草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2019年02月19日
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第 四百六 回 目


   「 縄文杉 の在る 嶋にて 」

 時代:現代

 場所:屋久島の中

 人物:青年 老人 少女 ババ その他

 ババが一人で森の中を歩いている。辺りは静寂に包まれている。突如、頭の上で朗らかな笑い声

がした。ババは不思議そうにそれを聞いた。しばらく進むと海岸に出た。すると一人の青年が懐か

しい人でも出迎える様に、ババを待っている。

 ババ「あんたさんとは、確か初対面の筈だが…」



 ババ「と、いう事は以前にお逢いしている?」

 青年「ええ、まあ、そうなのですが僕は一目で、貴女が好きになりました」

 ババ「これはどうも…(傍白)こんな素敵な青年に好きだなんて言われると、吾、もうどうした

らいいか分からなくなってしまう。あのォー、吾はこの島に初めて来たのですが、あんたさんは

どうなんですか?」

 青年「僕ですか、僕はこの島の生まれです」

 ババ「ありゃまあ、土地っ子さんですか。それは好都合でした。吾は三日前から此処に来て、一

通りガイドブックに載っている名所には行ってみたのですが、こう言っては何なのですが、何かこ

う物足りない気がしているのです」

 青年「そうでしょうね。ですから僕が貴女のお相手をしようと」

 ババ「ありゃまあ、又また驚いた」



です」

 実に感じのよい少女が、忽然として青年の隣に立っていた。

 ババ「あんたさん、吾の名前まで御存知だったのですね。あっ、御挨拶が遅れてしまった。青森

から来た柴田と言う婆です。どうぞ宜しく」

 と、そこへ「助けて下さい」と言いながら若い女性が走って来た。「どうしました」と言って後



 若い男「済みません、何でもないのです。さあ明美、こっちへおいで」と無理矢理に女性を連れ

て行こうとする男。

 ババ「あの、一寸あんたさん、この方は怯えてこんなに震えているではありませんか」

 男「なあに、何でもないのです」と尚も強引に女性の手を引張って連れて行こうとする男。

 ババ「この人、こんなに怯えているのだから」と言って相手を遮ろうとする。

 男「邪魔をしないでくれ。他人のあんたには関係のない事なのだから」と乱暴にババの手を払い

除ける。女は地面にしゃがみこみババの脚にしがみついた。

 ババ「事情はよく分からないけれど、とにかく力ずくで事を運ぼうとするのはやめて」とババは

決然として男を睨んだ。タジタジとなる男。すると、そこに小さな男の子が走って来てババにすが

りついた。

 男の子「怖いよ、ママが、ママがぼくを打(ぶ)つんだ」

 見ると杖を手にした母親が恐ろしい剣幕で後を追い掛けて来た。両手を広げてそれを制止する

ババ。

 母親「家の子をこっちに寄こして」

 ババ「この子は貴女のお子さんですか」

 母親「そうですよ、早くその子をこっちに寄こしなさい」と、鬼の形相である。

 ババ「寄こしなさいって、こんなに怖がっているじゃありませんか」

 母親「躾をしているのです。自分の子供に躾をしているのですから、他人がつべこべ言って

邪魔をしないでもらいたいわ」


  一時間後。海岸の別の場所でババと青年と少女が海を眺めながら話をしている。

 少女「私の祖父が私を迎えに来てくれました」

 ババ「まあ、何てハンサムで品の善いお年寄りだこと」

 老人「今日は。遠路はるばるようこそ私共の嶋にいらっしゃいました」

 ババ「優しい歓迎の言葉も素晴らしい。何だか吾、急に何もかもが満たされた様な気持ちになれ

ている。どうしてだろうか?」

 老人「それは貴女の心根が素晴らしいからですよ、柴田さん」

 ババ「不思議だ、この御方も初対面なのに吾の名前を知っている」

 少女「お爺さん、さっき嫌な事があったのですよ」

 老人「そうだったね、しかし、世の中には嫌な事もあれば、愉快な事もある」

 青年「それでは、この素晴らしいゲストに相応しい歌を歌って、私達のささやかな歓迎の気持ち

を表明しましょうか」

 老人「それがいい、それがいい」

 少女「それでは私から始めますよ。お婆さん、喜びの唄、と私達が呼んでいる秘密の長歌なので

すが」

 ババ「吾の為にあんたが歌を聴かせてくれるってか」と、ババは底抜けに明るい表情になった。

 少女の歌「 青い青い空、広い広い海、純白の白い雲が流れ、鳥たちが喜びの囀りをかわす、

ワッファッふぁ、ウッフッフうっふっふ、ワッファッファファ。太陽がまばゆい光を放って水平線

