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2020.11.02

第９話「人間界への転生」

白鳳九(ﾊｸﾎｳｷｭｳ)は縁談を嫌がり、近寄って来る殿方たちを脅かして追い払っていた。
噂を聞きつけた鳳九の母方の叔母は憤慨、早速、鳳九の外祖母に言いつけに行ったという。
白真(ﾊｸｼﾝ)から話を聞いた折顔(ｾﾂｶﾞﾝ)は、外祖母・伏覓仙母(ﾌｸﾍﾞｷｾﾝﾎﾞ)は何と言ったのか聞いた。
「″もっと釣り合う相手がいる″と、鳳九の肩を持っているよ、次は自分が選ぶと…」
「何でも外祖母の望みは名家の若君で権威を持ち、美男で粗野でない者だとか？」
「そんな男が夫になれば間違いなく美しい子が生まれ、狐族の体面も保てるそうだ」
しかしそれは最低限の条件、父親である二兄はさらに細かい要求を突きつけられるだろう。

鳳九は明るく振舞っていたが、東華帝君(ﾄｳｶﾃｲｸﾝ)への思いを封じるため一心不乱に桃花酔(ﾄｳｶｽｲ)造りを学んでいるという。
「白家の唯一の孫で愛されて育ったのに…なぜ良縁に恵まれないのだろう」

四叔父がため息を漏らしている頃、学堂から帰ろうとしていた白鳳九の元に謝孤栦(ｼｬｺｼｭｳ)がやって来た。
急用だと気づいた鳳九は精衛(ｾｲｴｲ)を先に帰すと、謝孤栦は少し歩こうと誘う。
「とても迷ったが、あることを伝えようと思ってね…」
「幽冥司(ﾕｳﾒｲｼ)の冥主ともあろう人がそんなに迷うことがあるの？」
冥主は南斗星君と北斗真君と同様、人間や生き物の生死に関わる神仙だ。
南斗と北斗が生死を決めるのに対し、死後に裁くのが冥主で、人間に恐れられている。
すると謝孤栦は恐らく誰も知らない話だと切り出した。

衆生は必ず縁啓(ｴﾝｹｲ)台を経て転生するが、これを統御しているのが謝孤栦だった。
実は縁拝冊を整理していた謝孤栦は最近、″往世(ｵｳｾｲ)の術″を使って異界から誕生した者がいると気づく。

その時、謝孤栦は以前、東華帝君が八苦を悟るため人間界へ行くと聞いたことを思い出す。
司命星君(ｼﾒｲｾｲｸﾝ)の運命簿では300年後のはずだが、瞑想中でも耘荘仙翁に命じて分身だけ人間界へ送ることは可能だった。
「帝君は誰にも言わず極秘で行ったようだ、なぜそれを知らせに来たのか分かるか？」
「桃花醉がたくさん欲しいから？」
「ふっ…私の前で強がるな」

当時、謝孤栦は時が解決すると励ましてくれたが、100年経った今でも白鳳九の胸の痛みは変わっていなかった。
確かに太晨宮での良い思い出はわずか、傷ついた思い出の方が多い。
姫蘅(ｷｺｳ)の手に噛みついて東華帝君に追い出されたこと、姫蘅の顔を引っかいて東華帝君に叱られたこと、姫蘅の霊獣に痛めつけられて池に落ちたこと、そして結局、姫蘅が東華帝君に嫁ぐと知って九天を離れたこと…。
「司命が言ったの、私の帝君への想いは海のように深いって…
　でも帝君があんなに気高い神仙じゃなくて、もっと悪い方なら良かった
　そうすれば私だけが帝君の良さを見つけて好きでいられるのに、そして精一杯尽くすの」
謝孤栦は思いつめる鳳九を心配した。
そもそも己をおとしめ、毛皮を手放し、貴い身分まで投げ出しただけで十分、恩を返したという。
しかし鳳九は自分が勝手にした事と恩返しは違うと否定した。
「私の影を持って帰って、帝君の影と同じ所へやって欲しい、分身に恩返しをさせたい
　…東華帝君自身も300年後、人間界へ行くのよね？司命に場所を聞いて私も行くわ」
鳳九は影の恩返しが失敗しても、人間界への転生でやり直せると考えた。

一方、緲落(ﾋﾞｮｳﾗｸ)の封印で修為を消耗した東華帝君はようやく目を覚ました。
次の封印までに何とか回復させねばならず、そこで300年後の修練を早めようと決める。
「人間界で劫(ｺﾞｳ)を経れば回復が早い」
こうして東華帝君は人間界にある承虞(ｼｮｳｸﾞ)国で国王の息子・宋玄仁(ｿｳｹﾞﾝｼﾞﾝ)として転生した。

成玉元君(ｾｲｷﾞｮｸｹﾞﾝｸﾝ)は偶然、司命星君と出くわした。
実は新たに神仙となった成玉の友が拝謁の儀で東華帝君に会うはずだったが、今年は中止になったという。
司命は仕方なく他言しないよう釘を刺し、東華帝君が予定を早めて人間界へ修練に行ったと教えた。
驚いた成玉は早速、青丘に白鳳九を探しに向かう。
すると鳳九は洞窟に引きこもり、顔色もさえなかった。
成玉は東華帝君のことでまだ落ち込んでいると気づいたが、鳳九は恩返しが終われば気分も晴れると笑顔を見せる。
「帝君を好きなのは私の勝手な想いよ、でも命を救われた恩は必ず返すのが道理だわ」
そこで成玉は実は東華帝君が予定を早めて人間界へ行ったと教えた。

