「先輩、その手袋って何でしてるんですか?」
新人が秋雄の手元を見ながら言った。
「何でって?」
「白い手袋。いつもしてるじゃないですか」
「理由は三つあるかな」
「三つも?」
秋雄はハンドルを握ったまま言った。
「まず、見た目」
「見た目?」
「接客の時、手元が整って見えるだろ」
「まあ、確かに」
「制服着てても、手元が雑だと締まらないんだよ」
新人は自分の手を見た。
「所作まで含めて接客ってことですか?」
「そういうこと」
「二つ目は?」
「ハンドルを汚さない」
「え?」
「手油」
新人が少し笑った。
「そこですか」
「乗り回しの車だと分かるぞ。前に乗った人の手油がハンドルに残ってると、結構イヤだろ」
「ああ……それは分かります」
「自分も次の人に残したくないしな」
「なるほど」
「で、三つ目」
秋雄は前を見たまま、右手を少し上げた。
「サインが見やすい」
「サイン?」
「対向車に右折を譲る時とか」
「ああ、どうぞってやつ」
「そう。白い手袋だと見えやすい」
「確かに」
「車線変更で入れてもらった時も、窓を開けて手を出してありがとうってやりやすい」
新人が笑った。
「そこまで考えて手袋してるんですね」
「まあな」
少し間があった。
「あと」
「まだあるんですか?」
秋雄が笑った。
「なんかハイヤーの運転手っぽくて、カッコいいだろ」
新人が吹き出した。
「最後それですか」
「大事だぞ」
「三つじゃなくて四つじゃないですか」
「最後のは気分の問題だ」
新人はスマホを取り出した。
「先輩、こんな感じの物ですか?」
「どれ?」
新人が画面を見せる。
「白手袋で、運転用。これカッコいいっすね!」
秋雄が覗き込んだ。
「そうそう。そんな感じ」
新人が値段を見た。
「……先輩、これ結構お高いっすね!」
「そう?」
「一双にすると、四百円ちょっとしますよ」
「ああ、それなら俺が使ってるのとは違うな」
「違うんですか?」
「俺はカインズで買ってるよ」
「カインズ?」
「薄手の白手袋が何双かまとまって入ってるやつ」
「じゃあ、それで十分?」
「俺はそれで十分」
新人はもう一度スマホを見た。
「楽天にも似たのはあるけど、先輩が使ってるのはカインズなんですね」
「そういうこと」
「じゃあ、今日はポチらない?」
「好きにしろよ」
新人は少し考えた。
「……とりあえずカインズ見てきます」
秋雄が笑った。
「その方がいいんじゃない?」
「でも、先輩」
「ん?」
「ハイヤーの運転手っぽく見えるのは、どっちも同じですよね?」
「そこ気に入ったのかよ」
今回、先輩の道具箱から出てきたのは白手袋。
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