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April 21, 2016
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カテゴリ: 教授の読書日記
 自己啓発本として有名なスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 この本、副題に「人格主義の回復」とあるのですが、本書を通読して思うに、確かにコヴィーさんが本書を通じて一番訴えたかったのがこれだろうと。

 じゃあ、人格主義を回復するために何を排除しなければならないかというと、人格主義の対極にある「個性主義」であるとコヴィーさんは言います。

 コヴィーさんはアメリカ独立(1776)から200年の間に出版された「自己啓発本(成功本)」を読み漁ったらしいのですが、その結果分かったことがある。それによると、最初の150年間に出されていた自己啓発本は、例えばベンジャミン・フランクリンの自伝に代表されるように、「誠意・謙虚・誠実・勇気・正義・忍耐・勤勉・質素・節制」を重視し、これら人格的な徳の育成こそが成功のカギである、と教えていた。それに対して、最近の50年間に出版された自己啓発本は「個性・イメージ・態度・行動様式・スキル・テクニック」といった表面的なことしか教えていないと。つまり、自己PRを上手にやって人間関係を上手に泳ぎ回れ、とか、積極的な心構えを崩すな、とか、そういうことしか教えていない。もう、ほとんど、人心を操るテクニックみたいな感じになっていると。

 で、こうしたうわべだけの自己啓発本がここ50年間、アメリカ中に蔓延しているんだ、と気づいた時、コヴィーさんは、自分もまたこうしたうわべだけを見るようなレンズを通して世界を見ていたことに気づくんですな。ここがコヴィーさんの偉いところ。彼は常に自分を軸にして、すなわち自己反省を基にして、物事を考えております。

 だけど、そういううわべだけのやり方では、やっぱりうまく行かない。一夜漬けのテクニックでは、人間関係・社会関係の波は乗り切れないと。それは、コヴィーさん自身の子育て体験からも明らかであると。

 農場に一夜漬けは効きません。春に種まきを忘れ、夏は遊び呆けたら、秋の収穫はない。それと同じように、人生だって一夜漬けは効かないわけですな。だから、遠回りをするようだけれども、秋の収穫を期待するなら、春に種を播かなければならない。つまり、人格の陶冶からスタートしなければならない。

 それがコヴィーさんのいう「人格主義の回復」なのであります。

 だからさ、この本は「アドバイス系自己啓発本」の中でも本格派よ。小手先のテクニック養成ギプスではないわけ。



 コヴィーさんによれば、人間というのは、物を見る時に、必ず「パラダイム」を通して見ている、というのですな。パラダイムというのは、まあ、日本語風に言えば「色眼鏡」みたいなものでしょうか。

 例えば「地球が宇宙の中心だ」というパラダイムで見れば、太陽が地球の周りをグルグル回っているように見えるし、それはそれで大概の説明はつく。

 だけど、「実は地球の方が太陽の周りをグルグル回っていたんだ」という風にパラダイムがシフトすると、世界はまるで違ったものに見えてくる。このパラダイム・シフトを経験する前は正しいと思っていた「地球中心説」が、まったく間違いであったということが判明する。

 だから、パラダイムというのは、それが間違っていれば大変危険なことになるわけですな。コヴィーさん流に言えば、間違った地図をもって旅行するようなもので、目的地には絶対到達できない。

 で、人間が社会生活を営む上で様々な困難な状況に巻き込まれるのは、大概、パラダイム(地図)が間違っていたからだ、というのが、コヴィーさんの主張でございます。だから、まず自分自身が拠って立つパラダイムを点検し、それを正しいものにすることから始めようと。

 そして、パラダイムを点検し、それを正しく補正できるのは、人間の特権である、と、コヴィーさんは言います。なんとなれば、人間だけが自分自身を第三者の視点から見直すことができるから。想像力というものが備わっていない他の動物に、「自省」なんかできないよと。

