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小沢信男著「裸の大将一代記・山下清の見た夢」を読み終えたが、実に愉しい本であった。
山下清の生き様は、大正に生まれ戦前・戦後・そして高度経済成長期という慌ただしい時代を一気に駆け抜け、とてつもなく自由に生きた大放浪画家だったというから、誰でも共感を呼ぶところ。放浪したという1935年~54年は多分もののない時代、食べ物がようやく行き渡るようになった頃であろうにルンペン生活が出来たというから、今とは人情が大きく違う時代だったのでは無いだろうか。
そういえば現代は日本全国が都会化してしまって、一頃のように田舎らしい田舎が無くなっているようにも思える。腰を掛けて話をする「縁側」というなつかしい場所もなくなってしまった。以下、徳川夢声との対談のひとこま。
「…徳川さんてんだね。徳川さんというと、どんなひと?ちょっとわかるけどね。ラジオで放送するの、たいてい徳川さんかい。…ぼくの絵は、兵隊の位になおすと、どのへんですか?天皇陛下に、絵をかいてくれっていわれたら、ふつうのひととおなじ絵じゃあ、おかしいだろうな。どのくらいのおおきさかな。…そのタバコ兵隊の位になおすと、どのくらい?大将というと、どのタバコだろうな。…ぼくの知能は劣ってるの?どのくらい劣ってるの?ああ、くたびれたな、すこし。」
羽田発(機内でスチュワーデスとの会話)「おばさん、おばさん、この飛行機はジェット機で、ジェット機はふつうの飛行機よりずっと早いので、ときどきかじを下にむけないと、地球のそとにとびだしやしませんか。ねえさん、ねえさん、それではそうじゅう士はたまには高さをはかる機かいを見るのわすれて、地球の外へとびだしかけたことはありませんか?…」というように。ああー。なんと純真な山下清殿。
ものが有り余って人の心がすさんでしまった現代の世相を、山下清流に「兵隊の位になおすと、どのくらい?」、「さあ!二等兵」かも知れないけれど…。ああー。願わくばタイムスリップして山下清画伯に逢いたい!!
バスを待ち大路の春をうたがわず 石田波郷
