草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月23日
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女偏に區(こもち) 山 姥(やまうば)

 漢に三尺(さんせき)の斬蛇があり、四百年の基を起こす。秦に大阿工市あって、六国を合わす。

 古の君子、是を以てみずから守るとする。子路(しろ)が謳った剣の舞、返す袂も面白き。

 我が神国の天の村雲、百王護国のお守り、野辺に伏す民こそ目出たけれ。されば今上天暦(てんりゃく)

の帝が御代しろしめす慈しみ、波静かなる遠江、枝を鳴らさぬ時津風、、浜松の宿の辺に当たって空に紫

の雲気が漂い、斗牛の間に英々(雲が軽く明るい様)たり。

 ここに清和天皇の正統、摂津の守源の頼光十八歳、かくと伝え聞き給い、寄せて寄せてもろこし)の張華

が名剣を得たるためし、疑いもなくこの辺に天下の重宝となるべき名剣が埋もれてあるに相違ない。尋ね

求めて父満仲(まんじゅう)の武功を継ぎ、源氏の子孫に伝えんと、同年の若者渡邊の源五綱に御心を合わ



小夜の中山(今の静岡県掛川市内)にお宿を召されたのだ。

 その頃、胤子女院の御弟、清原の右大将高藤と言ってわずかの(詰まらぬ)儒家に生まれながら當今(とう

ぎん、今の天皇)の御外戚。姉女院の威勢をかって中納言の右大将に経上がり、栄耀奢り、身に余り、諸

国の名所を遊覧して、今宵はこの宿にお泊りと宿割りの侍がひじを張って、むらむらと立ちかかり、やあ

やあ、当宿にこの家でなくては御本陣になりそうな家はない。先立っての宿札は何者ぞ。幕も札もはやは

や捲れと呼ばわった。

 亭主は驚いて、これこれ、粗忽なされるな、忝くも摂津の守頼光、源氏の大将の御宿札と制したのだ

が、何の頼光、源氏でも毛虫でも清原の右大将殿の威勢にはかなうまじ。のじばらば(のさばれば)幕を引

きちぎって宿札を打ち割り、引きずり出せと罵りけり。

 渡辺の綱は聞きもあえず、何の条、先(せん)に打ったる宿札。指でもささば踏み殺そう。と、躍り出よ

うとするのを頼光がしばしと押しとどめなされて、同じ武家にもあらばこそ、長袖(公家)に勝っても誉に



 ひそかにこの宿を立ち出でて、宿外れに一宿しようぞ。汝は残って穏便に明け渡すべしと、手廻り少々

御供にて裏の小道の松蔭より、山路に沿って出で給う。

 時刻が移ると頼光の関札を引き抜いて、清原の右大将御泊まりと高々と押し立てて、ひんならべて右衛

門の督、平の正盛同じく泊まりと、関札を二本並べて立てたのだった。

 渡邊は今はたまりかねて、躍り出て、下人ばらを取って突きのけ、大音を挙げて、清原の右大将は右衛



はあるが御思案が深く、奢り者の右大将と張り合い後日の讒を受けん事を犬に嚙まれるのも同然と、大人

しく宿を代えられたのだが、定めてこれは平家の大将正盛な。彼と相宿なされるからは頼光も相宿と、正

盛の札を取って引き抜き、叩き割ろうとしたところに平の正盛、怒れる顔にてはったと睨み、やあ、おの

れは頼光が下人綱と言うわっぱよな。この度、右大将殿の東の名所の遊覧に御同道致し申すからには相宿

の関札を誰に憚ることがあろうか。

 主従ともにあくちも切れぬ(あくちは子供の口辺に出来る腫物で、年少者に対する軽蔑語)小倅共め、元

の如くに札を立て直せ。但し、割るならば割って見よ、と刀の柄に手を掛けた。

 渡邊はにっこと笑い、おお、源氏の習い御辺の様なる相手は大人が手を出すまでもなく、前髪だちの子

供の受け取り(引き受ける物、分担)、主人の頼光に宿を空けさせ右大将の威を借りて御辺はぬっくりとま

らんと(平気で、厚かましく)や、暖かな事(いい気な事)だ。

 右大将一家の外をふんごんだならば空脛(からすね)ながん(なぎ払おう、横に払おう)と関札を微塵に踏

み砕いて仁王立ちに立ったのは、金輪際から忽ちに生え抜いたる如くであるよ。

 正盛はそぞろ恐ろしく、身は震えるのだが押し静めて、おのれ生かしておけぬ奴ではあるが高官との御

