教授のおすすめ!セレクトショップ

教授のおすすめ!セレクトショップ

PR

×

Profile

釈迦楽

釈迦楽

Keyword Search

▼キーワード検索

Shopping List

お買いものレビューがまだ書かれていません。
September 2, 2017
XML
カテゴリ: 教授の読書日記
3年くらい前の話ですが、私が自己啓発本の研究を始めてまだ間もない頃、アメリカ文学研究における大先輩のT先生にその話をしたところ、19世紀イギリスの作家で、『アイヴァンホー』などの作品で知られるウォルター・スコットが、明治期の日本において自己啓発作家と見なされていたフシがある、という耳よりな情報をいただきまして。

 それによると、某大手銀行のロンドン支店の支配人を勤められたT先生の御尊祖父様が、ご帰国に際し、ウォルター・スコットの小説を大量に買い込んでいらしたと。で、それはスコットの小説への文学的興味もさることながら、当時スコットの小説は「自己啓発本」という認識がなされていて、その啓発的側面にへの興味から、それを日本への土産にされた、というのですな。

 で、T先生から伺ったその話が気になっていた私、それを確認すべく、『日本の中のウォルター・スコット』という本を読んでしまいました。タイトルからすると、私の気になっていたことへの回答が書いてありそうでしょ?

 さて、この本によりますと、ウォルター・スコットなるイギリス作家は、日本人がイギリス作家について知る最も初期の人物の一人であったと。明治時代初期、イギリスを始めとする外国の文学文化がようやく日本に紹介され始めた頃、いち早く日本人に認識された作家の一人であったというのですな。

 それは何故か。

 サミュエル・スマイルズ著・中村正直訳、当時の超ベストセラーにして日本における自己啓発本の端緒ともなった『西国立志篇』に、スコットについての記述があったからでーす!

 『西国立志篇』、すなわち『Self-Help』は、勤倹力行によって名をなした人々のエピソード集ですが、その大半は蒸気機関を発明したスティーヴンソンを始めとする理科系の人々の話。ですが、その中にあってなぜ小説家のスコットについての記述があるかと申しますれば、一つにはスコットがスコットランドの出身で、スマイルズと同郷だったということもありましょうが、それ以上に、スコットが規則正しい生活の体現者だったから。

 まあ、詩人だ作家だなんてものは、不摂生をする者というイメージがありますし、実際、無頼な生活を送った詩人・作家は枚挙に暇がないわけですけれども、そんな中にあってスコットは別格。彼は法律系の書記としてサラリーマン生活を送りながら、その傍らで作家生活を営んでいたのであって、要するに二足のわらじを履いた作家だったわけ。一方で地に足のついた職業に就きつつ、その勤務時間の外に時間を作り出し、それを創作のための時間に宛てていた。そういう刻苦勉励の中からあれだけの分量の作品を生み出したってところが、スマイルズの注目するところとなったわけですな。

 つまり、スマイルズはスコットの作品ではなく、そのライフスタイルを称揚したと。



 しかし、もちろんそれだけではない。スコットの小説の方も、日本に強い影響を与えます。

 まず坪内逍遥がスコットの作品を翻訳する。さらに夏目漱石が『文学論』でスコットを取り上げる。さらに漱石は、スコットの作品の技術的側面に影響を受け、自らの創作にそれを活かすと。そうやって、スコットの文学的影響ってのは、じわじわと日本に浸透するわけ。そういう意味では、日本の近代文学はスコットを栄養として育った、と言えなくもない。

 さらに、近年の日本におけるスコットの影響としては、渡部昇一氏の『続・知的生活の方法』が挙げられると。

 ベストセラー『知的生活の方法』(1976年)の3年後に出版された続篇『続・知的生活の方法』の中で、渡部昇一氏はスコットのライフスタイルについてかなりの紙幅を割いて言及しているんですな。特に、規則正しい生活や日常的に行なう運動、そして自宅に充実した書庫を備えることの重要性について、渡部昇一氏は真似すべきものとして取り上げている。

 ちなみに、渡部昇一さんの『知的生活』シリーズの執筆は、彼が学生時代に愛読したP・G・ハマトンの『知的生活』の影響を受けてなされたことはよく知られておりますが、そもそもハマトンとサミュエル・スマイルズは共にヴィクトリア朝の人、年齢的にも20年くらいしか違わず、ハマトンの『知的生活』も、スマイルズの『Self-Help』同様、伝記的自己啓発本なのであって、この時代のイギリスにおける同じ流行に沿ったものなわけですよ。で、もちろん、ハマトンもまたスコットのライフスタイル(特に健康への配慮)を『知的生活』の中で称揚している。

 つまり、明治時代初期と昭和高度経済成長期と、時代こそ大分違え、スコットは『西国立志篇』と『続・知的生活の方法』という二つのベストセラーによって、そのライフスタイルが日本に伝えられ、日本人の自己啓発に一役買ったと、まあ、そういうことになるわけですな。

 というわけで、ウォルター・スコットというイギリス作家が、近代日本文学の誕生、及び日本における自己啓発思想の伝播において相当大きな影響を与えた、ということが、本書によって大分、分かってきました。T先生の御尊祖父様がわざわざスコットの小説を大量に日本に持ち込んだのも、「これこそサラリーマンの鑑が書いた本! 自己啓発の根源!」みたいな感じだったのでしょうか。

 まあ、私のような特殊な興味を持った読者以外の一般読者が、本書を面白いと思うかどうか、ちょっと不安がありますけれども、少なくとも私にはとても勉強になる本ではありました。本書の著者には、別にスコットについての著書があるようですが、それも一応、目を通しておきましょうかね。


日本の中のウォルター・スコット その作品とライフスタイルの受容 [ 貝瀬英夫 ]



ウォルター・スコット『アイヴァンホー』の世界 [ 貝瀬英夫 ]





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  September 2, 2017 04:36:48 PM
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Comments

釈迦楽@ Re[1]:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) ゆりんいたりあさんへ  いやあ、メッシ…
ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
釈迦楽@ Re[1]:S師範と稽古(06/11) はちみつ先生へ    こちらこそ、有意義…
はちみつ@ Re:S師範と稽古(06/11) 先日の稽古、大変勉強になりました。 あり…
釈迦楽 @ Re[3]:柔術のコツが少し分かってきた気が・・・(04/23) はちみつ先生へ  引っ越し、思っていた…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: