買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年01月11日
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(山下聖美さん「平塚らいてう」(「女脳文学特講」所収)P88)


「是は何でせう」と云って、仰向いた。頭の上には大きな椎の木が、日の目の洩らない程厚い葉を茂らして、丸い形に、水際迄張り出してゐた。
「是は椎」と看護婦が云った。丸で子供に物を教へる様であつた。
「さう。実は生つてゐないの」と云ひながら、仰向いた顔を元へ戻す、其の拍子に三四郎を一目見た。三四郎は慥かに女の黒眼の動く刹那を意識した。其時色彩の感じは悉く消えて、何とも云へぬ或物に出遭った。其或物は汽車の女に「あなたは度胸のない方ですね」と云はれた時の感じと何処か似通つてゐる。三四郎は恐ろしくなつた。
二人の女は三四郎の前を通り過ぎる。若い方が今迄嗅いで居た白い花を三四郎の前へ落としていつた。三四郎は二人の後姿を凝と見詰めて居た。看護婦は先へ行く。若い方が後から行く。華やかな色の中に、白い薄を染め抜いた帯が見える。頭にも真白な薔薇を一つ挿してゐる。其薔薇が椎の木陰の下の、黒い髪の中で際立つて光つていた。
三四郎は茫然してゐた。やがて、小さな声で「矛盾だ」と云つた。
(「三四郎」岩波版漱石全集第五巻P302)


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Last updated  2012年01月11日 08時23分04秒
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