 で、間違ったパラダイムを補正するのはどうすればいいか、パラダイムを正しく設定するにはどうすればいいのか、って話になったときに、コヴィーさんが持ち出してくるのが「原則主義」。曰く、「自然界に存在する引力の法則などと同じように、人間社会にもまた、時間を超えて不変であり異論を挟む余地のない、普遍的にして絶対的な法則がある」(28頁)。だから、この確固不変の原則に立脚すれば、パラダイムを正しく建てることができると。

 おっと、この辺の「引力」を引き合いに出す言い回し、ちょっと「引き寄せ系自己啓発本」のレトリックに似ております。だけどその内容は全然違う。何せコヴィーさんがいう「原則」とは、「公正・誠実・正直・人間の尊厳・奉仕・貢献・本質・美徳・可能性・忍耐・養育・励まし」といったもの。すなわちどの宗教・信仰とも関係がない(あるいは、どの宗教・信仰とも共通する)、長く存続し、完全にその有効性が立証されている指針のことなのですから。

 コヴィーさんはアインシュタインの言葉「我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ思考のレベルで解決することはできない」(42頁)を引きながら、だから、生きていく上での問題に直面したら、これらの原則に従ってまず自分を変えなさいと言います。自分を一つ上のレベルに持ち上げて、パラダイムを変えて、そこから外部の問題に取り組みなさいと。相手(他人、社会)を変えるのではなく、まずあなたが変わりなさい、『インサイド・アウト』のアプローチをとりなさい、と。例えば結婚生活がうまく行っていない場合、相手を責めるのをやめて、まず自分のスタンスを見直す。自分が変わって、良き夫/良き妻に変われば、相手もそれに対応して良き妻/良き夫に変わり、結婚生活も立て直せますよと。すべては、自分の考え方を変えるところから始めなさいと。

 あ! ああ! この「インサイド・アウト」の考え方って、結局、「引き寄せ系自己啓発本」と同じことを言っているわけですな。引き寄せ系では、世界は自分の思想の反映だから、自分の思想を変えれば世界は変わるよと主張するわけですけれども、これって、一言で言えば「インサイド・アウト」だからね。

 結局、引き寄せ系自己啓発本って、荒唐無稽なことを主張しているようで、それをコヴィーの本みたいな地道な自己啓発本と読み合わせると、実はメタ・レベルでは同じことを言っているんだ、ってことがよくわかります。



 ところでその7つの習慣は、3つのパートに分かれます。まず「私的成功」を達成するための3つの習慣として、「主体的であること」「終わりを強く思い描くことから始めること」「最優先事項を優先すること」が挙げられる。次いで「公的成功」を収めるための習慣として「Win-Winを考える」「まず理解に徹し、そして理解される」「シナジー創り出す」の3つをマスターし、最後に、それらすべてに関わることとして、「刃を研ぐ」という第7の習慣が提示される。

 ちなみにこの提示の仕方も「インサイド・アウト」でございます。まず私的成功を収めてから公的成功を狙い、最後に、それまで身に着けたすべての習慣に磨きをかけようというね。

 で、どの習慣もすごく具体的で、かつ実現できれば有効だろうなと思わされるものばかり。しかも、それらの多くは、コヴィーさん自身の経験談を踏まえて提示されるので、説得力もある。だからそれらについては、興味のある方が個々に読んでいただければいいと思うのですが、この中で一つ、私が特に感銘を受けた習慣を挙げるならば、やはり一番最初の「主体的である」ということかなあ。

 というのはね、このパートに、本書全体を通底するある概念が語られているから。

 それは何かと言いますと、「刺激と反応の間には選択の自由がある」という概念でございます。これ、すごく感動的で重要よ。



 だけど、人間には「自覚」(自分自身を客観的に見つめる能力)・「想像」(現実を超えた状況を頭の中に生み出す能力)・「良心」(心の奥底で善悪を区別し、自分の行動を導く原則を意識して、自分の考えと行動がその原則と一致しているかどうか判断する能力)・「意志」(他の様々な影響に縛られず、自覚に基づいて行動する能力)という四つの特異な能力が授けられているので、これらを総動員して、単なる刺激への反応以上の行動を主体的に選択することができる。この選択の自由こそが、人間の尊厳であると。

