草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年03月12日
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下 之 巻  與次兵衛吾妻 道行

 同じ春に育っても互が相手を知ることがなければ、こうまで恋に苦しむことはなかったのに、花が誘う

蝶は菜種の味を知らず、菜種は蝶の美しさを知らずに済んでしまったただろうに、お互いが相手を知らず

いたならば、浮かれ初めないだろうに、恋狂いしなかっただろう。

 なまじ知ってしまったので、こうまでも心を悩ますのも、思えば情けないことだ。吾妻が立ち寄って、

おお、嬉しや、お心も鎮まりましたか。あれ、ご覧ぜよ、虫でさえ、番を離れようとはしない揚羽の蝶、

我々も二人連れ、恋の思いも知り抜いた二人であるのに、却って心が弱くなってしまっています。そう言

って諌めると、吾妻を請け出せ、與次兵衛、請け出せ、請け出せ、山崎與次兵衛、何時か思いの下紐解

て、昔思えば憂い辛い、憂や辛や。忍ぶ昔も憂や辛や、情けなや、誰(たれ)あろう、山崎與次兵衛様だと



や、輿次兵衛に色の道で揉まれて鍛えられ、顔色が悪いことよ、愛しい事だ。近いうちにはきっと廓から

請出して楽をさせよう、世帯を持って子供を儲けよう、二人で子供を連れて乳母が肩車し、乳母の夫が日

傘をさしかけて、肩で風を切るようにして山崎の里を大威張りで歩こうと思っていたが、親の御恩を打ち

捨ててそなたの世話になり、なりふり構わずに、昔には似ぬ男山。今では人も秋篠の外山(とやま)の松

よ、事問わん、待つのが辛いか、別れが憂いか、待ちも別れもせぬように、親の許した女房は、義理と情

けのふた面(おもて)かけて思えど甲斐もなく、今は野末の離れ駒同然の身になってしまった。昨日は吾妻

に恋を乗せ、今日は故郷を焦がれ泣き、我から狂う秋の葉の、乱れて袖に置きもせずに、寝もしないで露

の露の玉々も、待たれるとしても待つ身にはなるな。親と子の便りをしのぐ山崎の妻もさこそは乱れ髪、

結うではないが、言った詞が力ぞや。

、わしが馴染みは三重の帯、長い夜すがら引き締めて寝たが、嫉妬や悋気の心もなくて、預かる物は半分

の主は忘れていますかや、過ぎし日の楽しかった月見は井筒屋で、底意を汲むそれではないが、隈もない



中姿、目付きで悩殺する、身振りで男の心を奪う、傾城がいつも手放さない化粧盥は謂わばその女房役、

身請けの計画が虚しくなってしまった、影も宿らないきぬぎぬの別れを告げてきた親を悲しみ、妻を恋

い、心一つを二た品に名告りて過ぎた時鳥、父の浄閑のまじめさに似ず、色里で豪遊し大尽客の威勢で茶

屋の内儀に送られて、太夫を相手に口説をする。遣手が叩く、禿が眠り、皆が夢の間の境涯と夢が覚めて

しまえば粋も野暮も変わりはない。



山おろし、激しい親の諌めの言葉、妻の別れの一言葉、身にしみてじみと恋しくて、互いに手と手を取り

合って、声も惜しまずに泣くのだった。

 夕日も山の端に近づいて、西北に風起こり、東南に向かう雲の足、梢木の間もはらはらはら、小川の水

音さらさらさら、羽のような袖に似た雲、ひらひらひらとあなたに靡き、こなたへと靡き、くるりくるり

くるくるりと、廻り廻るや月は行けども、果てしもない思いは目前の親の罰、当たって砕ける男の姿。走

れば走り、止まれば止まり、吾妻までが乱れる心、命がつれない流れの身、流れ渡りの世の中に、しばし

と留まる賎が家の、軒を尋ねて悩むのだった。

 難波潟(なにわがた)、梅に名をとり松茂り、紅葉の錦、昼さえや夜見世を新たにお許しと疾しや遅しと

見に来る、廓四筋の町の軒が深く、灯火は星の如くであり、八月十五夜、満月が照り渡る夜よりも明るく

月・潮・影と分かれた端女郎の隅々まで客あしらいの良いところは、客の絶えることもな局々は手拭いが

濡れない隙はないのだった。

 太鼓は打たないで大門に轟く馬の高嘶(いなな)き、井筒の許に乗りかけ馬で駆けつけた客は八幡の難與

平、威勢美々しく飛び降りれば、亭主よ迎えの槌で庭を掃く(露骨に世辞や追従を言うこと)には及ばない

ぞ。玄九郎左、見忘れか、當正月には造作(ご馳走)の上で、貴殿の世話になる、難與平だ。

 以前は金銀が無かった、内大臣だった、今日参ったのは内々の訳もあれば金もあるぞ。大臣として罷り

通る。そう言ってつっと入った。

 誠にそうよ、お珍しい。先ずはお茶、煙草と軽薄にも応対し、油を乗せた灯台も早く立ち替えて百目蝋

