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September 14, 2011
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カテゴリ: 教授の読書日記



 この本のタイトルである「となりのウィントン」というのは、ニューヨーク大学医学部に留学した小川さんが、たまたま住んだアパートの隣のアパートに、かの天才ジャズトランぺッター、ウィントン・マルサリス(とその兄のブランフォード・マルサリス)が住んでいたという、『Talkin'』でも語られていたエピソードから付けられているのですが、この本はまさに小川さんがニューヨーク滞在中に経験したその種のエピソード満載、といった趣の本でございます。

 例えば、ファンキー・ピアノの名手、ホレス・シルヴァーをめぐるこんなエピソードはどう?

 ホレス・シルヴァーがある時、ジャズ・クラブで演奏した後、自費制作したレコードを手売りしていたというのですな。で、小川さんはぜひそれを買いたいと思ったのですが、貧乏学生だった小川さんにはそれを買うための7ドルがない。財布にあるのは3ドルだけ。

 そこでその3ドルに、NYの地下鉄のトークンを3枚ほど足して、これでそのレコードを売ってくれないかとホレス本人に掛け合ってみた。ところがホレスはロスの人ですから、NYの地下鉄のトークンなんぞ何の役にも立たないので、断られちゃうんですな。で、がっかりして小川さんが帰りかけたところ、ホレスがうしろから声をかけてきた。「お前、俺のピアノが好きか?」と。

 で、小川さんが、いかに彼の音楽を愛好しているかをしゃべったところ、「じゃあ、これ、やるよ。お前の好きな音楽がたっぷり入っているから楽しみなよ」と言って、レコードにサインまでして小川さんにくれたんですと。

 で、数年が経ちまして。ホレスが日本に演奏に来た。で、その頃はもう日本でジャズ関係の仕事もしていた小川さんがインタビューに行った。

 で、そこで小川さんがホレスに挨拶しながら、実は、NYで一度お会いしているのですが、と水を向けると、ホレス答えて曰く「君は、あの時のトークン・マン」だろと。

 なんと、彼は小川さんのことを覚えていたんですな。



 で、ホレスが「いくら払えばいいの?」と聞いてきた時、小川さんが何と答えたか。「じゃあ、トークンを6枚ほど」。ホレスの喜ぶ顔が想像できるじゃないですか。


 あるいはまた、こんなエピソードはどう。

 NYに留学した当初、犯罪率の高さを恐れて、結構、リッチな人々の住む界隈にアパートを借りた小川さんですが、そのうちにこの町に慣れるにしたがって、もっと安いアパートに住もうと決意、その結果、アパート代が浮くことになって、レコードも沢山買えるようになった。

 で、行きつけのレコード屋もできて、そこの店員とも顔見知りになるようになったと。

 で、そんな顔見知りの店員の中に、やたらにジャズやその他の音楽に詳しいジョンという奴がいて、そいつと小川さんは特に親しくなるのですが、やがてそのジョン君から、「今度コンサートやるから、君も聴きに来てくれよ」と、チケットをもらうわけ。

 ところが、その会場が、結構大きな会場だというのですな。

 おいおい、こんな大きな会場なんか借りて、客が入るのかよと心配しつつ、当日、その会場に向かうと、もう大分客で埋まっている。

 それもそのはず、顔見知りの気さくなバイト店員のジョン君は、当時、フリー・ジャズの若手として頭角を現しつつあったジョン・ゾーンその人だったと。


 あるいは、こんなエピソードはいかが?

 NYでは大みそかにジャズ・コンサートが開かれることも多いのですが、その頃になると、マネージャなどは家族と過ごしたいということで、アーチストを見捨てて実家に戻ってしまったりするんですと。そんなこともあって、小川さんは、隣組のよしみでウィントン・マルサリスから、当日一日だけのマネージャーを頼まれた。



 とまあ、こういう種類の話が次から次ですわ。

 いや~、それにしても、1980年代初頭と言えば、私から見てそんな昔の話ではないですけど、その頃のNYって、こんないい話が転がっていたんですかねえ・・・。それとも、小川さんのジャズ好きの情熱が、そういうエピソードを呼び込むのか。

 いずれにせよ、好きこそものの何とやらで、ジャズが好きで好きで、その世界にあこがれてNYに住んだ小川さんは、ジャズの世界にどっぷり漬かったおかげで、様々なジャズメンたちと知り合うことができ、また彼らとの交流を通して、貴重な貴重な体験をいくつもされた。この本は、そんな小川さんの驚きと感動の体験がしっかり詰まっております。

 これはしかし、ジャズだけのことじゃないですな。とにかく、好きなことに専心して、その本場で臆することなく人にぶつかっていくエネルギーがあれば、面白いことというのはついてくるもんなのかなと。そういうことを感じさせてくれる本であります。

 ということで、小川隆夫の『となりのウイントン』、なかなかいい本でした。教授のおすすめ!です。



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Last updated  September 14, 2011 11:20:32 PM
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ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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