草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年09月18日
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第    五

 泰山を脇挟んで、北海を越える事はあたわず。王の王たらざるはあたはざるにはあらずとかや。 

延平王国性爺、兵を用いること掌に回すが如し。五十余城を屠(ほふ)り、武威は日々に盛んにして

妻の女房を古郷より栴檀皇女を供し参らせて、九仙山から呉三桂と太子を御幸(ごこう)なし申せば

十善天子の印綬をささげ永暦(えいりゃく)皇帝と号し奉り、龍馬(りゅうめ)が原に八町四方の木城

(ぼくじょう)をからくみ(こしらえ、組み立て)、陣幕・外幕・錦の幕、陣屋の上には日本伊勢

両宮の御祓い大麻(おおぬさ)を勧請して、太子を別殿に移し参らせ、その身は中央の床几にかか

り、司馬将軍呉三桂・散騎将軍甘輝が同じく左右の床几に座し、韃靼大明分け目の勝負軍(いく

さ)、評定様々である。 御三桂は團扇(だんせん)を取り直して、およそ謀は浅きより出でて深き



くのごとく數千本拵え先手の雑兵に持たせ、立ち合いの軍をする躰で筒を棄てて逃げ退くならば、

貪欲(とんよく)盛んな韃靼勢、食べ物と心得て拾い取るのは必定。 口を抜くと等しく数万の山蜂

群がり出、賊兵を毒痛せしめ、漂う所を取って返し八方から討ち取るべし。 是をご覧候え、と口

を抜けば数多(あまた)の蜂が鳴き羽ぶいてぞ出でにける。 賊兵は嘲笑い、浅はかなる童脅しの謀

(はかりこと)、焼き捨てて恥をかかせよ。と、積み重ねて火をつけようとする。その時に筒の底に

仕掛けたる放火の薬鳴り渡り、飛び散って、十町四方の軍兵(ぐんぴょう)に生き残る者は候まじ

と、火縄を筒にさしつけると同時に飛んだる乱火の仕掛け。げにもこうとぞ見えにける。 五常軍

甘輝、果物を入れた花折(はなを飾りにつけた折籠)を一合取り出して、呉三桂の奇計は尤もで御座

候、某(それがし)の謀、かくの如くに折り籠を二三千合も拵え、様々な菓子、食偏に向(かれい

い、弁当の飯)・酒・肴をしたため、各これに鴆毒(ちんどく)を入れて陣屋近くに貯え並べ置いて

陣所近くに敵を引き受けて、戦いに負けたる躰にして十里ばかり引き取るべし。 韃靼が例の長追



にと掴み喰らわんとするのは必定。唇に触ると等しく片端から毒血(どくけつ)を吐き、刃に血塗ら

ずして皆殺しにしてくれんと、面々に軍慮に心を砕き、評議とりどり、まちまちである。 国性爺

は打ち頷いて、いづれも一理ある計略、批判するに及ばず。さりながら、国性爺が魂に徹して忘れ

難いのは母親の最期の詞、韃靼王は汝らが母の敵、妻の敵と思いこんで本望をとげよ。気をたるま

せぬ、その為の自害なりとの言葉の末、骨に沁み、五臓に徹して刹那にも忘れることはない。 千



み、寸々(ずたずた)に切り刻んで捨てなければ、たとえ国性爺が百千万の軍功があったとしても、

君の忠も世の仁義も、母の為には不孝の罪と鏡の様なる両眼に涙をはらはらと流したので、呉三

桂・甘輝を始め一座の上下諸共に、皆々袖をぞ濡らしける。 殊更に女の身でありながら、故郷を

忘ぜず、生国を重んじ、最後まで日本の国の恥を思われた。我も同じく日本の産、生国は捨てまい

と、あれ見給え、天照大神を勧請致した。 某、匹夫より出でて数々、所の城を攻め落とし、今諸

侯王となって各々のかしづきに預かっている事は全く日本の神力によるものだ。しかれば竹林にて

従えた嶋夷(外国人の蔑称)共を日本頭に作り置いて、彼らを真っ先に立て日本の加勢だと披露した

ならば、もとより日本は弓矢に長じ、武道鍛錬に隠れが無いので韃靼夷は聞きおぢして、二の足に

なる所を畳み寄せて乗っ取らんとこの頃我が女房と示し合わせた。 やあやあ、源の牛若、軍兵を

