草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月25日
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さあ、しおおせた、立ち退かん。と、甲斐甲斐しくも首を引っ提げて、女を小脇にしっかりと抱いて、一

散にこそ落ち失せにけり。

 右大将の侍共、こは何事ぞと走り出て、南無三宝、平太は討たれ候ぞ。と呼ばわる声に高頭が駆け出て

来て地団太を踏み、ええ、口惜しや、無念やな、正盛に向かって言葉がない。よし地をくぐり、雲に入る

とも高藤が威勢にて絡めとらずにおくべきか。追っかけて打ち獲れ者共と、怒れる声は松吹く嵐、月日に

まがう目のさやの小夜(さや)の中山を手分けをして、上を下へとかえしたのだ。

 二人はようよう宿外れまで走りつき、振り返れば追っ手の提灯が八方を取り巻いて、逃げようもないの

だった。

 ええ、残念至極だ、なまなか追っ手に討たれるよりは御身を害して腹切らんとは思えども、敵に首を取



 誰の泊まりかは知らないが、此処を頼んで差し違え、死骸を隠してもらおうと砕けるばかりに門の戸を

叩き、卒爾ながら我々は親の敵をうって立ち退く折から、追手が厳しく候えば何方かは存ぜねどもお庭を

借り切腹仕りたく候。御恵み頼み奉ると大声をあげてぞ申しける。

 所こそあれ頼光の泊まりの宿、渡邊は聞くより早く飛んで出て、實否(じっぷ)は知らねど敵討ちとは心

地よしと、手づから門を押し開き、さあ、匿った、お入りやれ。摂津の守頼光の宿所、かく言うは渡邊源

五綱、日本国がきおい立っても蚊の食うほどにも思わばこそ、ゆっくりと休息あれと、もとの貫の木をし

っと(ぴったりと)下し、御前に伴い行ったのだ。

 頼光は対面ましまし、彼等は夫婦か兄弟か、家名實名(けみょうじつみょう)敵討ちの首尾を具に聞こう

と宣えば、さん候(そのことですが)、某は信濃(しなの)国碓氷(うすい)の庄司が倅で幼名は荒童丸、父没

してみなし子となり當所に賤しきげす奉公、この女と朋輩の誼(よしみ)に承れば、この女の父坂田の前司

と申せし者、平の正盛の家人、物部の平太に討たれて共に天を頂かぬ恨みを一太刀報ぜんと狙えども、一



思いの儘に討ち取り、首を持参仕って御座る。

 打ち物はこの太刀、この女が重代、智慧文殊と伝て来た、平泉の文殊宝壽が千日潔斎して打ったる利剣

のしるし、片手殴りのひと打ちで御覧候え、この大首、女が持ったる髭ひと房、両股、両膝ただ一刀に大

の男、七つに切ったる業物、今宵の御情けを謝せんが為、この女が献上、御佩き替えとも思しめさば生前

(しょうぜん)の悦び、猶御芳志には死骸を隠し給われ。



 やれ、渡邊、あれを止めよ。と、押し分けさせて、太刀を抜いて御覧あれば、明々として芙蓉が開いた

る如くで、焼き刃は星をつらねたる如くに光は波が涌く如し。

 唐土、晋の武帝が天下を治めて呉国の方に紫の雲気が立つのを怪しんだのだが、雷換(らいかん)と言う

者が天文を考えて土中を掘って干将莫邪(かんしょうばくや)の二剱を得たり。

 しかるにこの宿に当たって紫の雲気が棚引いたことは遠く異国の昔を思い、必ず名剣あるべしと鷹野の

事寄せて一宿したが、今宵この太刀を手に入れたることは源家の武功が天に叶いしその威徳、首を打つあ

まりの切っ先が風にも散る髭を斬り、両膝かけて落ちたる事日本無双の名剣である。名は躰をあらわせば

即ち髭切膝丸と名付けるとしようか。と言い、謹んで頂戴したのだった。御子孫に長く伝わった和国の宝