同道である、騒動も恐れある。ここは某(それがし)大人しく、宿外れに別宿する。よっく性根に覚えてお

け。と、おめぬ(気遅れしない、臆しない)顔で立ち帰ったので、渡邊は見向きもしないで、右大将が宿入

りの中を押し割ってのさのさと、はがいのしたる夕烏、右大将の行列の中を突っ切ってのさばりかえっ

て、羽を伸ばした夕方の烏よろしくゆうゆうと帰ったのだ。

 泊まりじゃないか、旅籠屋の門賑わ敷く、暮れかかる上り、下りの旅人の、粋と野暮とに擦れて揉まれ

て友連れの、招く薄もおじゃれ、おじゃれが恋を呼ぶ。


 仮の契りも末かけて、そなたは百きり、おりゃ九十でも心次第のござ枕、笠も預かる、股引洗う、洗足

の湯と膳立てとぐゎった(騒がしい形容)菱屋の門構え、本陣宿の忙しさ。

 あまたの出女、下男(しもおとこ)中に若葉の喜之介が、跡の月から角前髪(元服前の少年の髪型で、額の

両の角を剃ったもの)、土けも取れて顔の色、白瓜なます、夕飯の拵えを急ぐ薄刃の音、ちょっき、ちょ

っき、ちょっきちょっき、ちょっきと切り盤(俎板)百人前を夢の間に、仕立て済まして息休め、煙草をく

わえて立っている。

 下女の小糸が忙し気に、これ、野良松、暇の無い旅籠屋奉公、殊に今日は清原様とやら、麦わら様とや

ら、お公家様の大客、上つ方は物静かで、御料簡もあるべきが、下女の習いで口悪く、膳が遅いの何のと

て煩く言わせて下んすなよ。

 何故にきりきりと働かぬ、煙管はわしが預かると、ひったくれば喜之助、ええ、小喧しい、男の仕事が

もどかしいらしいが、これ、料理したり水汲んだり、椀をふいたり門掃いたり、打ったり舞ったり、この

て一つで百足(むかで)の代わりも仕る。

 貴様の様に毎夜、毎夜、旅人を閨に引き入れ、煮焼きもせぬ加減のよい美味い手料理を振舞って、うめ

く程に銭を儲けて、ゆるりと朝寝めさるると、われらが仕事は格別で、貯めた銭ざし抜いたり、差したり

しないだろう。そうであれば、おお、嘘ではないと笑うのだ。

 むむ、これは聞きどころ、何じゃ、毎夜帯解き勤めするとの言い分か、これ、そんな小糸じゃないよ。

朋輩衆は面々に勤め次第に銭金をためて親里に貢ぎ、身には一重(絹のかたびら)も飾るけれども、わしは

こなたを思い染めて、面倒を見よう見られようと、頼もしずくの言い交わし、もし末の縁が有って一緒に

も暮らせたならと、随分と身をたしなみ、旅人の酒の挨拶、肴には小唄を歌い、わずかの銭を頂く時には

涙がこぼれて口惜しいが、若いこなたが奉公の身で義理順義もあるものと一銭も身につけずに、みんなこ

なたに渡すぞや。

 一言、可愛いと言って言ったとしても罪にはなるまい。ほんに思う程にもない男と、首筋に歯型を付け

たのも恋の極印(確かなる印)である。

 喜之助はほろりと涙ぐみ、おお、謝った、こらやこらや、さあ、わっさりと仲直り、機嫌を直して盃

事、幸い肴はこの膾(なます)、まずは祝、言の心持ち、そんなら祝って女房から、わしが手酌で是さした、

我等は得物のこの茶碗、吸い物は煮売りの豆腐、目出度く謳おう。

 寂光の豆腐、茶碗酒のたしなみも、かくやと思うばかりの膾かな。あいよ、すけよと、夕紅の前垂れ膝

に凭れかかって可愛い奴だと戯れる。

 かかる所に、右衛門の督平の正盛、参上と案内すれば、喜之助と小糸は口上の趣かくと奥にぞ取次け

る。

 清原の右大将が出で向い、やあ、正盛、ちこう、ちこう、と対座に請じて、さても御辺と某は昨日まで

は泊まり泊まりは同宿で名所古跡の物語、旅宿の徒然を忘れられたのに、今宵は頼光めに邪魔されて、思

わぬ別宿、明日の泊まりを待ちかねる。今宵の寂しさを推量あれと有りければ、正盛は謹んで御懇意の余

りで申し上げたき仔細が候。その故は某が家来、物部(ものんべ)の平太と申す者が先年坂田の前司忠時と

申す浪人侍と口論して、かの坂田を討ちは討って候えども、彼には男女の子供が有り、親の敵と狙い、も

しも平太を討たせては某は武道が立ち申さない。一寸も側を離れさせずに旅の末まで(辺地の旅)召し連れ

