーパーにそのスケッチを写し取る
 (4)切り絵のベースとなる黒い上質紙(時には白い上質紙を)の上に、スケッチを写しとったトレーシング・ペーパーを置いて、鉛筆のラインに沿ってカッティング・ナイフで切る

 これは、スケッチブックに残されていたプロデビューした頃のバーのスケッチ。初期の頃なので、遠近図法(アイソメトリック)に忠実に、かなり丁寧に細かく描き込んでいる(後年、技術力が上がってくると、ここまで正確にはスケッチしなかった)。
 ちなみに、この絵に描かれた店(バー)はどこだろう?(一徹氏のバーの切り絵を見慣れた私には、既視感はあるのだが、なぜか名前が思いつかない)。昔の十三トリスっぽいけれど、椅子の形が違うような気もするし、顔も江川マスターの若い頃とは違うような感じ…。曽根崎の「ハイボール小路」にも似ているような気もする(それとも、今はなき「酒司にむら北店」かなぁ…)。どなたかご教示くださいませ(情報は →arkwez@gmail.comまでお願いします)。



(20)ジャックと豆の木  1980年代前半  ペン画
 ※これも「切り絵」にたどり着く前、表現手法で試行錯誤していた時期の作品。有名な寓話の有名な場面だが、単に練習用に描いたのか、何かの媒体から頼まれたのかは不明。





(21)小野寺マスター※  1980年代半ば  デッサン用鉛筆&ボールペン
  ※大阪ミナミの老舗Bar「Whiskey」と言えば、一徹氏がサラリーマン時代からお気に入りだった酒場の1軒。これは、そのBar Whiskeyの小野寺清二マスターの肖像(スケッチ)である。当初、正面から描こうとして途中でやめ、その上から、やや横向きの顔を描いている。
 一徹氏は30年以上の画業の中で、たびたびBar Whiskeyや小野寺マスターを切り絵にし、親交は終生続いた(ちなみに小野寺マスターは近年、すっかり白髪・短髪となり、ヒゲもないスタイルに変えられたので、この絵の面影はまったくない(笑))。





(22)バー情景(一人飲む男)  1980年代前半
 ※これも一徹氏がバー空間の表現手法を模索していた時期の習作。(5)と(11)で紹介した水彩画と同じ頃の作品と思われる。マスター、カウンター、そこに座って飲む男という3点セットを描いている。マスターも客も外国人風。窓から見える光景は海。どこか外国の避暑地のバーのような雰囲気が伝わってくる。





(23)ポートタワー   1980年年代前半 水彩
 ※プロデビュー前の作品で、スケッチブックに残されていた。ポートタワーは一徹氏の当時の職場(神戸港振興協会)の建物のすぐ隣にあり、としばしば絵のモチーフにもなった。この絵は水彩画だが、使う絵具の色を限定しているので、まるで水墨画のような雰囲気も感じさせる。上の(14)で紹介した「海王丸」(ペンと水彩)もタッチは少し違うが、同じような色調で描かれており、同じ時期に描かれたと思われる。





(24)ブローニュの森   1982年  筆ペンとデッサン用黒鉛筆
 ※久しぶりに切り絵以外をご紹介。一徹氏のスケッチブックには、訪れたパリの思い出が何枚か絵にとして残されているが、これもその一つ。プロデビュー以前から、筆ペンは好きな道具だったが、この時期、講談社フェーマススクールズ(後に自らも講師になった)の講座で、しばしば素描の課題をこなしていたこともあり、スケッチ力、表現力は大きく向上してきた。





(25)若い男の肖像   1980年代前半  デッサン用黒鉛筆
 ※プロデビュー前の作品。スケッチブックに遺されていた習作の一つだが、完成度は高い。パッションを感じさせる鋭い視線や、陰影のつけ方等は、後に、切り絵の中でもしばしば登場する若い男性像に発展・完成してゆく。





(26)神戸港・中突堤   1984年  デッサン用黒鉛筆&彩色
 ※プロデビュー前、サラリーマン(準公務員)として勤めていた神戸市の外郭団体「神戸港振興協会」の建物は、岸壁のすぐそばにあった。仕事の合間には、スケッチができる対象がいろいろあった。この水彩もその1枚。本人はこの頃、すでに「プロになるか、ならないかは別にして将来、(表現手法は)切り絵1本で」と決めていたので、「中突堤」と題されたこの水彩は、単なる気分転換のための習作だったのかもしれない。