となったのだ。

 さて、その女に兄もあったとか、後から故郷へ送ってやろう。荒童には我が頼光の光を譲って、碓氷の

定光(さだみつ)と名乗って奉公せよ。との御諚の趣、二人はあっとと頭を下げ、喜んで涙を流したのだ。

 かかる所に平の正盛が大勢を引き率っして、門を叩いて、やあやあ、頼光、忝くも右大将殿の御前近く

人を殺めた者を引き込み、天子同然の右大将をかろしめるのは朝敵にも勝ったるぞ。

 女童(わっぱ)に縄をかけ、頼光・渡邊主従共に切腹せよ。異議に及ばばふんごんで片端にふみ殺さん

と、傍若無人に罵ったのだ。

 渡邊はくっくと噴き出して、やい、天子同然とは誰がことだ。おのれらは腕はかなわず、手は立たず、

口ばっかりは人らしく官位を以ての脅かしは、喰わぬ、喰わぬ、さりながらぎしみ(互いに詰め寄り)合う

のも大人げなし。さあ、渡す、請け取るならば取って見よと、門の戸をさっと押し開き、すっくと立った

るその勢いに正盛主従は色をなして、膝わなわなとなったのだ。

 荒童が続いて飛んで出て、これ、旦那、宵までは旅籠屋のげす喜之助、今は頼光の御家人・碓氷の定光

渡せよ出だせよと言わずとも、幸いに此処も旅籠屋である。此処へ来て絡めとれ。

 さあ、入らんせ、泊まらんせ。泊まりじゃないかえ、旅籠の料理は御望み次第、頭から爪先まできざん

できざんで、ざくざく汁、真っ二つに胴切りの血なまぐさい焼物、冥途の道は相宿はなしだ。焦熱地獄の

すゐ風呂も沸いて御座んす。ざっと行水・阿鼻地獄、泊まらんせ泊まらんせ。泊まりじゃないのかと招い

たのだ。

 右大将の高藤が遅ればせに駈け来たり、やあ、臆したのか正盛、頼光・渡邊なればとて鬼神にてもあら

ばこそ、後ろ詰は高藤だ、と言うと正盛はいきりだして、乗り込んで踏みつぶせ、承ると切って入る。

 源氏方でもあまさじと、両勢がどっと入り乱れて火水に成れぞ戦いける。

 頼光は忍びの旅小勢の供人が大半討たれ、定光・渡邊ただ二人攻め来る敵の真向腕骨、胴切り縦割り、

車切り、なで斬り撫でたてながら、追いまくる。

 さしもの大勢、しどろになって見えたのだが、近郷の農人・浪人、右大将が威勢に組して、我も我もと

入れ替え入れ替え、射る矢は雨の如くである。

 定光も渡邊も心はやたけに逸れども飛び道具を防ぎかねて、何と定光、もしわが君にかすり矢でも当た

っては末代の瑕瑾、一先ずは落とし奉らんとあなたこなたと見廻れども、皆高塀に廻りは掘り、裏門は固

く閉ざしている。

 やあ、この門一つを押し破るのは安いけれども、後から寄せ手が込み入るのも喧しし、上へそっと持ち

上げて蹴込みの下から落とし申さん。尤もと、棟門高い瓦ぶき、尺にあまりし四角柱、二本を二人が面々

にひっ抱えて、やあ、えいやうんと差し上げれば、さしもの大門は礎石を離れ、天から吊ったる如くであ

る。

 頼光も笑わせ給い、門を守る金剛力士二王を持ったれば、我が行く先は関もなし、女は兄の行方を尋

ね、兄弟打ち連れて来たれ。一足も早く落ちよ。我は美濃路を登るべし。汝らもあらましに切り散らして

追いつけと悠々として退き給う御有様ぞ不敵なる。

 その隙に、寄せ手の軍兵(ぐんぴょう)あますまじと込みいったり。

 両人、今は心安く、雑人ばら一人づつ切っては手間遠、はかいかず、後日にこの門を立て直してやるば

かりと門柱を引き離し、手に手に引っ提げて大勢を左右に受け、醉象が岩を割り、飛龍が波を叩くごとく

に、はらりはらりと薙ぎ立てた。

 人も馬もたからばこそ、さしもの大勢打ちひしがれて、高藤・正盛は力なく、跡をも見ずして逃げ去れ

