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February 27, 2007
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カテゴリ: 教授の読書日記



この本の主要登場人物の一人、チャップマン博士は「性科学」の研究者で、アメリカ人の性行動を大々的に調査しているんです。もとは動物学者だったのですが、有名な『キンゼイ・レポート』などに触発され、独身男性の性行動について調査して発表したらこれがセンセーションを巻き起こし、あれよあれよという間に時代の寵児になってしまった。そこでついついさらなる野望を抱いてしまった博士は、今度は既婚女性の性行動を調査すべく、三人の弟子(ポール、ホレス、キャス)を引き連れてアメリカを横断しながら数千人規模のアンケート行脚をしている最中、という設定です。

で、そのアンケート調査ですが、これがまた実に詳細なもので、子供時代・思春期の性行動から結婚前の性行動、結婚後の性交渉、さらには婚外交渉に至るまで、回数、方法、満足度などあらゆる側面について詳細に数値化する、という試みなんですな。当時のアメリカは「性革命」以前の時代。チャップマン博士としては、「秘め事」として隠されたアメリカ人の性行動のすべてを白日のもとに晒し、「自分は他の人と違うのではないか」というような思いに人知れず悩んでいるアメリカ人を解放してやろうという壮大な野心を持ってこの試みに取り組んでいるわけ。

もっとも、このような彼の研究に対しては、批判者もいないわけではない。とりわけ手強いライバルなのがジョナス博士。彼は「愛は数字では表せない」という立場からチャップマンの調査・研究のバックボーンたる「数値化」のアプローチを痛烈に批判しているばかりでなく、チャップマン博士の調査が科学的真実の追究というより、自身の名声を上げる為に性急に行われていることに強い懸念を示し、チャップマン博士が資金の調達を狙っている「ゾルマン財団」に対し、批判的なレポートを書き続けているんです。というわけで二人はまさに犬猿の仲。チャップマン対ジョナスの構図は、この小説の主筋の一つになっています。

しかし、この小説の本当の旨味は、やはりチャップマンのアンケート調査を受けることとなったロスアンゼルス郊外の高級住宅地ブライアーズの主婦たちをめぐる物語にあります。一見、平和で何一つ不自由なく暮らしているかに見える彼女たちの生活が、「性行動」の面から見ると、実は波瀾含みのものであることが、次第に明らかになっていくんですな。

上辺はキレイだけど、一枚めくればドロドロ。そんな人間関係のドロドロを、町ごとそっくり描き出す。これぞまさに「アメリカ(大衆)小説」の醍醐味でございます。アメリカの小説ってのは、結局、「町小説」ですから。

で、じゃあ具体的にはどんなドロドロなのか。例を挙げて見ましょう。

たとえばアーシュラ・パーマー。会計士の夫ハロルドと暮らしながら、平凡な雑誌記者としての仕事を続けているのですが、今回チャップマン博士の調査対象になったことを千載一遇のチャンスと見ているんです。つまり、自分の「性の履歴書」を調査員に語った経験を面白おかしく記事にすることでセンセーションを巻き起こし、あわよくば雑誌の共同編集長にのし上がろうという野心を燃やしているんですな。しかし、その地位を約束してくれている雑誌の編集長は、半ばアーシュラを愛人にしようとしていることは見え見え。さてアーシュラは、自分の「性の履歴書」を売りものにし、さらに夫を裏切ってまで、野心の実現を目指すことになるのかどうか・・・

たとえばテレサ・ハーニッシュ。画廊を経営しているジェフリーとの仲はまずまずですが、夫婦揃って「知的」であることを誇りにしてきた彼女は、次第に知的な夫、知的な仲間とのパーティなどに飽き飽きしてきている。そのことをチャップマン博士の調査を通じて認識した彼女は、このままではいかん、と思うわけですよ。で、そんな思いもあって、彼女のお気に入りのビーチで偶然出会った若いフットボール・プレーヤー、エドの逞しい肉体に惹かれていったテレサは、この野性児との情事が彼女をより魅力的な女性にし、ひいては夫・ジェフリーをも幸福にできるであろう、という思い込みに囚われ、思い切って若き筋肉マン・エドを誘惑にかかる・・・。さてテレサの誘惑は成功するのかどうか・・・



たとえばナオミ・シールズ。幼少の時から愛を知らずに育った彼女は、どんなに体を重ねても常に愛情に飢えた状態を脱することができず、夫の他に何人もの愛人を作ってしまい、それがもとで離婚。それから数年経った今もなお、満たされぬ思いに苦悩しつつ、酒に溺れ、見ず知らずの他人との野放図な性愛に溺れ、生活は泥沼状態。さて、ナオミはこの地獄から抜け出せるのか・・・

たとえばキャサリン・バラード。空軍のヒーローにして退役後はテスト・パイロットとして名声を上げた夫・ボイントンを事故で失ったあと、「ヒーローの未亡人」を演じ続けてきたものの、実はボイントンとの性生活は最悪。それがトラウマとなっていまだに男性不信に陥っているキャサリンは、このまま一生、未亡人として人々から同情されながら生きていかなければならないことに諦めを感じつつ、そんな自分をかなぐり捨てたい思いにもさいなまれている。さて、たとえどんなに好きな男性が現れても、その人と愛を交わすことができない身体故、その人を避けてしまうキャサリンに、本当の愛はやってくるのかどうか・・・

ね、色々な「背景」を持った女性たちが出てきて、楽しそうでしょ?