燭にした。色里というものは金次第でどうにでもなるもの。

 九郎左近くに参れと招き寄せて、知っての通りにこの正月に藤屋の太夫から貰った金、直ぐに東にて芽

を出して他人に損害を与えずに成功を収めて、骨折りがいがあって、その金を馬の背に積んでこの度罷り

帰った。

 太夫の吾妻は廓を抜け出して、関を破った科人として行方を捜し求められているとの由。道中すがら承

っているぞ。恩を受け、言葉を番い身請けの約束をしていたので、この與平は約束を違えては男が立たな

い。彼女を請出して肩身の広い思いをさせてやろう。吾妻の年季の証文があるであろう、こちらに貰いた

い。金に代えて今夜のうちに万事が落着するように願いたい。九郎左衛門、御差配、御差配とちょっとの

心付けでしっぽりと家内が潤うのだった。

 お目出度い、お目出度い、吾妻の噂をお聞きとあるからは、申すに及ばないことではありまするが、不

思議な事がございましてな、今日暮れ方に田舎めいた浪人がおいでになられて、吾妻が此処にいなくとも

年季証文だけでも身請けがしたい。金はないのだが一腰の宇多(うだ)の國行(くにゆき、鎌倉時代の刀匠

)、二尺ばかりの段平(だんびら)物(刀剣の身の広いのを言う)を折り紙(刀剣鑑定の証書)と一緒に引換よと

奥の座敷に居られるのです。

 吾妻の抱え主の置屋の主人にはまだ連絡はしていないのです。あなた様のお申し出と一緒に親方に申し

出てみましょう。そう言って立ち出る。

 表の騒ぎは葉屋の彦介で、どかどかと入って来た。

 こりゃ珍しい、旦那。金が取れたか、儲かっているか。果報な九郎左、金儲けならば俺の方につけ。

 軽いお出でが身請けの談合だ、何と、偉いものであろう。お前も知るとおりにこの春早々に山崎の與次

兵衛めに小鬢先をちょっとばかり削られた。弓矢八幡堪忍しない気だ。代官所にも訴えて親の浄閑の御預

けだ。先方では内々に手を回して段々と詫びごとをする。金ずくで示談にしようとしても百万両でも聞か

ない俺だぞ。これ、見よ。傷も平癒した。與次兵衛めは憎いのだが、親めの心が不憫なので許したやった

ぞ。その礼として目腐れ金を酒代と言う名目で寄越した。酒戻し(逆さ戻し、聞こえるのでこれを忌む習

わしがあった)をしないのでまあ、受け取っておいた。吾妻めが関破りも、與次兵衛が唆して御預けのう

ちを連れて逃げた。浄閑はその祟に吾妻と與次兵衛を探し出すまで道具諸色(家財一切)に封印を付けて厳

しい閉門。聞けば、與次兵衛めは野垂れ死にしたげな。もしも世間に顔を出せば、そのまま首を切られる

身だ。死んだのはむしろ幸せというものだ。さて、談合とは吾妻のことじゃ。関破りの科人だからほって

おいたら命も助からない。慈悲深い仏性に生まれついたのが彦介の病、これも助けてとらせたい。先ず吾

妻めが手形を請出して、跡でゆるゆると行方を捜し出して、飯でも炊かせ、すすぎ洗濯、手足をさすらせ

て一生養い殺しにする覚悟、彦介だからこそこうも言うのだ、抱え主と相談して片をつけろ。こりゃ、現

銀だと言って亭主の前に、五十両を投げ出した。

 與平は始終を聴き終えて、御免と襖を押し明け、亭主、亭主、吾妻の身請けは身が先だ。金子はこれだ

と持たせていた千両包の木地の台を前にずっしりと飾らせたのだ。

 前後の争いをするならば、この浪人者が一番であると、呼ばわって座敷に姿を現して、身請けの代金は

この腰の物、三千貫の折り紙付きだ。刀と折り紙とを一緒に投げ出した。その浪人のなり格好は素性はは

っきりとは分からないが、與次兵衛が語っていた治部右衛門に間違いないだろうと、難與平は口を閉じて

伺っている。

 亭主の九郎左は「福徳の三年目(久々に幸運に廻り合う意)」に行き当って、成るか成らぬかは抱え主の

考え次第だ、身が参ろうか、それとも呼びにやろうか。

 それは御苦労様じゃ、九郎左、九郎左、やはり身がまいろうとばかりに独り言して駆け出した。

 後は互のにらみ合い。彦介は手酷く懲りている。與平の顔が気味悪くて気が気ではないけれども、見か

けだけは服部育ちだけに強そう(服部煙草は香味が強烈なので言う)で、煙草盆を引き寄せて煙を吹き出

す仏頂面、煙管が迷惑で灰吹きを叩いて返事を待っいる。

 吾妻の親方の勘右衛門が揚屋の亭主に連れられて座敷に出て、様子は九郎左が物語って、吾妻の手形を

身請けとはついに廓に前例のないことで、何とも返事が致しかねまする。お三人のうちのどなたに手形を

