買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2019年02月13日
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カテゴリ: 読書

「夜が明けたら天吾くんはここを出て行くんだよ。出口がまだ塞がれないうちに」
たしかに引き上げる潮時かもしれない。空気さなぎに入った十歳の青豆にもう一度出会うために、仕事の休みを取り、この町にやってきた。そして二週間近く毎日診療所に通い、父親に本を朗読した。しかし空気さなぎは現れなかった。そのかわりほとんどあきらめていた頃に、安達クミが彼のために違うかたちの幻影を用意してくれた。天吾はそこでもう一度少女としての青豆に出会い、言葉を交わすことができた。私を見つけて、まだ時間があるうちに、と青豆は言った。いや、実際に言ったのは安達クミかもしれない。見分けはつかない。でもどちらでもいい。安達クミは一度死んで再生した。自分のためでにではなく、他の誰かのために。天吾はそこで耳にしたものごとをとりあえずそのまま信じることにした。それが大事なことなのだ、おそらく。
ここは猫の町だ。ここでしか手にすることができないものがある。彼はそのために電車を乗り継いでこの場所にやってきた。しかしここで手にするすべてのものにはリスクが含まれている。安達クミの示唆を信じるなら、それは致命的なものだ。何か不吉なものがこちらにやってくるのが、親指の疼きでわかる。
そろそろ東京に帰らなくてはならない。出口が塞がれないうちに、まだ列車が駅に停まるあいだに。
(村上春樹さん「1Q84 BOOK3」P188)







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Last updated  2019年02月13日 06時54分46秒
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