『先輩、そのルートで合ってますか?』

『先輩、そのルートで合ってますか?』

2026年09月21日
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第1話 初対面なんだから、分からなくて当たり前

「先輩、僕らのやり取りを見た人から、また質問が来ましたよ」

新人がスマホを見ながら言った。

「今度は何だ?」

「読みますね」

新人は画面を見た。

​

『タクシーを始めたばかりです。目的地は分かっていても、お客様から“その道じゃない”“いつもの道で行って”と言われることがあります。初めて乗せるお客様の、いつもの道なんて分かりません。お客様に道を聞くのは、プロ失格なんでしょうか?』

​

読み終えると、新人が顔を上げた。

「だそうです」

秋雄は少し考えた。

「プロ失格ねえ」

「先輩も言われたことあります?」

「あるよ」

「やっぱり?」

「“プロなのに道知らないの?”って」

新人が苦笑した。

「言われると結構へこみそうですね」

「まあ、気分のいい言葉ではないな」

「じゃあ、やっぱり聞かない方がいい?」

「なんで?」

新人が秋雄を見た。

「だって、プロなんだから」

「お前、そのお客さんと初対面だろ?」

「はい」

「向こうだって、お前とは初対面だろ?」

「そうですね」

「じゃあ、その人がいつもどの道を使ってるか、どうやって知るんだよ」

新人が黙った。

秋雄は続けた。

「同じ目的地でも、人によって使いたい道は違う」

「広い道がいい人もいれば」

「裏道が好きな人もいる」

「混む道を嫌う人もいますね」

「そういうこと」

新人は少し考えた。

「じゃあ、どう聞くんです?」

「俺なら、“いつも使っている道はありますか?”って聞くかな」

「なるほど」

「使い慣れてそうなお客さんなら、“ご希望のルートはありますか?”でもいい」

「それで、“プロなのに知らないの?”って言われたら?」

秋雄は笑った。

「じゃあ、こっちから提案すればいい」

「提案?」

「“では、○○通りから△△方面へ向かうルートでよろしいですか?”って」

新人が頷いた。

「確認を取るんですね」

「そう」

「知らないから丸投げするんじゃなくて」

「そういうこと」

秋雄は前を見た。

「そもそもタクシー運転手って、お客さんの代わりに運転する仕事だろ」

「はい」

「だったら、お客さんがどう行きたいか確認するのは、別におかしくない」

新人は少し笑った。

「聞くこと自体がプロ失格じゃない?」

「聞き方の問題だよ」

「じゃあ、道を知らない時は全部お客さんに聞けばいい?」

秋雄は首を振った。

「それも違う」

「違うんですか?」

「お客さんも道を知らない時があるからな」

新人が首をかしげた。

「じゃあ、その時は?」

秋雄はナビを指した。

「今度は、こいつの出番だよ」

つづく

明日10:00に更新






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最終更新日  2026年09月21日 10時00分05秒 コメントを書く
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