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女たちがその肉を食べると言う。そういう時代がやってきたのだ。筋肉をつけるためというよりは、戦うために肉を食べるのだそうだ。ほんの一口でも、それを口に含むこと。しっかりとかみ締めること。その意思が女を変えると人がいう。
きれいに化粧をした女たちがぐるりと丸いテーブルに座わる。箸で上品にその肉をつまみ、静かに小さな口に入れる仕草と、その後の口をきちんと閉じて噛む動作に、周囲を意識していることが知れる。周囲を意識することが女を美しくする。こうして、生の肉を食して美しい女がさらに自分を磨いていく。凛として明日に臨む。
時にさびしい女がいる。気の合わない夫と、互いに行くところがないという理由だけで、同じ屋根の下に何十年と住む。
しかし、この薄幸な女にも幸運が舞い込んできた。別室で寝ていた夫の呼吸が止まった。苦しんだ様子はない。老衰というほどに老いていたわけではない。肉の状態としてはかなり良い条件であるにちがいない。
ダイニングルームの食卓の真上の電灯だけは少し暗い感じがするのだが、生の男の肉の照明にはふさわしいのかもしれない。人と接することの少なかった女が料理の本に従って、まだ生暖かい男の肉をほんの少しだけ切り出していく。
テーブルの上の白い皿の上にその赤い肉が一切れのせられる。どんなに量が少なくとも、フォークとナイフを出して味わうのが男の肉に対する礼儀だと料理の本に書いてあった。
少し生臭くて、最後まで夫とは合わないとさびしい女は思った。でも、明日肉を引き取りにくる精肉業者に「とてもおいしかった。」と涙しながら言えると女は微笑んだ。