を離れる、今朝も平和だ、新鮮だ、空も海も山も、木々も獣も笑い声を立てる、ほっほっほ、げら

げら、ほっほっほ、げらげら、これは愉快だ、やめられないよ、愉快だな 」

 青年の歌「 風が風がそよぐ、緑が緑が揺れる、波が波が騒ぐ、魚が笑う、海藻が叫ぶ、オーフ

ォフォフォおーふぉっふぉ、これは堪らない愉快過ぎる、楽し過ぎる、笑いが止まらない、ゲラゲ

ラげらげら、オーフォフォおーふぉふぉ、げらげらげ 」

 老人の歌「 満月が煌めいている、星々がさんざめいている、ふっふっふ、あっはっは、フッフ

フあっふぁふぁ、もう我慢が出来ない、みんなで大爆笑しよう。ゲラゲラ、ゲラゲラ、げらげら…

 」

 ババ「吾も何だか謡いたくなった、笑いたくなった、あっははっは、あっは、あっはハハハ」

 三人の愉快で底抜けに明るい歌声が海岸をなお一層明るくしている。

 青年「僕らもこの唄を歌うのは久しぶりですが、気分が爽快になりました」

 少女「こんなに朗らかになれたのは、生まれて初めてのことです、お婆さん、本当に有難う」

 ババ「いやいや、お礼を言わなければならないのは私の方ですよ」

 老人「わしも久しぶりに心の底から愉快だった。昨日も沖を通り過ぎたイルカの群れがこんな事

を言っていたよ。世界中の海と言う海が、何処もかしこも汚染されてしまった。悲しいね、とさ」

 少女「私のお友達も同じような事を言っていたわ。世界中の空が汚れてしまって、哀しい、哀し

いって」

 青年「さっきの、あの旅行者達も皆、心にゴミを抱えていた。でも自分達ではそれに気づいては

居ないらしい」

 少女「おじいさん、昔はどうだったのかしら、おじいさんが子供だった頃は」

 老人「昔か、そうだな…、もうほとんど忘れてしまったが、台風の風は今日びのような凄まじい

風を巻き起こしてはいなかった、ような気がするよ」


 数か月後のと或る遊園地。ババとジジの二人が仲好く観覧車に乗っている。

 ジジ「こうして高い所から眺めると景色が綺麗だね」

 ババ「本当だね、実際、自分たちの年齢を忘れて童心に還れるね」

 ジジ「ところで、屋久島への旅はどうだったの、随分と楽しみにしていたようだけれど」

 ババ「楽しかったよ、想像していた以上に」

 ジジ「そうか、それはよかった。それで、一番の思い出は何?」

 ババ「腹の底から笑ったこと」

 ジジ「腹の底から、笑った? それはまた、どういう事なの。説明してくれないか」

 ババ「吾も意外だった、憧れていた南の島で、心の洗濯をしようと思っていたけれど、大笑い

して気分が爽快になったのだから」

 ジジ「大笑いした、それはどういう事なのかな」

 ババ「吾にもよく分からない所があるのだけれども、兎に角気分のいい人達に会えた。そして

愉しい唄を一緒に、大声で歌って…」

 ジジ「楽しい唄を、大声でね」

 ババ「そう、四人して子供のように無邪気に」

 ジジ「子供の様に、な」

 ババ「そう、不思議だよ。吾、自分で実際に体験した癖に、後から思い出すとあれは本当にあっ

た事なのか、それとも夢でも見たのか、分からなくなってしまう」

 ジジ「本人が実際の事か、夢の中の事か分からないと言う以上は、俺には判断がつかないことだ

けれども、どっちにしても気分がすっきりしたのだったら、よかっじゃないの」

 ババ「そうだね、あんたは本にほんに頭がよいのだね」

 ジジ「お褒めに預かって、嬉しいよ、俺は」

 ババ「分かった、吾、今になってはっきりと理解出来た。あれは、あの三人はあの島の精霊たち

だったのだ」

 ジジ「精霊か、あんた随分難しい事を知っているのだね」

 ババ「分かった、分かった、全部が分かったよ」

 ジジ「俺には何のことかさっぱり分からないけれども、とにかくあんたが喜んでいるのだから、

何も言う事はないよ」

 ババ「賢いね、あんたさんは。偉いよ」

 ジジ「他の人からそう言われたら俺はバカにされたような気がして、腹を立てるでしょうが、

おめえからそう言ってもらうと、素直に嬉しいよ。所で、何が分かったの、一体」

 ババ「世の中の事が、全て分かったような気がしただけ…、でも、頭が急に良くなったわけでは

ないよ」

 ジジ「それはそうかも知れないけれど、あんたは前から賢かった。それだけは折り紙付きだ」

 ババ「有難う。本当に有難う」

                            《  完  》





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最終更新日  2019年02月19日 15時04分35秒
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