ば、おお、面白し、心地よし。君に追っつき奉らん、とうとう急げ、どう、どう、どう、と踏んだ海道も

武勇の道も一筋に、古参の渡邊、新参の碓氷の定光の奉公始め、門に手柄をあらわして二王二天に四天王

が出でるべきしるしと聞こえたのだ。

           第  二

 松浦潟、ひれ振る山の石よりも、つもる思いは猶重い、岩倉の大納言、兼冬公、の御娘・澤瀉(おもだ

か)姫と申せしは源の頼光と御縁篇(ごえんぺん)の契約を互いに持てば久方の月日が重なり年も立ち、情の

盛りもいたづらに右大将の讒言故に、頼光は行き方もなく御文の音づれさえもなく、枯野に弱る秋の虫、

世に便り無き憂き節に、もし御短慮のこともやと、御寝間の奉行、寝ずの番、女中の外には男をまぜずの

大役は女護が嶋に事ならず。

 お局の藤浪はお側に立ち寄り、なう、ここなお子、何故にうきうきなされませぬ、これ程大勢が集まっ

て浮世話の高笑いも皆、お前をいさめの為、お煩いでも出た時には、親御様への御不孝、日頃のお気に似

合いませぬ。と、いさめられても勇まぬ顔、ああ、又局の気づまりな。異見は聞きたくもない。

 日本国の花紅葉を今この庭に移しても、どうして心が勇もうか。吉日が決まり頼光様に嫁入りして、今

頃はお中に帯をも結ぶはず。それを、あの右大将づらめに妨げられて、あまつさえお行き方が知れず。何

処を当て度に一筆の問わせの文も無し、長枕、この長夜を誰と寝よか、おりゃ、泣くまいと思えども、涙

がどうも堪忍しない。堪えてたもとはらはらと玉を貫く御目もと、腰元・茶の間・中居までお道理やと諸

共に貰い涙にくれたのだ。

 お局は気の毒がり、ああ、何ぞいの、お力はつけもしないで、そなた衆までめろめろと忌々しい、置い

てたも。

 やあ、それはそうと煙草売りの源七はまで見えぬか。気さく者の通り者(気さくで世情に通じている

者)、今にも来たら御姫様をまじくらに向かい鬼(鬼ごっこ遊びの一種)をして遊びたい。

 こりゃ、気の変わった思い付き、早く煙草が来たれかし。煙草たばこと待つ宵の松葉煙草ひかずと

 昔は色に上り詰め、今は浮世に下がり坂田の時行と埋もれし名も父のあた、晴らさんと思う志、飽かぬ

夫婦の仲をさえ三下り半の生き別れ、袖は涙の川ならぬ、皮骨柳(かわごり、煙草が湿らないように皮を張

った行李)を今は見過ぎとひっかたげ、刻み煙草に油を引かずと売り歩く。

 そりゃ、煙草が来たわと腰元衆が呼び入れて、これ、源七、まずこの皮籠(ご)は預かる。尻からげも降

ろしなさいよ。御姫様より御意がある。

 そなたも以前は悪性故にし損ない、そのなりになったげな。傾城とやら廓とやら大内(ここは禁裏ではな

くて貴族の邸宅)には珍らしい三味線の一曲を常々御望みであるから、三味線も整え置いた、さあさあ、

所望とありければ、ああ、恙もなし、尤も以前は傾城の一つ買いも仕り、三味線・鼓弓・浄瑠璃・文作(即

興で滑稽な文を作ること)のら一巻の諸芸なら、こっちに任せて奥座敷に、吉野の山の連れ引きも、昨日

の昔今日は又、吉野煙草の刻み売り、股引がけで三味線とは、茶漬けにひしこの御望み、平、皿、御免と

逃げ出るのを女房達が引き止めて、その言いようがもう面白い。





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最終更新日  2025年07月25日 20時26分34秒
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