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カテゴリ: 書評
見出し:寂しかりし、モンテスキュー伯爵。周縁にして主賓たる“美の教授”を讃えよ。

フィリップ・ジュリアン著、志村信英訳『1900年のプリンス新装版 伯爵ロベール・ド・モンテスキュー伝』(国書刊行会 )

 20世紀フランス最高のダンディ、ベル・エポックの王者にして耽美主義とアール・ヌーヴォーの推進者、“美の教授”ことロベール・ド・モンテスキュー伯爵は、狂い咲きのようにして爛熟した近代フランスの文学、芸術、社会、科学技術の新しいスタイルが語られるとき、決して無視することの出来ない“周縁にして主賓”である。ユイスマンス『さかしま』のデゼッサント、プルースト『失われし時を求めて』のシャルリュス男爵、それぞれのモデルとして、あるいは有名でもあろう(ちなみに、伯爵自身は実際には、その美の求道ゆえに同性愛者ではなかったことが、本書では語られている)。
 しかり、伯爵はその類いまれなる審美眼と、美ならざるものに無感情なまでに向けられた冷笑と、傲岸不遜なまでの矜持、それに偏愛を超えたフェティッシュな蒐集癖にも関わらず、社交界人であるがゆえに(あるいは、その才能に自尊心のチェスターフィールド・コートを纏わせ過ぎたばかりに)、本人が意図した文人/詩人としては、逆に過小評価されて来た“周縁の人物”である。伯爵は、あまりに純粋-ピュア、という意味ではなく、その詩作への愛は脆弱に過ぎたのだ-であるがゆえに、自らを“ロベール・ド・モンテスキュー伯爵”以外にはし得なかったのである。伯爵は永遠に、きら星のごとき大作家や大芸術家の名伯楽でしかあり得なかった。
 しかし、伯爵が、後世に名を残す名著や傑作を遺さなかったとしても、彼自身であったこと以上の作品は必要なかったのではなかろうか。なぜなら、当時の「美しき時代」の渦中、その中心に、痩せた体躯を反り身にさせて、誰はばかることなくその有り余る機知で賛美し、陥れ、王者のごとく在ったのは、一人ロベール・ド・モンテスキュー伯爵のみであったのだから。そう、彼こそは、“20世紀のロレンツォ・デ・メディチ”。ただし、ロレンツォよりは腕か細く、ロレンツォよりは美男であったが。
 実に、500ページ近い大著。しかも、“美の教授”にあてられた著者の、過剰に装飾的な言い回しが、時に鼻につくほどに勿体ぶっていて、決して読みやすい一冊ではない。しかし、サラ・ベルナール、プルースト、ダヌンツィオ、オスカー・ワイルド、ビアーズリー、ホィッスラー、モロー、エミール・ガレ、ミュシャなど、伯爵を取り巻く“人間喜劇”の当事者もそうそうたる顔ぶれで、その関係性に触れるだけでも興味深い。
 また、この本は、ロベール・ド・モンテスキュー伯爵の生涯を縦糸に、ヨーロッパの貴族社会の終焉を描いている点でも価値がある。ヴィスコンティの『山猫』のようにドラマティックで余韻のある“没落の美学”に彩られた終焉ではなく、事実は実に寂しく惨めなもの-そう、社会によって、次第に不要とされ、そして居場所を奪われるのである-であったかことが語られ、そのリアルな描写は真に迫っていて、強く訴えるものがある。(了)

1900年のプリンス新装版
1900年のプリンス新装版





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Last updated  2008/03/31 12:14:27 PM
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