て、幸い君と御同宿御威勢を以て、昨夜まで心安く臥したるに、今宵野外れの別宿で平太めに過ちも候い

ては弓矢の不覚、哀れかの者御次に一宿させて下されるならば生々世々(しょうじょうよよ)の御厚恩と、

言いも切らぬに右大将、おお、何より以って安い事、その者をこれへと言う間に、駕籠を内へ舁き据えさ

せて六尺豊かな大男で日影を見ぬ目の色青く、月代が伸びて髭長く、野辺の薄に異ならない。

 右大将は近くに招き、物部の平太とは和主よな。敵持ちの用心尤もながらこの高頭が匿ったぞ。某が威

勢の程人間は愚か、鬼神であっても某の側近くで狼藉致し、指でも指すならば、天子に弓を引く朝敵と同

然、身を知らなぬ者があるだろうか。何の用心、月代を剃らせて梳り、世間を広くのさばれよ。高頭がこ

う言うからは樊噲(はんかい)張良(ちょうりょう)に抱かれてあると思うべし。と、過言上なく罵れば正盛

は悦びあり難し、有り難し、いよいよ頼み参らせ奉る。

 明朝御見舞い申し上げる、と一礼してから帰ったのだ。

 喜之助と小糸は襖の陰で後先をとっくと聞き届け、あれあれ、父(とっ)様を討った平太めに極まった。

日頃頼みし契約は今宵ぞや、女の腕で仕損じるのは必定である。必ず跡を頼みます、と小褄を引き上げて

身繕う。喜之助が押さえて、せくまい、せくまい、其方に兄御も有る気な、その兄が出合わずして女の仕

損じは恥辱であると、荒ごなしをしてやろうと止めを刺せば、自分で討ったのも同然と、躍り出づれば、

ああ、忝い、とてものことに父様の譲りの銘の物(刀鍛冶の名が刻んである確かな剱)、常に人が気が付か

ない思いがけない所に取っておいたと一間床の板畳を引き上げれば、一腰の金造り、人こそ知らね紫の虹

が立ち上る名剣と後にぞ知られける。

 喜之助が鞘口を抜いて見れば、氷の焼刃、玉散るばかり(澄んだ光を放つさま)。さあ、本望は遂げたも

同じだ。必ず急くまい、急くまいと言うのも関路の朝烏、飛び立つ心ぞ道理であるよ。

 それそれ奥から行燈を提げて誰やら来るぞ。怪しまれるなと目はじきしてちゃっと忍べば小糸はそらさ

ない顔、鼻歌で座敷を取りおく玉箒、紙くずを拾っているのだった。

 敵の平太は燭をそむけてこりゃ女、物を頼もう。明日の御立は明け六つ(午前六時頃)、その時刻に合う

ように月代を一つ頼みたい。上手な髪結いはいないだろうか。

 ああ、ああ、お安い事、どりゃ呼んであげましょう。と立とうとするといやいや少し様子があって男は

ならぬ。女の髪結いは 有るまいかと、言えばはっと心づき、なうなう、お前はお幸せ私は自体町代(名主

の下の町役人)の娘で髪月代一通りは小額・眉際・中剃り・逆剃り・ことそげ剃り、御顔はたった一剃刀

にごし、ごし、ごし、唇なりと鼻なりと、御首なりともころりっと剃り落して差し上げまする。

 ああ、忌々しい、気味悪い、仇口言わずに早く剃れと、剃刀を取り出して髪おっさばき、縁先の水桶に

頭を浸して揉む、紅葉葉の焦がれる小糸の心の内、喜之助は襖の陰で今や出でん、今や出でんと互いに目

配せして気を通わせて、これこれつむりがまだ揉めぬぞ、こう剃り掛かって気を急くことはちっともない

ぞ。揉めぬうちに剃り掛かれば剃刀が外れると、言えども更に気もつかづに消える命は塵取りに落ちる雫

の儚さよ。

 さあ、今が大事なぼんの窪、俯かせんと髪を撫で上げれば、喜之助は襖をそっと締、め開けに(音がしな

いように押さえて開ける事)後ろに立っても親の敵、声を掛けないのは口惜しと躊躇う色を女は、悟っ

て、申し旦那様、お前は強そうな御侍、定めし人を斬ろうとしたこともありましょうな。

 おお、斬ったとも、斬ったとも、おお、その切った坂田の娘の糸萩、親の敵と言うより早く、喜之助が

抜き打ちに首に続けて髭一房、両ひざにかけて一太刀に水を切ったる如くである。





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最終更新日  2025年07月23日 20時04分38秒
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