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June 30, 2005
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カテゴリ: 教授の読書日記
これはもう一つの自慢と言っていいと思うのですが、私は今や伝説となった「ジョージ・フォアマン対モハメッド・アリ」の世界ヘビー級選手権試合(1974年)を衛星生中継で見たことがあります。当時私はほんの子供で、特にボクシングに興味があったわけでもないので、本当に偶然です。

あの試合は、しかし、すごかった。下馬評では現役の若きチャンピオン、無敗のジョージ・フォアマンが、盛りを過ぎたモハメッド・アリを簡単にノックアウトするのではないかと思われていて、実際、1ラウンドからフォアマンの猛ラッシュにアリはたじたじ。アリはすぐにロープを背にして追いつめられ、防戦一方になってしまう。私も見ていて、こんな弱そうな奴、すぐにフォアマンの餌食になるだろうと思っていました。私に限らず、あの試合の序盤を見た人は誰でもそう思ったでしょう。

ところが、これがアリの作戦だったんですな。フォアマンは必死でアリの顔面を捉えようとパンチを伸ばすのですが、ロープに身体をもたせかけ、背中を大きく反らしているアリにはどうしても届かない。一方アリは、フォアマンが10回空振りパンチを繰り出す毎にようやく1回位反撃するのですが、こちらは的確にフォアマンの顔面にヒットする。

そんなことが延々繰り返され、ラウンドが進んでいくうちにフォアマンの動きは次第に緩慢になり、傍目から見てもバテバテなのが明らかになっていきます。そしてフォアマンがいい加減疲れ果てたところでアリは華麗に反撃に転じ、くたくたになったフォアマンの顔面に2回、鋭くも美しいパンチを浴びせてノックアウト。序盤のフォアマンの圧倒的優勢を見た後でのこの意外などんでん返しに、私はまるで夢でも見ているかのような、まさに唖然・呆然の境地に陥ってしまったことを鮮やかに覚えています。その時、私の心に「モハメッド・アリ」というボクサーの名前が印象的に刻み込まれたことは言うまでもありません。

モハメッド・アリがかつては「キャシアス・クレイ」という名で知られ、アマチュア時代にはオリンピックで金メダルをとった選手であること、イスラム教に改宗してから「モハメッド・アリ」に名前を変えたこと、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」がキャッチフレーズであることなど、彼についての様々な情報は、その後少しずつ私の中に蓄積されていきました。そして、ベトナム戦争時代、兵役を拒否したためにソニー・リストンから奪ったヘビー級チャンピオンの座を剥奪され、7年間の長きにわたってアメリカのボクシング界から追放されてきたことも後で知りました。

しかしそういう長い苦労を耐えに耐えた後、起死回生の一撃で不死鳥のごとくアリはヘビー級チャンピオンの座に返り咲いた。まさにジョージ・フォアマン戦はアリの人生の象徴でもあったんですね。

ところで、そんな劇的な人生を送ってきたアリの評伝が岩波現代文庫で手軽に読めるようになりました。トマス・ハウザー著『モハメド・アリ:その生と時代』(上下)がそれです。アリ・ファンの私としてはこの本が出た途端に買って一読したのですが、とても面白かった。私が想像していた通りのアリがそこに居た、という感じです。

この本は通常の伝記とは少し異なっていて、著者のハウザーが物語風にアリの生涯を綴っているのではなく、アリのトレーナーやプロモーター、恋人たちや妻たち、あるいは彼と対戦したことのあるボクサーたちなど、アリのことを直に知っている人々の証言を集めるという形で、アリの生涯を再構成しています。ですから、この本はアリにまつわる大エピソード集になっているのですね。ですから、それらのエピソードを通じて、読者は生身のアリを知ることができるわけです。

 もちろんそこには気さくで、心優しいアリの姿があります。他のチャンピオンたちとは違って自らを神格化することなく、練習場を開放し、道行く人に声を掛け、病院をお見舞いして病魔と闘っている子供たちを励ますアリ。脳性麻痺の子供たちの抱擁をまともに受け、顔中涎だらけにして笑っているアリ。チャンピオンシップをかけた試合の控え室で、世界中の恵まれない人たちを助けるために自分に何ができると思うか、トレーナーに向かって大まじめで尋ねるアリがいる。



 でもこの上下2巻の伝記を読んで、誰しも一番痛烈に感じるであろうことは、アリがいかに自分の人生を自分の思うとおりに悔いなく過ごしてきたか、ということでしょう。先にも言いましたように、彼はイスラム教に改宗し、人を殺めることを拒否してベトナム戦争の際の兵役を拒んだことで、ボクサーとして最も充実していた時期を7年間に渡って棒にふったわけですが、そのことを彼はまったく残念に思っていない。自分の信じるままのことをやって、その結果このような仕打ちを受けるのなら、それはそれで本望だ、というのがアリの本心なんです。ですから、兵役を拒否してアメリカ中の人々から非難を浴びた時もまったく腐ることなく、淡々と自分の信念を貫くことができたし、また時代が移り変わってベトナム反戦運動が盛んになり、逆に反戦のヒーローに仕立て上げられた時も、アリはそのこと自体にはまったく無関心だった。

 アメリカ映画『フォレスト・ガンプ』の主人公と同じように、アリもまた自分のやりたいことを淡々とやっているうちに、時代の流れが勝手に彼を貶めたり、祭り上げたりするわけですが、毀誉褒貶の中心にいるアリ自身は、まったく何も変わっていないんですね。そこが何ともいい。

 ご存じの通り、アリは現在、ボクシング時代の後遺症に悩まされていて、そのことで世界中の人々から気の毒がられています。もし40歳を越えてからの数戦をキャンセルして引退しておけば、このようなことにはならなかったのにと思われてもいる。しかし、それも同じ事なんですね。不自由な身体になったことを、アリ本人はまったく気にしていない。今なお彼は、毎日沢山のイスラム教のパンフレットにサインをし、それを配って布教活動に携わっていますし、町の不良を家に連れてきて、彼らと話をし、彼らの生活を立て直す手伝いもしている。ボクシングの栄光は過去のものであって、今はまた別な形で神に仕えることができているのだから、現状にまったく不満はない、というわけです。それが、アリという男なんですね。かっこいいじゃありませんか! アリは自分でも言っています。「オレはまだ死んじゃいないぜ!」と。勝手に伝説にしないでくれ、と。それでこそ、アリですよ。そうこなくちゃ!

 冒頭で述べたように、私は子供の頃、ボクシング史に残る名勝負を見てアリを知ったため、他の人々と同様、彼を神格化し、伝説の人として見てしまいがちですが、よく考えてみればまだアリは60代半ばの人であって、完全に同時代人なんですね。彼は私と同時代の空気を吸っている一人の人間に過ぎない。でもその平凡さこそ、アリの最も偉大なところなんだということも、この本を読んでよく分かった。そしてそのことでアリのことがより一層、好きになりました。

 そんな偉大なる凡人・アリの半生を知ることのできるこの本、「教授のおすすめ!」です。


 さて、この「教授のお気楽日記」ですが、今日の分でついに100回を迎えることとなりました。毎日、沢山の方々に遊びに来ていただいていることを感謝しています。これからも日々思うことや、本の紹介などを徒然なるままにしていきますので、今後ともおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。それでは、また明日! 







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Last updated  July 2, 2005 01:41:14 PM
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釈迦楽@ Re[1]:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) ゆりんいたりあさんへ  いやあ、メッシ…
ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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