草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年07月09日
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○ アパートの一室

 町医者が往診に来て、窓際のベッドに横になる娘・沢村絹香(28歳)を診察している。恋人の青年・江森

次郎(31歳)も来ている。

○ 同じ場所(30分経過)

 みどりに対して深々と頭を下げ、

次郎青年「どうも御親切に色々と有難う御座いました」

みどり「いいえ、困っている時はお互い様ですから。それよりも先ほどのお医者様のお話でも、随分無理

を重ねられた様子ですね」

次郎「根が頑張り屋さんなものですから、どうしても無理をしてしまうのでしょう。それに、僕が余りに



みどり「何か深い事情でもお有りの御様子ですが、よかったらお聞かせくださいませんか。何か少しでも

お役に立てるかも知れませんので……」

次郎「ええ、有難う御座います。僕も彼女も地方出身でして」

みどり「そうですか」

次郎「絹香、彼女のことですが、絹香は北陸の出で、僕の方は四国の山奥の出身です。二人共、柄にもな

く大志を抱いて、いや望みのない大きな夢を持って、上京したのですが、今考えれば無謀に過ぎる行動だ

ったかも知れません」

みどり「(大きく頷いている)」

○ みどりの回想・その③ (質素な結婚式)

 区立中央会館で、ごく身内と友人・知人の有志たちの資金持ち寄りで行われた、会費制の結婚式であ

る。



ら、小さないさかいが山の様に持ち上がりましたが、青森からみどりのご両親も出席され、質素ではあ

っても真心のこもった結婚式になりました」

○ 元のアパートの部屋

次郎「幼い頃から僕も絹香も、貧しい家庭で育ちましたので、東京で一旗上げたいと言う野心のような憧

れが強くありました。僕たちは浅草で知り合って、恋仲になったのです。彼女は振袖さんをしながら、昼



合格するのが目標で、山奥でひとりで細々と農業を営んでいる母を、一日も早く安心させたいと思ってい

たのですが……。健気な彼女の様子を見兼ねて、先月から観光用の人力車夫として働き始めたのですが、

絹香が猛烈に反対しているのです」

みどり「そうでしたか」と立って行って、絹香の寝顔を覗き込む。

○ みどりの回想・その④ ( 様々な仕事の遍歴 )

 ―― 新宿角筈・紀伊国屋ビルにある、「角筈病院」での医療事務の仕事。

 ―― 公文の回答の添削のアルバイト。

 ―― 鍼灸医院での手伝い仕事。

 ―― ホテルの宴会係としての厳しい修行。

 ―― 高級料亭の仲居として働く日々。

 ―― 自分の店「創作料理 トレヴィ」での活躍。

 ―― 「浅草いまはん本店」のサービス長に抜擢されてからの仕事ぶり。

 ナレーション「(みどりの声で) 夫はテレビドラマのプロデューサーで、仕事の上では多額のお金を動

かす立場にありましたが、身分は一介のサラリーマン。薄給の身でありましたし、何よりもテレビで観た

「細腕繁盛記」のヒロインに憧れて東京に出た私ですから、育児をしながらでも、外に出て働きたいと思

う気持が常にありました」

○ 元の部屋

 みどりが江森次郎と寝ている沢村絹香の二人に言い聞かせるように言う。

みどり「一所懸命に努力していれば、いつかは向こうから必ず良いことがやって来ます。私たち

一家もそうだったのですが、浅草の観音様がお守り下さっておりますから、大丈夫ですよ」

次郎「有難う存じます、みどり御姐さん」

みどり「まあ、私のことを御存知でしたの」

次郎「勿論です。郷里の母も、機会があれば一度、笑顔の素晴らしいあのお方に、お目にかかりたいと言

っております」

みどり「そうですか。本当に、そうしたお声が何よりも嬉しく励みになるます」

○ いまはん本店・客室

 開店前に客室を点検し、自ら活花を生けているみどり。 と、店長が姿を現した。

店長「みどりさん、ご苦労様です」

みどり「お早う御座います、店長」

 店長は、みどりの生けた草花の枝ぶりなどをじっと見守ってから、

店長「プロの方とはまた、一味違った風情がありますね」

みどり「恐縮です。勝手をさせて頂いて感謝致して居ります。ここまで致しませんと、気が済みませんの

で……」

店長「いいえ、こちらこそ感謝してますのよ。所で、また一つお願い事があるのですが…」

みどり「はい、何なりと承ります」

○ とある高級料理店・店内

 一人の客として来ているみどり。今、業界で評判になっている人気店の視察のために、店長からの業務

命令として下された仕事である。 店の雰囲気もよく、料理の味も悪くないのだが、何かほんの少しだけ

物足りなさが残る…。 何故なのだろかと、心の中で、自問自答するみどりである。

○ 数日後のいまはん本店・店内

 奥の水屋付近で、仲居たちが何かひそひそと話をしている。

みどり「どうしたのですか?」

 仲居たちのひとりが恐る恐る近くの客室の方を指で示して、

仲居 A「御姐さん、あの方たち…」

 見ると個室の中に数人の客たちがいるのが分かる。ひと目でヤクザとと知れる男達ばかりである。ごく

稀には会社の宴会という触れ込みで、この種の客たちが来店するのだが、電話予約ではチェックし切れな

いのだ。 みどりは素早く個室に挨拶に出る。また、腰の引けている仲居達に指図して、

みどり「普段通りに、段取りよくお料理をお出ししてください」と、誠に手際の良い接客振りである。

  ―― 時間経過。 頃合を見計らっていたみどりが、仲居達に指図する。

みどり「これから十分程は、他の部屋のお客様たちにはおトイレを我慢して頂き、絶対にあの個室のお

客たちとは顔を合わさないように、工夫してください。このお店の信用が懸っているのですからね」

 そして、兄貴分らしい客を自ら玄関先まで先導して、率先して素早く個室の客たちを帰させるみどりで

ある。  ひと息吐いた仲居たち一同である。

仲居 B[みどり御姐さん、やっぱり凄い!」

仲居 C「私なんか、足が竦んでしまって」と、みどりを見る。

みどり「私だって、足がガタガタと震えていたのです。必死の思いで頑張ったのよ」と、放心した様な表

情でいる。





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最終更新日  2021年07月09日 21時54分34秒
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