司命星君は東華帝君の運命簿を棚の上に戻していた。
そこへちょうど鳳九がやって来る。
鳳九は東華帝君が人間界のどこにいるのか尋ね、どうしても恩返しをやり遂げるため、人間界で恩を返したいと訴えた。
しかし司命は東華帝君の修練を妨げれば大変なことになると説得、鳳九を追い返してしまう。
鳳九はひとまずあきらめたが、司命星君がどこに東華帝君の運命簿を置いたか分かっていた。

その頃、玄(ｹﾞﾝ)魔君・聶初寅(ｼﾞｮｳｼｮｲﾝ)は承虞国で鎖魂玉(ｻｺﾝｷﾞｮｸ)を探していた。
すると講談師の話から思わぬ糸口を見つける。
初代の大王の時代、北方の敵が侵攻した時のことだ。
大王は親征したものの大怪我を負って敵に包囲され、壊滅目前だったという。
しかしその時、巨大な火の玉が現れ、敵軍へ落下、これを機に大王は将兵を率いて突撃、敵軍を撃退した。
その後、大王が火の玉が落ちた場所で玉石を発見し、その玉石が承虞国の国宝となっている。
玉石は″霊璧石(ﾚｲﾍｷｾｷ)″と名付けられ、今も北の関所から30里先にある谷の中には大きな穴が残っていた。

聶初寅は玉石が落ちたという巨大な穴を訪ね、その後、小屋へ戻った。
阿芒(ｱﾎﾞｳ)の話では姫蘅は回復したものの、やはり記憶は戻らないという。
聶初寅は鎖魂玉が承虞国にありそうだと話し、阿芒に公主の世話を任せた。
ここは三界の隠密の場所のため、誰も公主がいると気づかないだろう。
「人間界の10年など一瞬だ、いずれ使い道が見つかるだろう」

承虞国で宮中恒例の狩猟会が開催された。
王后は王子を産んで亡くなったが、宋玄仁は立派な太子に成長している。
↓それがこちらです…

すると国王は今年は獲物の数ではなく、より珍しい鳥獣を射止めた者を勝者にすると決めた。
こうして狩りが始まったが、早々に宋玄仁の馬が倒れて死んでしまう。
明らかに誰かの企みによる毒殺だったが、宋玄仁は大ごとにならないよう馬は病だったと報告するにとどめた。

慣れない馬で狩りに出た宋玄仁、さらに兄・宋玄応(ｿｳｹﾞﾝｵｳ)の嫌がらせで思うように獲物をとることができなかった。
そんな中、宋玄仁は珍しい犬鷲を発見、しかしその犬鷲を狙って将軍・葉青緹(ﾖｳｾｲﾃｲ)が現れる。
葉青緹は見事に犬鷲を仕留めたが、実は宋玄仁が葉青緹に襲いかかろうとした猪を仕留めていた。
すると葉青緹は恩人である太子に感謝し、本来は太子の獲物だったと犬鷲を献上する。
将軍は太子が雉を餌に犬鷲を引き付けたと気づいていた。

皇子や諸侯たちがそれぞれ獲物を持って帰ってきた。
大内官は玄応王子が一番だったと報告したが、そこへ遅れて太子が戻って来る。
すると国王は宋玄仁が犬鷲を射止めたと知り、期待に応えた息子に満面の笑みを見せた。
宋玄仁は見事に首位となり、褒美に汗血馬と慕白(ﾎﾞﾊｸ)剣、金縷(ｷﾝﾙ)の甲冑(ｶｯﾁｭｳ)を賜る。
また活躍した玄応王子と葉将軍もそれぞれ汗血馬を賜った。
しかし急に国王が激しく咳き込み始め、その場は騒然となる。
宋玄応は直ちに王宮へ戻るよう進言したが、国王はまだ話があると言った。
「新たな戦報が届いた、崇安(ｽｳｱﾝ)国の軍が国境に現れたそうだ
　ゆえに本日の狩で首位となった者に、余に代わって国境の鎮圧に向かい、
　承虞国の国威を示してもらいたい」

宋玄仁は三軍を統率して鎮圧に向かうことになった。
すると太子の初陣を心配した国王が太子の右腕となるよう副将に葉青緹を選んでくれる。
こうして宋玄仁は力強い味方を得て、翌日、出立することになった。

一方、白鳳九は司命の留守を狙い、東華帝君の運命簿を勝手に閲覧していた。
そこへ運悪く司命星君が帰って来る。

鳳九は慌てて姿を消したが、司命星君は鳳九がいると気づいた。
「小殿下？…帝君の運命簿を勝手に見るのはあなただけですよ？」
鳳九は仕方なく姿を現し、遊びに来ただけだとごまかす。
しかし鳳九が慌てて戻したせいで東華帝君の運命簿だけ逆さまに入っていた。
「正直に…」
「ぁ…あの内容は本当なの？帝君のいる国が隣国と戦になり、帝君も命がけで戦うの？」
司命星君は修練の邪魔になるのでくれぐれも見に行かないよう言い聞かせた。
東華帝君が殺されかけようものなら鳳九のこと、仙術ですぐさま助けるに決まっている。
もし人間界で仙術を使えば反噬(ﾊﾝｾﾞｲ)を受け、根幹が傷つくどころか、時には精気さえ尽きることもあった。
鳳九はそこまでとは知らず、分かったと言って青丘に帰ったが…。

つづく

( ๑≧ꇴ≦)ひげがあってもなくてもやっぱりダメだwww
そう言えば太晨宮には他の神仙もいるのね〜

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