しかし、問題を抱えているのは女性陣だけではありません。チャップマン博士の3人の弟子たちもまた、それぞれ問題を抱えているんだ、これが。

たとえばホレス。彼はかつて結婚していたことがあるのですが、その愛妻が浮気している現場を目撃してしまい、離婚。それでもまだ彼女のことが諦められず、悶々とした日々を過ごしている。で、風の噂で彼の元妻が、ブライアーズの町に住んでいることを耳にした彼は、万が一、彼女がチャップマン博士の調査に協力することになり、「夫との性生活」を赤裸々に回答することになったらどうしよう、と戦々恐々です。と、ここまで書けば、彼の元妻がナオミであることは明らかですが、さて、ホレスとナオミはチャップマン博士の調査を通じて相まみえることになるのかどうか、そして二人の将来は・・・

たとえばキャス。彼は幼少の頃、自分の母親が見ず知らずの男とベッドインしているのを目撃して、これがトラウマとなり、世の女性、とりわけ「浮気をしている女性」に我慢ができない体質になってしまった。それがチャップマン博士とアンケート調査のツアーにでて、各地で主婦たちの「婚外交渉」の実態をつぶさに聞き取り調査しているわけですから、ノイローゼにもなろうというもの。で、ある時、自分が面接した女性、しかも自分のタイプの女性が、堂々と「浮気をしている」ことを告白したものですから、トチ狂った彼は彼女のストーカーとなり、彼女をレイプしようと試みるまでになってしまう。さて、彼の運命は、そして彼に狙いをつけられてしまったサラ・ゴールドスミスの運命やいかに・・・

とまあ、こちらも波瀾万丈です。

しかし、この小説の一番のロマンスは、チャップマン博士の一番弟子ポールと、ヒーローの未亡人・キャサリンをめぐるものでしょう。35年間、待ち続けた理想の妻の姿をキャサリンの中に見たポールは、「調査対象との個人的な接触」という御法度を破って、敢えてキャラリンにアタック。で、キャサリンもポールに惹かれていくのですが、例のトラウマゆえ、ムードが盛り上がってきたところでポールを突き放してしまう、その繰り返しで、二人の仲は一進一退。ポールは悶々とします。

さらにニンフォマニア・ナオミが自ら好んで巻き込まれる輪姦事件や、キャスによるサラ・ゴールドスミス凌辱殺害事件など、アレアレというような事件に巻き込まれ、それが間接的にはチャップマン博士の調査によってもたらされたものであることを知るにつけ、さらにそうした破廉恥な事件をメディアから遠ざけ、なんとか自分と自分の大事な調査を守ろうと保身に努めるチャップマン博士の姿を見るにつけ、ポールは、チャップマン博士の「数値化」のアプローチの限界を見、むしろ彼と対立するジョナス博士の個別診察による方法論こそ、アメリカ人の愛の問題に深く係わっていけるのではないかとの思いが募り始めるんですな。

さて、ポールは、尊敬する師匠であり、また「精神的父親」でもあるチャップマン博士と対決し、決別ができるのか? そしてトラウマに苦しむ恋人・キャサリンを解放し、自らの幸福を掴めるのか?

ま、そんな小説です。下世話な意味では、面白いですよ。当時200万部のベストセラーになったことも頷けます。



やっぱり、大衆小説って限界あるなー! 大衆小説と文学史に残る名作とでは、その差は大きいですわ。

第一、今から半世紀ほど前に出たこの小説、今、新本で入手できないんですもん。私はこの本を買うのに、うちの大学図書館に頼んで研究費で買ってもらったんですが、ハードカバーであれ、ペーパーバックであれ、新本はないと言われ、結局、ペーパーバック版の古本で購入せざるを得なかったくらい。しかも乱丁のおまけつき。

いかに200万部のベストセラーになっても、文学としての命が50年持たないというのでは・・・。

この辺が、大衆小説を研究することの哀しみでもあるんだよなー・・・。ベストセラーが生まれる現象は現象として面白いんですけど、その元となった現物は読んでも価値がないという・・・。

というわけで、この『チャップマン・レポート』、面白かったような、時間の無駄だったような、複雑な読後感でございます。上の梗概を見て「面白そう」と思った方だけに、まあ、おすすめ・・・と言っておきましょう。さすがベストセラーだけあって英語は読み易いので、古本で入手して英語の勉強として読み飛ばす、なんて使い方をするつもりなら、それなりに面白いですよ。



それはまたいずれ報告することといたしましょう。





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Last updated  February 27, 2007 07:08:13 PM コメント(4) | コメントを書く


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ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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