 で、このことを自覚するかしないかは別として、人間というのは常にそういう具合に、刺激に対する反応を自ら主体的に選択しているわけですな。

 例えば、いじめられっ子が他人の中傷で傷ついたとする。それは刺激(いじめ)に対する反応(傷つく)のように見えるけれども、実はそうじゃない。刺激は刺激(これは自分では選択できない)だけれども、反応は選択の結果である。つまり、「いじめられて傷つく自分」を自ら選択した結果であると。エレノア・ルーズベルトがかつて言ったように、「あなたの許可なくしてあなたを傷つけることはできない」ということであり、ガンジーがかつて言ったように、「自分から投げ捨てさえしなければ、誰も私たちの自尊心を奪うことはできない」わけ。

 だから、いじめられっ子が卑屈になったとしたら、その卑屈な自分は、自らの選択の結果ということになります。その意味で、人間は過去の選択の産物なんですな。(あ! ああ! あああ! これもまた、引き寄せ系自己啓発本の言い分と同じだ! 「今ある自分は、自分が思った通りの人間だ」っていう。) 

 だからこそ、他の道を選択することもできる、っつーことになる。ここが重要。

 じゃあ、どうすればいいかというと、まず自分に起こる事柄、自分が関心を持つ事柄の中で、自分にコントロールできることとできないことを分けなさい、と、コヴィーさんは言います。で、自分にコントロールできること、コヴィーさんの言葉では「影響の輪の中にあるもの」について、主体的に働きかける。そのちょっとした一歩を踏み出すことによって、状況というのはどんどん変わっていき、やがて、以前には自分の影響の輪の中にはなかったものまで、そこに入ってくることもある。そうすれば、それを主体的に変えることによって、さらに影響の輪を広げていけばいい。

 天気が悪いと、気分が落ち込む。で、暗い顔をしていると、友人たちもどんどん離れていく。これじゃ、ダメ。もちろん、天気は自分の意志では変えられないかもしれないけど、その代わりに、自分の頭の中に晴れやかな青空を思い浮かべることはできるでしょう。それは、あなたの選択の結果であるから、あなたの頭の中の青空は、誰にも奪うことができない。そして、その自分の中の快晴を見つめ、それに従って快活に行動すれば、あなたの周りにいる人までつられて快活になるかもしれない。前とは異なって、あなたの周りに友人がどんどん集まってきて、それがあなたをさらにハッピーにする。

 これがインサイド・アウトの革命であり、主体的な選択をする生き方であると。

 天気の話なんて、まあ、些末な例かもしれません。でもね、これと同じ作業をして、ナチスの過酷な拷問を生き延びたヴィクター・フランクルという人もいる。ナチスはいかに拷問を加えようと、フランクルから人間の尊厳を奪えなかった。そう考えると、この主体的選択というのが、いかにすごいことか、ということがわかるでしょう。

 私、こういう考え方、好きかも。

 つまりさ、人間の自由とか、自由意志って、究極的には選択の自由のことだと思うわけよ。それ以外に、人間に自由なんてない、とすら言えると思う。私はね。そして、そこに、人間の尊厳ってのがあるんだと。

 そのことをコヴィーさんはちゃんと言っている。だから、私はこの本、信用するわけ。

 というわけで、コヴィーさんのこの本、すごくいいと思うんですな。これは、数ある自己啓発本の中でも、確実におすすめできるものではないかと思います。教授のおすすめ!です。


完訳7つの習慣 [ スティーヴン・R.コヴィー ] 価格:2376円(税込、送料無料)








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Last updated  April 21, 2016 03:58:10 PM
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