第1話 初対面なんだから、分からなくて当たり前
「先輩、僕らのやり取りを見た人から、また質問が来ましたよ」
新人がスマホを見ながら言った。
「今度は何だ?」
「読みますね」
新人は画面を見た。
『タクシーを始めたばかりです。目的地は分かっていても、お客様から“その道じゃない”“いつもの道で行って”と言われることがあります。初めて乗せるお客様の、いつもの道なんて分かりません。お客様に道を聞くのは、プロ失格なんでしょうか?』
読み終えると、新人が顔を上げた。
「だそうです」
秋雄は少し考えた。
「プロ失格ねえ」
「先輩も言われたことあります?」
「あるよ」
「やっぱり?」
「“プロなのに道知らないの?”って」
新人が苦笑した。
「言われると結構へこみそうですね」
「まあ、気分のいい言葉ではないな」
「じゃあ、やっぱり聞かない方がいい?」
「なんで?」
新人が秋雄を見た。
「だって、プロなんだから」
「お前、そのお客さんと初対面だろ?」
「はい」
「向こうだって、お前とは初対面だろ?」
「そうですね」
「じゃあ、その人がいつもどの道を使ってるか、どうやって知るんだよ」
新人が黙った。
秋雄は続けた。
「同じ目的地でも、人によって使いたい道は違う」
「広い道がいい人もいれば」
「裏道が好きな人もいる」
「混む道を嫌う人もいますね」
「そういうこと」
新人は少し考えた。
「じゃあ、どう聞くんです?」
「俺なら、“いつも使っている道はありますか?”って聞くかな」
「なるほど」
「使い慣れてそうなお客さんなら、“ご希望のルートはありますか?”でもいい」
「それで、“プロなのに知らないの?”って言われたら?」
秋雄は笑った。
「じゃあ、こっちから提案すればいい」
「提案?」
「“では、○○通りから△△方面へ向かうルートでよろしいですか?”って」
新人が頷いた。
「確認を取るんですね」
「そう」
「知らないから丸投げするんじゃなくて」
「そういうこと」
秋雄は前を見た。
「そもそもタクシー運転手って、お客さんの代わりに運転する仕事だろ」
「はい」
「だったら、お客さんがどう行きたいか確認するのは、別におかしくない」
新人は少し笑った。
「聞くこと自体がプロ失格じゃない?」
「聞き方の問題だよ」
「じゃあ、道を知らない時は全部お客さんに聞けばいい?」
秋雄は首を振った。
「それも違う」
「違うんですか?」
「お客さんも道を知らない時があるからな」
新人が首をかしげた。
「じゃあ、その時は?」
秋雄はナビを指した。
「今度は、こいつの出番だよ」
つづく
明日10:00に更新
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