卒して是へ、是へと團(うちわ)を挙げれば、あっと答えて立ち出でたる小むつの髪の初元結、諸軍

勢の元服頭、そりたての月代が日本風の浅黄色(薄い藍色)で体には中国風の錦を着て、実に華やか

な出立なのだ。 仮御殿の幔幕から姫宮が走り出で給い、なうなう、国性爺、この旗は御身の父一

官の籏印、この書きつけも一官の筆、心もとなき文言と出だし給えば床几を下がって、読み挙げ

た。 我、なまじいに明朝先帝の朝恩を報(ほう)ぜんと二度この土に帰参して功なく、誉も無し。

老後の余命いくばくの楽しみを期(ご)せん。今月今夜、南京の城に向かって討ち死にを遂げ、微名

を和漢に留める者である。 鄭芝龍老一官、行年七十三歳と読みも終わらないうちに国性爺はすっ

くと立ち、さあ、敵に念が入って来たぞ。 母の敵に父の敵、知略も要らず軍法も何かせん。かた

方はともかくも、身に迫るのは国性爺、只一人で南京の城に乗り込み、韃靼王の李滔天の首を捩じ

切り、父の最期の場を変えずに討ち死にして、父母の冥途との籏を同道せん今生の御暇乞いと、飛

んで出でれば両将が袖に縋って、ああ、曲も無し。 甘輝が為には妻の敵、舅の敵、呉三桂の為に

も妻の敵、みどりごの敵、おお、それそれ、いづれも敵に軽めなし。天下の敵は三人一所、さあ、

来いと駈け出した。 この三人の太刀先には如何なる天魔疫神も面を向けるべき方(かた)もない。 

鄭芝龍老一官、夕霧くらい黒革縅(おどし)すすげどに(勇猛そうに)出で立って、南京城の外廓(と

くるわ)の大木戸を叩いて、国性爺の父老一官と申す者、年寄り膝骨が弱って人並みの軍が叶わな

い。さればとて、若殿原の軍咄を安閑と聞いてもいられない。 この城門に推参して(無礼ながら

に参上して、謙辞)速やかに討ち死にして素意を達したく候。哀れ、李滔天よ出で合い、この白髪

首を獲ってたべ。生前(しょうぜん)の情けであろうと呼ばわった。 城の中から六尺豊かな大男、

優しし一官、相手になってとらせんと木戸を押し開けて切って出た。 心得たりと二打ち、三打

ち、打つぞと見えたが、つっと入って首を打ち落として大に不興して大音を上げ、一官年寄ったが

斯様の葉武者(取るに足らぬ武者)に遣る首は持っていない。李滔天よ、出で会え。外の者が出て来

たならば、何時までもこの通りだと城を睨んで立ったりける。 韃靼大王は壽陽門の櫓に現れ出で

て、国性爺の老父・一官とはきゃつめよな。問うべき仔細があまた有る。殺さずに搦めとって引い

て来たれ。 承ると四五十人が棒づくめに取り回し、透きをあらせずに滅多打ち、ねじ伏せねじ伏

せ縛り付けて城中をさして引いて入った。無念と言うのも余りあり。 程なく、甘輝・呉三桂・国

性爺を真っ先に大手の門に駈けつければ、ひっ続いて六万余騎、小むつを後陣の大将にして今日を

死線と押し寄せたり。 国性爺が下知をして、未だ生死も知れず、殊にこの南京城、四方に十二の

大門、三十六の小門有り。一方であっても開いたる方から落ち失せるのは必定、四方に心を配って

討てと、合い詞に手を配り箙(えびら、矢を入れて背負う武具)を叩き、鬨の声、天も傾くほどで

あるよ。 小むつが嗜む剣術の、牛若流の小太刀を以て一陣に進み出て、相手選ばず時を選ばず、

所も選ばないこの若武者、死にたい者が相手だと思う様に広言して、多勢の中に割って入り、火水

を飛ばせて戦いける。 賊どもが多数討たれたが、七十万騎が立てこもっている南京城、落ちる様

子も無いのだった。 国性爺は何としてでも父の生死を知りたいと懸け廻っても詮方なく、陣頭に

大音を上げて、我もろこしに渡って五年の間、数か度の合戦で終に無刀の軍をせず。今日珍しくも

剣の柄に手をかけまじ。馬上の達者・剣術得物の韃靼勢、寄って討てやと招きかければ、にっくい

広言、打ち殺せと我も我もと喚いてかかる。引き寄せて剣ねじ取り、叩きひしぎ、打ちみしゃぎ、

