草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年08月22日
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先年、大明が飢饉の時に、李蹈天が邪智を以って諸国の御蔵の米を盗み、君に憐れみ無き故におの

れ韃靼の合力を受けて、民を救うと言いなし、国中に散らし与え、万民をなつけ、謀反の臍(ほぞ)

を固めたとしろし召さぬ愚かさよ。

 彼が左の眼を刳りしは、これぞ韃靼一味の一味(味方)への合図で、御覧候え難殿の額、大明とは

大きに明らかなりと言う字訓で、月日を並べて書いた文字、この大明は南陽(みなみよう)国にして

日の国である。韃靼は北陰(きたいん)国にして月の国、陽に属して日に譬えた左の眼(まなこ)を刳

ったのは、この大明の日の国を韃靼の手に入れんとの一味のしるし、使も聡(さと)くその理を悟

り、悦んで立ち帰った。

 積悪姦曲の佞臣はやく五刑の罪に沈めずんば、聖人出世のこの国、忽ち蒙古の域におち、尾を振



その罪は帝の一身に帰するであろう。拳を以って大地を打つことで外れても呉三桂のこの言葉は違

わないだろう。

 恨めしの叡慮やと泣いて、怒って、理を尽くし、詞を尽くして奏したのだ。

 帝は大に逆鱗あり、物知り顔である文字の講釈、理を付けて言うならば白雪却って黒とも言う義

があるぞ。皆、李蹈天と嫉む詞、事も無いのに甲冑を帯し、朕に近寄る汝こそは逆臣よと立ちかか

って御足にかけ、呉三桂の真向(まっこう、額の正面)を踏みつけ給えば、不思議やな御殿がしきり

に鳴動して、勅筆の額がゆるぎ出で、大の字の金刀点(きんとうてん、第三画)、明の字の日片(ひ

へん)が微塵に砕け散ったるは天の告げかと恐ろしし。

 呉三桂はなお身を惜しまずに、ええ、情けなや。御眼も眩みしか、御耳も聾(詞)いたるか。大の

字は一人と書いた筆画、一人とは天子帝の御事、その一人の一点を取れば帝の御身は半身、明の字

に片が無ければ日の光が無い国は常闇(とこやみ、永久のやみ、永久に世が乱れる事)、忝くもあ



 宗苗の神の御怒りを恐ろしいと思召して、道を糺し、非を改め、御代を保ちましまさば、君に投

げ打つ呉三桂の一命は踏み殺され、蹴殺されても厭わないどころか、土ともなれ、灰ともなれ、忠

臣の道は違えないと御衣(ぎょい)に縋って大声を挙げて泣き、涙を流して諫めたのは世々の鏡と聞

こえける。

 かかる所に四方八面に人馬の音、貝鐘を鳴らして大鼓を打ち、鬨の声が地を動かし、天も傾くば



 思い設けていた呉三桂が高殿に駆け上がり見渡せば、山も里も韃靼勢が旗をなびかせ、弓鉄砲、

内裏を取り巻いて攻め寄せたのは、潮(うしお)が満ちて来る如くである。

 寄せ手の大将・梅勒王が庭上に馬を乗り入れて、大音を挙げて、そもそも我が国の王・順治大王

がこの国の后華清夫人に恋慕とは謀(はかりごと)、懐妊の后を召し取り、大明の帝の種を絶やさん

為に李蹈天が眼を刳って一味のしるしを見せたる故に、鬨を移さずに押し寄せたのだ。

 とても叶わぬ呉三桂、帝も后も絡めとり、味方に下り韃靼王の台所につくばい、淅水(かしみ

ず、米のとぎ汁)でも啜って、命を繋げと呼ばわった。

 やあ、事が可笑しいぞ、二百八十年、草木も揺るがぬ明朝を攻め破らんなんどとは、大海に横た

わる鯨を蟻が狙うのに異ならず。

 あれ、追い払え、追い払えと駆け回って下知するのだが、我が手勢は百騎ばかりの徒歩武者以外

は公家にも武家にも誰有って居り合う味方は居なかった。ただ拳を握って立っていた所に、女房の

柳哥君が水子(みずこ、赤子)を肌に抱きながら后のお手を引き、なう、口惜しや、御運の末、公卿

大臣を始め、雑人下郎に至るまで李滔天に一味して、御味方は我々ばかり。無念至極と歯噛みをな

す。

 ああ、悔やむな、悔やむな、言うても益なし。但しは妃の胎内に帝の種を宿し給えば、大事の御

身、一方を切り抜けて君諸共に、某お供申すべし。その子も此処に捨て置き、おことはひとまず御

妹を介抱して海登(かいどう)の湊を指して落ちよ、落ちよと言いければ、心得たりとかいがいしく

栴檀皇女の御手を引き、金川門(きんせんもん)細道を二人忍んで落ちなさる。

 いで、これからは大手の敵を一当てに当てて追い散らし、易々落とし奉らん、御座を去らさせ給

うなと言い捨てて、駈け出し、明朝第一の臣下、大司馬将軍呉三桂と名乗りかけ、百騎にならぬ手

勢にて數百万の蒙古の軍兵を割りたて、おん廻し、無二無三に斬り入れば、韃靼勢も余さじと鉄

砲・石火矢を隙間なく矢玉(やぎょく)を飛ばせて、戦いける。

 その隙に、李滔天の弟李海方(解放)が玉躰(ぎょくたい)近くに乱れ入り、帝の御てを両方からし

っかりと取る。后は夢とも弁えず、天罰知らずの大悪人、御恩も冥加も忘れしかと縋り給えば、お

