PR
Keyword Search
Comments
Freepage List
悲劇しか産まないであろう。わたしの意識は金属光沢に紛れて銃弾に宿った。
悲劇の幕が開くのに、後1秒もない。もっとも、瞬間を生きているから銃弾に時間は意味を持たない。
飛翔する直前の緊張は歓喜に近く、力が凝縮されてわたしを満たした。極度に高いエネルギーがわたしをつき抜け頭がくらくらした。それは禁じられたことが、例えば、人を殺めることとかが、しばしば人々を魅了するときの感覚に近い。
わたしという銃弾は宙を前進する以外にないのだが、数メートルでも数センチでもより遠くにいく可能性に賭けたいと思った。
空気を切り裂いた先にあるもの。その行く手は大地かもしれないし、大海かもしれない。
大地ならば、巨岩に食い込み、傷つけ、周囲に石の細かい破片を吹き飛ばすだろう。大海ならば、空気を巻き込んで白い航跡を残しながら水中を突き進み、やがては金属の重みに身を任せて何千メーターも下の海底の砂に埋もれる。
しかし、未来を夢見て大根の葉の柔らかい部分を食していた蛾の幼虫のぶよぶよした胴体にわたしは到達し、幼虫がまったく気づかないうちにその幼虫の将来を潰してしまう。もしくは、海水に突入するや、その際に生じた細かい空気の泡が消える間もなく銀色に輝く魚体の鱗とその裏側の心臓を貫通してしまう。
それは必然である。待ち受けるのは破壊と殺戮だけである。 わたしを気楽にさせるのは、そこには後悔というものがないことである。
物理現象に従えばよい。わたしもずたずたに傷つき、終焉は静止である。だからこそ、そこに至るまでの暴力的な瞬間をわたしはあこがれる。
ただ、わたしを誤解してはいけない。 わたしが望んでいるのは、わたしの外側の環境が破壊されること、殺戮されることではなく、わたし自体が消滅することだ。瞬間に生きて、絶えることだ。
あまりに銃弾の金属光沢がまぶしい。