買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2019年01月21日
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カテゴリ: 読書

羊だ。
僕はソファーから起きあがり、相棒の机の上にあったグラビア・ページのコピーを手に取り、ソファーの上に戻った。そしてウィスキーの味の残った氷をなめながら写真を二十秒ばかりじっと眺め、その写真が何を意味するのか我慢強く考えてみた。
写真には羊の群れと草原が写っていた。草原がとぎれるあたりには白樺の林が連なっている。北海道特有の巨大な白樺だ。
(中略)
僕はテーブルの上にその写真を放り投げ、煙草を一本吸ってあくびをした。それからもう一度写真を手に取り、今度は羊の数を数えてみた。しかし草原はあまりに広く、羊はピクニックの昼食どきみたいな感じでばらばらに散らばっていたので、遠くの方に行けば行くほどそれが羊なのかそれともただの白い点なのかは不明確になり、最後には目の錯覚なのか虚無なのかわからなくなった。仕方なく僕は一応羊であると確信できるものだけをボールペンの先で数えてみた。三十二というのがその数字だった。三十二頭の羊。何の変哲もない風景写真だ。構図がきまっているわけでもないし、これといって味わいがあるわけでもない。
しかしそこにはたしかに何かがあった。トラブルの匂いだ。それは僕は初めてそれを目にした時にも感じたことだし、この三ヵ月間づっと感じつづけてきたことだった
僕は今度はソファーに寝転んで顔の上に写真をかざし、羊の数をもう一度数えなおしてみた。三十三頭。
三十三頭?
僕は目を閉じて首を振り、頭の中をからっぽにした。まあいいさ、と僕は思う。たとえ何が起こるにせよ、まだ、何も起こってないんだ。そして何かが起こったとすれば、それはもう起こってしまったことなんだ。
(村上春樹さん「羊をめぐる冒険」P92)







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Last updated  2019年01月21日 05時53分55秒
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