お、己とても逃がさぬと、取って突きのけ、氷の利剣を御胸にさし当てた。

 君は怒れる龍顔に御涙をかけながら、げに、刃の錆は刃より出て刃を腐らし、檜山の火は檜から

出て檜を焼く。仇も情けも我が身からでるのだと、今こそ思い知ったぞ。

 鄭芝龍は呉三桂の諫めを用いずに、おのれらが諂いに誑かされて、国を失い、身を失い末代まで

名を流す。口に甘い食べ物は腹中に入って害をなすと知らざりし我が愚かさよ。汝らも知る如く、

夫人(ぶにん)の胎内に十月に当たる我が子が有る。誕生も程あるまじ。月日の光を見せよかし。せ

めての情とばかりにて御涙にぞ呉れなさる。

 ああ、ならぬ、ならぬ、大事の眼を刳り出したのは何のため。忠節でも義理でもない、心を君に

心を許させ韃靼と一味せん為。晴(めだま)ひとつが知行になり、君の首が国になると取って引き寄

せ、御首を水もたまらずに撃ち落として、さあ、李海方、この首は韃靼王に送るべし。汝は妃を絡

め来たれと言い捨てて、寄せ手の陣へと駆け入りたり。

 司馬将軍呉三桂は敵をあまた討ち取り、何なく一方を切り開いて君を落さんと立ち帰れば、御首

もなき尊骸(そんがい)朱になって伏し給い、李海方は妃を搦めて引っ立てる。

 やあ、上手い所に出合ったな、我が君のとむらい軍、齎(とき)にこそ外れたり、非時を喰おうと

飛び掛かり李海方の真向を二つにさっと切り割って、妃の戒め(縛った縄)を切りほどき、涙ながら

に尊骸を押し直せば代々に伝わる御国譲り、御即位のしるしの印綬が肌にかけられたり。

 ええ、ありがたや、これさえあれば御誕生の若宮、御位心安し。と、鎧の

肌に押し入れ、一先ずは御后にお供致そう。先ず御遺骸を隠そうかと、難儀は二、身は一つ、打ち

砕かんと敵の勢が一度にどっと乱れ入るのを、さしったりと切り払い、込み入れば殴り立て、打ち

伏せ薙ぎ伏せ捲りたて、走り帰って、今はこれまで、事は急である。

 御死骸はともかくも、一大事はお世継ぎと、妃の手を引いて立ち出でれば、このごろ生まれた我

が水子、乳房を慕ってわっと泣く。ええ、邪魔らしい、さりながら、己も我が世継だと引き寄せて

鉾の柄にしっかりと結わえ付けて、こりゃ、父が討ち死にしたならば、成人して若宮に忠臣の根継

ぎとなれ。我らが家の木間ぶり(木の為に取り残して置く果実、木守り)と振りかたげてぞ、落人

を切り留めんと敵の兵(つわもの)慕い寄れば踏み止まり、切り捨て、打ち捨て、引く潮の海登(か

いどう)の湊に着きにけり。

 是より台洲府(だいすふ)に渡らんと、見れども折節船一艘も無く、渚に沿って立っていた所、四

方の山々、森の影、打ちかにける鉄砲は横切る雨の如くである。

 呉三桂はさね(小さな鉄や革の板)よき鎧で飛んで来る玉を受け止め、受け止め、妃を負い、囲え

ども運の極めや、胸板にはっしと当たる玉の緒も、切れてあえなくなり給う。

 呉三桂もはっとばかり前後に暮れて(前後も分からずに、茫然と)立っていたのだが、御母后は是

非もなし、十善の御子種をやみやみと胎内にて淡(あわ、泡)となさん(消えさせる)も言う甲斐がな

いと、剣を抜き持って后の肌に押し寛げて、脇腹に押し当て十文字に裂き破れば、血潮の中の初声

は玉の様なる男の子親王、嬉しくも嬉し、悲しくも悲し。

 遣る方もなく、涙を流しながらも母后の袖を引きちぎって押し包み、抱き上げたのだが待てしば

し、取り巻きたる四方の敵、死骸を見つけて若宮を隠し取ったと、行く末まで探されては、宮を育

てんようもなし、ととっくと思案して、我が子を引き寄せ衣装を剥ぎ、宮に打掛け参らせて、剣を

取り直して水子の胸先を刺し通し、刺し通し、妃の腹に押し入れ、あっ晴れおのれは果報者よ。良

い時に生まれ合わせて十善太子の御身代わり、でかしおった、出かいた、娑婆の親に心を遺すな、

親も心は残さぬぞ、と言えども残る浮き名残り、鎧の袖に若宮を包む、包む涙に咽返り別れ行くこ

そ哀れなり。

 かくとは知らず柳哥君は栴檀女を誘って湊口まで落ち延びたのだが、前後には敵が満ち満ちた

り。さあ、ここまで逃れるだけと、繁る葦間をかき分けて、身を忍ばせて隠れている。

 李滔天の侍大将・安大人が手勢を引き具してどっと駈け寄せ、今の鉄砲は確かに后か呉三桂に当

たったと覚える。辺りを見廻し、是を身よ、妃を仕留めたは。はあ、腹を切り裂き、懐妊の王子ま

で殺した。

 忠節立てする呉三桂、主君を棄て、名を捨てても命は惜しいか。きゃつは人前すたったぞ。この

上は彼の妻の柳哥君と栴檀女を尋ねるばかり。眼(まなこ)を配れ、高名せよ。と、四方に分かれ走

り往く。





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最終更新日  2025年08月22日 20時32分32秒
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