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September 20, 2016
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カテゴリ: 教授の読書日記
 自己啓発本の名著として知られる『人を動かす』の著者、デール・カーネギーが書いたもう一冊のベストセラー、『道は開ける』を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 ちなみに『人を動かす』という本は、その原題『How to Win Friends and Influence People(いかに友を得、人に影響を与えるか)』が示す通り、人の信頼を得る方法を述べた本であり、その意味で人心掌握のためのハウツー本の趣があった。で、その根幹を成すアイディアというのは、「人情の機微に通じてないとダメだよ」というもの。

 例えば、「人の名前を覚えてあげることが如何に重要か」なんてことが書いてある。そしてセオドア・ルーズベルト大統領が、ホワイト・ハウスのコックさんたちの名前すら一人一人覚えていて、大統領じゃなくなった後まで覚えていた、なんて逸話が紹介される。そういう、ちょっと感動的な逸話をずらり並べながら、「人情が分らないようじゃ、上に立つ人間にはなれないよ」ってなメッセージを読者に届ける。仮に「逸話系自己啓発本」というジャンルを想定するとするならば、カーネギーの『人を動かす』なんてのは、まさにその典型例となるものでございます。

 だから『道は開ける』という本も、もちろん逸話系自己啓発本ではあるのですが、本書のテーマは「人間のお悩み解消法」。現代人にとって最大の敵はストレスであり、毎年、何万人もの人がストレスで自殺したり、病死したりしている。それを何とかしようじゃないか、というのが本書の狙いなわけ。

 ちなみに前著『人を動かす』は1936年刊。つまりアメリカが大・大・大不況のさなかにあった時に出版されたのでありまして、人心を掌握するというのは、職を得ること、さらにはその職をキープし続けることにおいて、非常に重要なファクターだったわけよ。

 で、『道は開ける』は1944年刊だから、もう不況の時期は通り過ぎていたけれども、今度は第二次大戦の動乱の時代でもあり、色々な意味でストレスフルな時代だったんでしょうな。だから、今度の本のテーマはストレス解消法だったと。カーネギーさん、本を出すにも、時代にあったテーマを選んでいるわけですよ。賢いね。


 さて、じゃあカーネギーさんは本書の中で一体どんなストレス解消法を提案しているか、箇条書き風に並べてみると・・・


○過去の失敗、未来の不安のことは考えず、今日一日に集中して生きろ



○小さなことに悩まされるな。逆に避けられないような大きな悩みであれば、じたばたせず、淡々と受け容れろ

○自分は自分、と考え、人真似しない。人を羨まず、自分に満足し、自分なりに何が出来るか考えろ

○批判は気にするな

○不眠症で死ぬ奴はいない。眠れないなら、勉強するか、運動するか、仕事しろ


 みたいな感じ。すべてもっともな話でありまして、しかもカーネギーは、これらのことを、実話に基づく逸話によって説明していきますので、説得力はあるよ。巻末には、それぞれのやり方で悩みを克服した人たちから寄せられた経験談も載せられていたりしますし。


 ところで、この本を読んでいると色々感心させられるのですけど、私が一体何に感心するかというと、この本の中に、この本以後に出される自己啓発本のエッセンスが既に詰まっている、ということですな。

 例えば、「過去に起ってしまったことを悔やんでも仕方がない。未だ起っていないことを恐れるのは無益だ。だから、過去や未来に悩まされずに、今日は今日のことを精一杯やりなさい」というメッセージ、これはウェイン・ダイアーが1960年代に主張したことなんですな。それに本書に書いてある「人生とは、生きることの中、つまり毎日毎時間の中にある」というメッセージなんか、つい先日読んだばかりの、ミハイ・チクセントミハイの唱導する「フロー」の概念と同じでしょ。

 そう、本書とチクセントミハイの本には非常に共通点があって、例えば本書211ページにはこんなことが書いてある:

 ローガン・ピアソール・スミスの名言はつぎのように簡潔である。「人生には目標とすべきものが二つある。第一は自分の欲するものを手に入れること、第二はそれを楽しむことである。数ある人間のうちでも、第二のことを実践できるのは賢者だけでしかない」。
 台所での皿洗いでさえスリルに富んだ体験に変えることができると言ったら、興味を持っていただけるだろうか? もし興味がおありなら、ボーギルド・ダールの名著『私は見たかった』という本を読むとよい。それははかり知れない勇気と感謝を与えてくれるにちがいない。


 この「台所での皿洗いでさえ・・・」という一節なんか、まんまチクセントミハイだもんね。



 あ、あと、「笑いが(癌などの)病気を癒す」という話も出て来ます。マインド・キュア系の自己啓発本の伝統もしっかり受け継いでおります。

 要するに、過去や未来の自己啓発本に登場する言説は、すべてカーネギーの本の中にも登場するってことですな。


 で、それに関連してさらに気づくのは、この本の中でカーネギーが際限なくウィリアム・ジェームズに言及したり、ジェームズの言葉を引用したりすること。

 ウィリアム・ジェームズというのは、アメリカの有名な心理学者で、作家のヘンリー・ジェームズの実の兄貴。彼は当時の著名な学者の中では珍しく自己啓発本の価値を擁護した人として知られ、そのために後世の自己啓発本のライターたちからは、ラルフ・ウォルドー・エマソンと並ぶ「アイドル」として褒めまつられている人。

 だから、カーネギーの本の中にウィリアム・ジェームズの言説が引用されること自体は何ら不思議はないのですけれども、気になるのは、その圧倒的な回数。カーネギーはもちろん本書の中で色々な文人に言及しているのですけれども、ジェームズの言説の引用頻度は他を圧している。ざっと数えて20回ですからね。これはエマソンを3回引用しているのと比べても圧倒的に多い。印象としては、ことある毎に「ジェームズが言っているように」とか、「ジェームズによれば」とか、そういう話が出てくる感じがする。




 ということで、本書の内容の興味深さもさることながら、私にはカーネギーを巡る自己啓発言説の影響関係が興味深かったのでありました。


 というわけで、この本、1940年代のアメリカ人同様、様々な悩みとストレスの中を生きる現代日本人の皆様にもおすすめします。

 が!

 やっぱり面白さという点にかけては、前著『人を動かす』の方が圧倒的に面白い。やっぱり、処女作の中に、その人のすべては詰まっておるのでございましょう。


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Last updated  September 20, 2016 04:42:33 PM
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ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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