・・・ アローは n 人の有限人個人からなる社会の構成員全員の選好関係 ⊇i の列 (「選好プロファイル」) (⊇1,・・・・、⊇n) を独立変数とし、 「社会選好」と呼ばれる選好関係 ⊇ を従属変数とする関数を考え、 それを「社会厚生関数」(選好集計ルール) と呼んだ。 ここで 社会選好⊇ は次の2つの公理
を満たすことを仮定する (ただし x⊇ y は選択肢 x が y 以上にランクされる (好ましい) ことを表す; ⊇ は数の不等号とは異なる; 記号⊇ の代わりに「関係」(relation) を表す R の文字が使われることも多い):
・ 完備性
. 任意の2つの選択肢 x, y に対し、 x⊇ y もしくは y⊇ x が成立する。 すなわち x が y 以上に望ましいか、 y が x 以上に望ましいかのいずれかである。 (このうち前者だけが成立するとき x⊃ y と書き、 x が y よりも好ましいことを表す。 後者だけが成立するとき ( y⊃ x) は、 y が x よりも好ましい。 いずれも成立するときは x と y は無差別という。 記号⊃ の代わりに「より好む」(prefer) を表す P の文字が使われることも多い。 なお「反射性」すなわち任意の選択肢 x にかんして x ⊇ x が成立することは, 完備性から導かれる。) ・ 推移性
. 任意の3つの選択肢 x, y, z にたいし、 x⊇ y かつ y⊇ z ならば x⊇ z となる。 すなわち x が y 以上に望ましく、 y が z 以上に望ましければ、 x は z 以上に望ましい。 選好関係がこれら2つの公理を満たすならば、選択肢が何個あろうともそれが有限個である限り、 最も良い選択肢(1個とは限らない)を選ぶことができる。 その意味でこのような選好関係は「合理性」を持つと言える。
1. 定義域の非限定性 (普遍性)
. 社会を構成するそれぞれの個人は、 完備性・推移性を満たす限りどのような選好をも持ち得る。 (すなわち個人選好⊇ i が上記の公理をみたすことのみを仮定。 この条件は「社会厚生関数」の定義にふくまれることも多い。) 2. 全会一致性 (パレート原則).
社会の全員の選好が「x は y よりも望ましい」と 一致している場合、社会選好も「x は y よりも望ましい」となる。 (すなわち「すべての個人 i について x⊃i y」ならば, x⊃ y となる。) 3. 無関係な選択対象からの独立性.
選択肢 x と y にかかわる社会選好が、 それらふたつの選択肢にかんする個人の順序づけのみで決まる。 すなわちその他の選択肢 z に関する個人的選好によって左右されない。 (すなわち x⊇ y が成立しているかどうかを知るためには、 それら特定の x, y について、 x⊇ iy と y⊇i x のいずれ, あるいは両方,が成り立っているかをすべての個人 i について 記述したデータがあれば十分である。) 4. 非独裁性.
構成員の中に「独裁者」(そのひとが x を y より望ましいとしたときは、 かならず社会選好でも x が y より望ましくなるような個人) が存在しない。 (すなわち「任意の選好プロファイルについて、もし x ⊃i y ならば, x⊃ y となるような」個人 i が存在しない。) アローの定理とは、3つ以上の選択肢があるとき、上述した社会選好に関する2つの公理と民主制のための4つの条件をすべて満たす社会厚生関数は存在しないことをしめした定理である。すなわち社会が選択肢を合理的に選べるための 2つの公理 (社会選好が完備で推移的であること) と民主的決定のための 4条件とは互いに矛盾することを示した。 この否定的結論は「社会的決定の合理性と民主制の両立は困難である」とか「民主主義は不可能である」といった (それ自体は誤りとは言えない) 主張に単純化されて理解されることもあった。 定理の内容が正しく理解されたにせよそうでなかったにせよ、 この定理が「一般意思」「社会的善」「公共善」「人民の意思」といった主張に疑いを投げかけたことはまちがいない[4]。 この定理をアロー自身は「一般可能性定理」と呼んだ。しかしこの定理のもつ否定的含意から、「アローの不可能性定理」と呼ばれるのが一般的となった。
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2. 日本の社会選択理論の第一人者をご紹介
(1) 「厚生経済学の基礎 合理的選択と社会的評価」
鈴村興太郎著
ページ数=21,552Page
岩波書店 2009年6月
(2)「 厚生と権利の狭間
」 ミネルヴァ書房
鈴村興太郎著
(3) Handbook of social choice and welfare
, vol 1.
Suzumura, Kōtarō; Arrow
, Kenneth Joseph; Sen, Amartya Kumar (2002).