(27)ケンタウロス   1980年代前半  エッチング版画
  ※プロデビュー前に、表現手法を試行錯誤していた時期の作品。ギリシャ神話にも登場する半人半獣(馬)の「ケンタウロス」を描いている。
 野心深いイクシオンという青年が神妃ヘラに欲情したので、大神ゼウスがヘラの形に似せた雲を身代わりにした所、イクシオンとその「身代わり雲」の間に生まれたのがケンタウロスという。酒が好きで好色。弓矢を持ち、凶暴という性質を持ち、「英雄に退治される側」であることが多いが、時には「騎士」として「殺す側」に回ることもある不思議な存在である。
 一徹氏はこの時期、切り絵、水彩、デッサンなどと並行して版画にもチャレンジしており、この連載の「バーの情景」「デス・ヴァレー(死の谷)」「船長の肖像」もエッチング版画。











(28)海の男たち   1980年代前半  木版画またはゴム版画?
 ※プロデビュー前の作品。原画の存在は確認されていないが、勤めていた神戸港振興協会の広報紙のために制作されたと思われる。「切り絵」とは記されておらず、印刷部分の粗さを見てみると、ひょっとしたら、現在確認されている一徹氏の作品の中では、唯一の木版画(またはゴム版画?)ではないかとも考えている。





(29)海辺のプールサイド   1980年代前半  貼り絵&切り絵
 ※プロデビュー前の、1980年代前半。まだサラリーマンだった一徹氏は、「美大卒ではない自分には、基礎的な画力、表現力、デッサン力が決定的に不足している」と痛感、講談社フェーマススクールズの通信講座で、プロの講師からデッサンや配色の基礎から画面上での素材配置、画材の使い分け術などを学び始めた。講座では年に数回、講師から直接教えてもらえるスクーリングも開催された。
 これは「夏らしい風景を、数種類の色紙を使って表現しなさい」という提出課題として制作したもの。一徹氏は、4色(種類)の紙をデザインナイフとハサミを使って切り、貼り絵の手法で制作した。カッティングや素材の配置には、後の切り絵のような味わいや雰囲気が感じられる。まさに一徹切り絵の「原点」と言えるような作品かもしれない。ここからアーチスト・成田一徹の人生(画業)が始まった。





(30)飛田の踏切   1984年頃  ペン&デッサン用黒鉛筆
 ※飛田(とびた)と言えば、大阪市内南部のディープなエリア。どういうエリアなのかは、ここでは敢えて説明を省く。これは飛田界隈の駅(飛田本通駅?)のそばの南海電鉄の天王寺支線(天王寺~天下茶屋間)の踏切を描いたスケッチ。一徹氏はかなり時間をかけて、細かく描き込んでいる。ただし、残念ながらこの支線は1993年に廃線となって、駅も今はない。
 いつ頃描かれたスケッチかは、踏切のそばに立つ映画館の看板の上映作品が決め手になった(看板の左側にある3つの作品は、それぞれ1977年<成龍拳>、1980年<土佐の一本釣り>、1984年<月の夜星の朝>の封切り公開)。





(31)レトロなビル  1980年代前半  ペン画
 ※スケッチブックに残されていた1枚の絵。ささっとペンで描いているようだが、レトロな雰囲気を巧みにとらえているのはさすがである。何かの媒体で使うために描いた絵ではなく、スケッチの練習のつもりで描いたのであろう。
 ところで、この建物はどこのビルなのだろう。神戸の居留地にある昔の銀行か何かの古いビルかと思ったが、調べても似たような表情のビルは見当たらない。一徹氏の好きだった倉敷・大原美術館の本館でもない。どなたかこのビルに心当たりがある方は、ご教示願いたい。
【追記】 友人から貴重な情報が寄せられ、このビルは大阪市北区天満橋1丁目で現存している「旧桜宮公会堂」と判明しました。旧桜宮公会堂は昭和8年(1933年)に明治天皇記念館として建設されました。ギリシャ建築風のデザインで、 竜山石造りの正面玄関は、明治4 年(1871年)に建設された造幣寮(現造幣局)の玄関を移築したものです。 国の重要文化財にも指定されています。ネット情報によれば、建物は現在、大阪府から民間企業に貸し出され、結婚式場(https://produce.novarese.jp/kyusakuranomiya-kokaido/) や宴会場、レストラン(http://restaurant.novarese.jp/smk/ )として使われています。