差し上げましても、この事が世間に流布して客と手を取り廓を出てからでも、金さえ出せば済むことと悪

知恵をつけることになるます。

 そこにも駆け落ち、此処でも逃げた、又しても関破りと、廓の騒動、親方仲間の難儀となります。この

相談はお受けしかねます。一度吾妻が廓に帰ってきてからと言うのであれば、その顔を見たあとでなら、

良いようにと致しましょうが、と聴き終えないで、聞こえた、よしわかったぞ。余人は知らずこの彦介、

早速吾妻を尋ね出して、身請けは俺じゃぞ。確かに約束した、罷り帰るとずんと立った。

 そうはさせぬと難與平、小腕とって引きかずいてどうと投げ、背骨にしっかりと打ちまたがって、逃げ

ることも早かったが、帰ることも素早い、達者に生まれついた奴。動いたら頭を張り砕いてやるぞ。合点

か、藤屋の勘右、尤も千万、今の詞を聴きどころだ、吾妻の顔を一目見たならば、その座で身請けは間違

いない。何の虚言を申しましょう。年季も残り少ない吾妻、今まで金を儲けてくれる。偽りは申しません



 むむ、面白い、それで代官所の方も差し障りはないか。その段もこちらから申し下ろせば、相済みま

す。珍重、珍重、それは何よりのことだ。下々ども、その皮葛籠をもって参れ。亭主、二つを開かれよ。

 あっと葛籠の紐を解いて、紐を解く。

 中から與次兵衛と吾妻が正気になって立ち出でた。

 彦介は吃驚して、親方や亭主も興ざめ顔。治部右衛門は我が身の身分を隠しかねて、やれ與次兵衛か、

治部じゃ、治部じゃ、無事な顔を見て嬉しいと、跡は言わずに嬉し涙。悦び顔。

 與次兵衛も頭を下げて、何事も御免あれ。親の浄閑にお詫び言、頼むに及ばないぞ、浄閑の心入れも聞

いてある。吾妻もいかい苦労をなさった。のう、親方殿、この一腰に引換えて吾妻を身どもに下されと手

をつけば、吾妻も、お久しいことで御座います、九郎左様、旦那様へもお詫び致しまする。お頼み致しま

すると泣いている。

 與平は勇んで彦介を取って引き立てて、おのれよく聞け、この與平が江戸へ稼ぎに出た根本の動機は、

吾妻殿を身請けして廓の苦患から助けようと、思い込んだ一か八かの商い。銀で五百貫目に近い金高、手

間隙言わずに儲け溜め、立ち返る道すがら、與次兵衛様にお目にかかり、様子は段々聞き届けた。貴様を

切ったのはこの與平だ。與次兵衛殿に難儀をかけて金銀を大分掠め取ったな。打ちのめしても腹は癒えな

いが、目出度い時節じゃ、とっとと帰れ。そう言って突き放した。

 ああ、有り難や。正月にもこの座敷でとって投げられ、そのあとでは斬りつけられ、今日は又殺される

かと思ったが、お助けは有難いぞ。目出度い三度と言う数にも合う、と逃げだしたのを治部右衛門が片腕

をひしいて投げ飛ばし、おのれはどうも往されぬ。浄閑殿が冤罪であることをお上に申し開きもさせ、閉

門御免も受けなければならない。そう言いながら素早く縛り上げて、身請けは済んだか與平殿。

 いやまだ済んでいない。金子は千両だ、手形に代えてと難與平、親方の前に置いた。

 勘右衛門は頭を振り、来二月には年季もあき身も自由になる吾妻だ、千両という金を取っては世間の思

惑もあり男が立たない。金は要らぬからお連れなされと言いたいところだが、よもや聞きいれはなさるま

い。年季の残りの六月の三百両、あとは要らないと突き戻した。

 與平は元からさっぱりとした気性の男で、出来た、出来た、手形は取った、金取った。吾妻の身請けは

済みましたぞ。そこで請け出せ、三百両、さあ、手打ちだぞ。しゃんしゃん、もうひとつせい、しゃんし

ゃん、すっとせ、

 こりゃ、亭主、この千両は始めから身請けに当てていたのだ、一銭でも残しては気がすまない。三百両

は亭主への祝儀としてやろう。

 こりゃ、忝ない。二口合わせて六百両、打っておけ。しゃんしゃん、四百両が残って気にかかる。皆、

集まって祝えとばらばらばら、と撒き散らせば、あたり一面は小判の色、畳の色も変わるばかり。

 揚屋の男女は別ちなく、押し合いへし合い、拾い取り、みな取り込んだか、目出度い、目出度い。祝っ

て三度、しゃんしゃんしゃんと、手拍子に、口拍子、幸せ拍子の三三九度、末は千秋萬年も変わらぬ妹背

を重ねける。





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最終更新日  2025年03月12日 21時10分15秒
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