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2007年03月03日
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テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay
 姉のお下がりのお雛様は、御殿付だった。

 貧しかった我が家にも、これが出てくると春の予感がして、心が浮き浮きするのであった。

 わたしの生まれ育った地方では、一月遅れの四月三日が桃の節句だった。
 よそ行きの洋服を着せてもらって、お重に詰めたご馳走を持ち近所の家を歩くのだ。
 大概お重の中身は、巻き寿司やお稲荷さんに寒天と同じなのに、交換しては舌鼓を打ったものである。


 わたしが生まれる前は、何でもこの御殿飾りが三個くらい飾れる雛壇が二部屋を占領する規模だったと聞く。

 そんないきさつなど露知らず、物心ついてからずっと、これが我が家のお雛様だった。
 毎年、母にせがんで飾ってもらった。

 その母も、末妹の授乳が終わるや家計の足しに働くようになった。
 いつしかお雛様どころではなくなり、雛飾りの役目はわたしにまわって来た。
 というより、わたしが勝手に出して妹たちのために、飾るようになったのである。

 歳月を経るうちに、お雛様は少しずつ壊れてきた。
 丁寧にしまったつもりでも、まだ小学生のわたしの仕事は、雑だったに違いない。
 そのうちに御殿を組み立てられなくなっていた。
 それでも幼い妹達がじっと待っているので、わたしは必死でなんとか形にしなければならなかった。
 苦肉の、接着剤で持たせたものである。


 三人官女に五人囃子。
 それぞれが持つ道具の精巧なこと。
 右近の橘に左近の桜。
 母に教わった通りを飾った日々が、今では懐かしい。

 それにしても、引越しの際に処分されるのは、どうしてもこういうものである。

 姉にもらった雛飾りは、今風の顔をした可愛いお雛様だったけれど、結局、狭いアパートには飾る場所がなかったから。

 今も浮かぶのは、実家で飾った姉のお下がりのお雛様。
 御殿の中に鎮座したその姿には、どことなく貴品が漂っていた。
 同時に、あの母の手作りの巻き寿司や寒天を思い出す。
 今夜の我が家には、残念ながらその片鱗もない……。
 どうやら娘達には、デートの方が良いらしい。










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最終更新日  2007年03月03日 21時15分47秒
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