(32)もう1枚の自画像  2000年  ペン画
 ※一徹氏の自画像と言えば、第20回でも紹介した1990年代前半に描いたもの(下のコメント欄ご参照)が知られているが、同じような自画像で少し違うバージョンを、1枚のチラシから見つけた。カクテルグラスの形や服装(ノーネクタイ)などが違う。なお、原画は現時点では確認出来ておらず、チラシの画像も粗くきれいではない。
 この年、同業のウノ・カマキリ氏、楢喜八氏と結成していた「八・一」トリオの大阪展(11月15日~20日、道頓堀・茜屋画廊)が開催され、中日の18日に飛田「鯛よし百番」で少し早い忘年会が企画された。この自画像は忘年会を案内するチラシ(同)で使われたが、チラシのために新しく描いたのか、それとも本来は別の目的のため制作したものか、今となっては天上の一徹氏に聞くしかない。








(33)海王丸(スケッチ)  1980年代前半 筆ペン
 ※帆船とは、一徹氏にとっては格好の画材(モチーフ)だったのだろう。神戸港振興協会に勤めていた頃、職場の側にある突堤に帆船「海王丸」が来港するたび、しばしばスケッチブックを持って接遇に出かけた。第97回で紹介した海王丸のペン画(下の画像ご参照)は彩色しているが、こちらは筆ペンでさらさらっと描いたスケッチ。どちらも味わい溢れる作品に仕上がっている。







(34)窓に映る枯木と月  1980年代半ば  水彩
 ※プロデビュー前、講談社フェーマススクールズの通信教育を受けていた頃の作品。おそらく、講座の課題として制作したと思われる。少し曇り空の夜。月明かりに照らされて、木造家屋の窓ガラスに、枯木と朧げな月が映っている。板壁には、この家の年輪を感じさせるようなシミがあちこちに。側には積まれた薪も。ただ「静寂」が画面から伝わってくるような絵。水彩だが、白、黒、グレー系の色のみを使っており、まるでモノクロームの水墨画のような雰囲気も漂わせている。





(35)バッタのスケッチ  1993年  ペン画
 ※製図用の径0.1mmのペンを使った、かなり細密な絵。点描と線描を駆使して描いている。生涯、切り絵でも昆虫の絵を何枚も手掛けた一徹氏だが、ここまで細密なものは珍しい。トリノまさる氏との共著「ペンとカラーインクで描く」(グラフィック社・刊)のために、作例として描いた作品(同著の33頁に掲載)だが、1993年と言えば、すでに切り絵作家としての評価・知名度がかなり広がっていた頃。なぜ、一徹氏が(共著とは言え)このような本をつくったのかは、正直言って少し謎である。





(36)「新大陸へ」のための習作  1992年頃  ペン画に手彩色
 ※上記(7)で紹介した「新大陸へ」を制作する前に、習作としてつくった作品。(7)の絵よりはかなり横長の構図である。彩色が未完のまま終わっている理由はよく分からない。彩色ペン画にも秀でて、とても味わいある作品を残した一徹氏。私個人としては、切り絵だけでなくペン画も終生手掛け続けてほしかったと思う。



※絵の制作時期については正確に分からないものも多く、一部は「推定」であることをお含みおきください。




(37)1907年のクリケット・チーム(スケッチ)  1980年代前半  ペン画
 ※一徹氏のスケッチブックに残されていたペン画だが、何のために描いたのかはよく分からない。1907年という言葉に何か意味があるのか調べてもみたが、詳細は不明である。
 ベースボールの起源とも言われるクリケットは16世紀に英国で生まれ、17世紀、大英帝国の植民地拡大に伴って世界中に普及した。海外ではプロチームもある人気スポーツ。日本にも明治維新に伴い伝わり、外国人居留地では開港当初から、来日外国人の間で試合も盛んに行われた。
 神戸居留地でも1870年(明治3年)には外国人たちが兵庫クリケットクラブを設立。三宮の東遊園地内の公園では毎週のように試合が行われたという(このペン画もひょっとしたら、神戸外国人居留地のチームの姿かもしれない)。しかし残念ながら、日本国内では野球の方が人気スポーツとなり、今なおクリケット人口はそう多くない。









