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突然、2本の指でぷつりと摘み取られてしまう。そして、喰われてしまうのである。窓際に並べられた植木鉢に植えられたリーフレタスは恐怖でパニックに陥ったはずである。このアパートに住む大学生の娘が、今までの優しそうな仮面を剥ぎ取り、殺人鬼のような冷酷非常な行為に及んだ。
その瞬間に、あと数分もすれば喰われてしまうリーフレタスの葉に意識が宿る。そのリーフレタスの本体にあったかもしれない意識とは、まったく別個に意識が現われる。
リーフレタスの本体は、その娘に体を切り取られる苦痛に悲鳴を上げていたかもしれないし、もしくは、やがては干からびていき生気を抜かれていくよりは、燃えさかる炎の中に一思いに放り込まれた方がいいと思っていたかもしれない。しかし、そんなものとはまったく無関係に、水の中からぽっと浮き上がってくるかのようにその意識は現われたのである。
娘に摘み取られたリーフレタスの一枚の葉はすらっと伸びて、他の葉よりもぐんと成長していた。水でさっと洗われた後、彼女の食事に対する美的な感覚に従って、一枚の白い皿の上にこれから何かの儀式が行われるようにそっと置かれたのである。
彼女にとって、それはその日の朝食のすべてであり、また、窓際で育ててきた野菜の最初の収穫である。
動けない体と言えども、葉の意識は抵抗した。サラダオイルと醤油と酢のドレッシングがその葉にゆっくりとかけられ、葉脈に沿って流れ込み、一部は皿にまで至り、一部は葉の窪みにたまり、そこであっという間にサラダオイルと水溶系の成分に分離した。葉の意識は、分離したドレッシングの不協和音をせせら笑った、そのためにだけこの意識が生まれ出てきたかのように。
娘がこの一枚のリーフレタスを食べるために、フォークとナイフを用意したことを、その葉の意識は知った。彼女が食するものがそのリーフレタス以外にはないと言うのに。
朝日が彼女の部屋の食卓にまで延びて、皿の上のリーフレタスの葉にスポットライトのように当たった。
いよいよフォークで押さえつけられナイフで自身が切り裂かれる直前になって、その意識は自分の存在を失う恐怖よりも、彼女を取り巻くその詩的な光景に思いが及んだ。彼女はその瞬間に涙するにちがいないとリーフレタスの1枚の葉の意識は夢想した。