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July 1, 2019
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カテゴリ: 教授の読書日記
詩人の堀口大學のお嬢さん、堀口すみれ子さんが書いたお父さんの想い出の記、『虹の館』を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 堀口大學さんは、私の母方の祖父と交流があったもので、祖父からたまに名前を聞いたことがありましたが、自分自身で意識したのは小学生の時に耽読した新潮文庫版『ルパン』の翻訳者として。同じ文庫のホームズものを訳した延原謙さんの場合とは異なり、堀口さんの訳は少し癖のある文章で、子供心に「ルパンって、『ありゃさのこりゃさ』とか言うのかなあ?」とか、「ルパンは自分のことを『わし』って言うけど、イメージと違うなあ」なんて思ったものでした。が、そこがフランス文学のフランス文学たる所以なんだろうと勝手に折り合いをつけたりして。

 ま、私はあまり好んで詩を読むタイプではないので、詩人としての堀口さんのことは昔からあまり詳しくなかったし、今もそんなに詳しくはない。

 が!

 ある時、関容子さんが書かれた『日本の鶯』という本をたまたま読んで、私の堀口大學像が激変! なんとまあ、魅力的な御仁なのかと驚愕ですよ。で、以来、何となく堀口大學さんへの興味が、私の中で維持されているわけね。

 で、これまた、たまたま、娘さんが書いた大學伝があると知り、とりあえずポチしておいて、ちょっと気が向いたもので、読んでみた次第。

 小堀杏奴が書いた鷗外伝とか、室生朝子の書いた犀星伝とか、文士の娘が父の想い出を語る体の本ってのは世に数多あって、それは大体、いい本であることが多い、というのが私の感じなんですけど、一般に自分の娘に惚れられる父親ってのは、大体においていい人なのよ。だって実の娘ってのは、父親たるものにとって一番身近で手厳しい批判者でしょ。その手厳しい批判者のお眼鏡に叶ったってんだから、それは基本的にいい人であるに決まっている。

 ・・・という私の仮説にたがわず、すみれ子さんのこの本を読むと、大學さんってのが実にいい人であり、良き家庭人であったことがよく分かる。

 大學さんは、若い頃はかの才女マリー・ローランサンと浮名を流し、彼女から「日本の鶯」と呼ばれていたプレイボーイ的なところもあったようですが、40代も半ばをとうに過ぎた頃、30年ほども歳の離れた18歳の若い娘と結婚し、50歳を超えてから一男一女をもうけて家庭をもった。で、そこから先はもう、妻にとっては良い夫、子供たちにとっては良いお父さんであったようで。



 で、一人残された娘のすみれ子さんを、大學さんは可愛がった。あまり可愛がったので、お嫁にやるのも相当にごねたほどだったとのこと。

 で、たまたま嫁ぎ先が実家と近かったこともあって、すみれ子さんは、夫を会社に送り出してから、毎日のように実家に戻ったそうで。実家に戻って葉山に住んでいた大學さんが海辺を散歩していると聞くと、すみれ子さんはお父さんの後を追いかけて海辺に出る。すると、大學さんの方でも「そろそろ娘が追いつく頃かな?」と心待ちにして歩調を緩めていたりして。で、娘さんが追いつくと、やあやあというので、人目もはばからず抱き合ってチュー、なんてしていたようですから、もう、傍目からしたら、目も当てられない親馬鹿ぶり。

 でもそんな風にされたら、娘さんのすみれ子さんとしては、嫌でもファザコンになりますわなあ・・・。

 とまあ、本書はそんなすみれ子さんの、大學さんを思う愛情たっぷりの本なのであります。

 まあ、そんな感じでほんわか~とした本なので、書いてあるのは大學さんの日常の立ち居振る舞いとかが中心で、その他のことはあまりよく分かりませんが、それでも、例えば文化功労章や文化勲章を受章・受勲した時の大學さんの喜びようとか、そういう描写から、大學さんの長年の苦労の様なんかもうっすら見えてくる部分もある。

 大學さんは、まあ、親が偉い人だったし、その関係で外国暮らしも長く、当時としてはすごく恵まれた環境に育った人ですが、学歴からすると慶應大学仏文科中退。つまり官学の卒業ではないわけ。だから、詩集なんかを出しても、官学出身の批評家なんかにえらく叩かれたんだそうで。

 ならばいっそ、交友関係のあった西条八十のように、演歌だの歌謡曲なんかの作詞でもして、大金持ちにでもなる道もあったのでしょうが、しかし大學さんには大學さんのプライドがあって、そういう方向には行かなかった。しかも、大学でフランス語やフランス文学を講じるようなこともしなかったので、お金を稼ぐとなったら翻訳で稼ぐしかない。詩は、たとえ評価されても、家族を養うほど儲かりませんからね。だから、若い時は馬車馬のように翻訳したのだとか。確かに、今、ウィキペディアで確認しても膨大な訳業が確認できる。

 だから、最晩年になって、文化勲章を受勲した時の喜びは大きかった。親に背いて進んだ文学の道で、遂に天皇陛下から勲章をもらうところまで行ったのですからね。

 ま、そんな大學さんの可愛い姿も、この本から見て取ることが出来るわけよ。

 というわけで、この本、家庭人としての堀口大學を知る上で、ナイスな本でございます。





虹の館 父・堀口大学の想い出/堀口すみれ子 ​ 



日本の鶯 堀口大學聞書き (岩波現代文庫 文芸 181)[本/雑誌] (文庫) / 関容子





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Last updated  July 1, 2019 01:00:08 PM
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