(38)海の男たちⅡ   1980年代前半   木版画?or ゴム版画?
 ※当時勤務していた神戸港振興協会の広報紙のための作品。この連載の第199回でも紹介した4作品(下のURLからリンクできます)とほぼ同じ時期に制作されたと考えられる。一徹氏の手になる原画は残っておらず、印刷媒体の資料のみが現存するが、絵のタッチからして木版画かあるいはゴム版画ではないかと思われる。のちには同じような構図のものを切り絵でも制作している。





(39)葉 脈  1993年  ペン画
 ※本日は久しぶりに切り絵ではない作品を紹介する。第279回で登場したバッタのペン画(下のコメント欄ご参照)と同様、製図用の径0.1mmのペンを使った、かなり細密な絵。点描と線描を駆使して描いている。この年出版したトリノまさる氏との共著「ペンとカラーインクで描く」(グラフィック社・刊)の「作例」のために描いた作品だが、実際には本には収録されなかった。
 前回も同じことを書いたが、1993年と言えば、すでに切り絵作家としての評価・知名度がかなり広がっていた頃。なぜ、一徹氏が(共著とは言え)このような本に関わることになったのか、少し不思議である。生前、本人に聞いておけばよかった…。







(40)月刊「神戸港」の表紙のために  1981年  ペン画に彩色

 ※今回はプロ・デビュー前の作品。職場でもあった神戸港振興協会が発行していた広報誌「神戸港 Port of KOBE」の表紙のために描いた彩色のペン画である。クリーム色を基調にした方は81年1月号、ブルーを基調にした方は同じ年の4月号(ご参照=下が実際の完成誌面)。いずれも実に細かい、手の込んだ作品だが、後年、「ほとんどノーギャラだったが、発表の場があることが嬉しかった。楽しく取り組んだよ」と語っていた。









(41)Merry Christmas!<5>はり絵のサンタ  1980年代末
 ※「クリスマス」にちなむ作品シリーズ。本日は、厳密に言えば切り絵と言うより「はり絵」かもしれない。金と銀の紙を切って黒い紙に貼り付けたもの。余白には銀文字で「Here comes Santa Claus」と。シンプルだが、おしゃれで、センスの良さがにじむ作品だと思う。これも昨日の1枚目と同じ友人の娘さんのためにクリスマスカードとして贈られた。





(42)小雪の中、歩く男  1980年代前半  デッサン用黒鉛筆&水彩
 ※クリスマスも終わって、次はお正月を待つ。全国的に雪予報が目立つ26日。強い寒気が列島を覆っている。本日紹介するのは、スケッチブックに残されていたプロデビュー前の作品。空には鉛色した雪雲。小雪が舞う中、トレンチコート姿の男が、落葉した林の方に向かって歩く後ろ姿である。モデルは誰かは分からない。上京する決意はしたものの、絵(自分の画力)だけでプロとして生きてゆく厳しさはどれ程のものか。未知の世界へ踏み込んで行こうとする自分自身を、このコート姿の男に重ねたのかどうか…。





(43)「ポートピア'81」のためのカット絵  1981年  ペン画
 ※プロデビュー前の作品。1981年3月~9月に開催された「神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)」のために制作されたペン画である。一徹氏が勤めていた神戸港振興協会の広報誌上で使用された。博覧会は「新しい“海の文化都市”の創造」をメインテーマに掲げ、神戸の人工島ポートアイランドを会場として開催。会場にはユニークなデザイン、未来的なパビリオンが数多く登場して反響を呼び、延べ約1600万人が訪れた。




【Office Ittetsuからのお願い】成田一徹が残したバー以外のジャンルの切り絵について、近い将来「作品集」の刊行を計画しております。もしこの企画に乗ってくださる出版社がございましたら、arkwez@gmail.com までご連絡ください。
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kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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