鉾・槍・長刀をもぎ取りもぎ取り、捻じ曲げ、押し曲げ、折砕き、寄せ来るやつばらを脛に触れば

踏み殺し、手に触るのは捩殺し、絞め殺しは人礫、騎馬の武者は馬諸共にひとつに掴んで、手玉に

あげ、四つ足を掴んで馬礫、人礫・馬礫・石のつぶても打ち交じり、人間業とは見えないのだ。 

さしもの韃靼も攻め寄せられて、すは落城と見えたる所に、一官を楯の表に縛り付け、韃靼王を先

に立て李滔天が進み出で、やあやあ、国性爺、おのれは日本の小国から這い出で、唐土の地を踏み

荒し、數か所の城を切り取り、剰(あまつさ)え大王の御座近くに、今日の狼藉緩怠千万、これによ

って親一官をかくの如くに召し取った。 日本流に腹を切るか、但は親子諸共に直ちに日本に帰る

においては一官を助けるべし。承引がなければたった今、目前で一官を引っ張り切り致す。とかく

の返答はや申せと、高声に呼ばわれば、今まで勇んでいた国性爺、はっとばかりに目も眩み、力も

落ちて打ち萎れ、諸軍勢も気を失い、陣中ひっそりと鎮まりける。 一官は歯噛みをなして、や

い、国性爺、狼狽えたか、遅れたか、七十に余るこの一官、命を長らえて何になる。母の最期の言

葉が健気であったからと言って、父にも語り吹聴したのを忘れたのか。これほどまでしおおせた一

大事、この皺じいの命一つに迷って仕損じたと言われては、末代までの恥辱、故郷の聞こえ、日本

生まれは愛に溺れて義を知らぬと、他国に悪名をとどめんは、日本 女ではあるが汝の母は生まれ

故郷を重んじ、日本の恥と言う字に命を捨てた。それを忘れでもしたか。 これ程の手詰めに成

り、子の親が目の前で八つ裂きにされようとも、目もふらずに飛び掛かって本望を遂げ大明の御代

になさんと思う根性を何処で失ったのだ。 ええ、未練なり、浅ましい。と、地団太踏んで制すれ

ば国性爺は父に恥しめられて、思い切って大王目掛けて飛んで出れば李滔天は父に剣をさし当て

た。 はっと気も消え立ち止まり、進みかねたるしどろ足、頭の上に須弥山が今崩れかかってもび

くと声もしない国性爺だが、前後に暮れてぞ(どうしたらよいのか分からない)見えたのだ。は 甘

輝と呉三桂、互いにきっと目配せして、つっと出て韃靼王の前に頭を垂れ、かくまでしおおせ候え

ども御運の強い韃靼王、一官が絡めとられたことは国性爺の運もこれまで、末頼みなき大将、我々

が両人が命を助け給わらば、国性爺の首を獲ってさしあげん。御誓言にて御返答を承らんと言いも

あえぬに韃靼王、おお、おお、神妙、神妙、と言う所を飛び掛かってはったと蹴倒し締め上げれば

隙をあらせずに国性爺、飛び掛かって父の戒めをねじ切り、ねじ切り、李滔天を取って押さえ父を

縛りし楯の面まっその如くに小手、高手に縛り付け、三人目と目を見合わせて、ああ、嬉しやと喜

ぶ声、国中に響くほどなのだ。 諸軍勢は勇みをなして、太子、姫宮、御幸を為し奉れば、御前に

てきゃつばら、則ち罪科に行うべし。夷国とは言いながら韃靼国の王であるから、縛りながらに鞭

打ちして本国に送るべしと、左右に別れて五百鞭、半死半生、打ち据えて引き除けたり。 さあ、

これからが李滔天だ。本の起こりの八逆、、五逆、十悪人。かたみ恨みが無いように国性爺が首を

引き抜いてやろう。 両人は老腕と三方に立ちかかり、声を掛けて一事に、えい、やっと、引き抜

き捨て、永暦皇帝御代万歳、国安全と寿も大日本の君が代の神徳・武徳・聖徳のみちて尽きせぬ国

繁盛、民繁昌の恵みによって五穀豊饒(ぶにょう)に打ち続き、万々年とぞ祝いける。





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最終更新日  2025年09月18日 20時38分56秒
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