バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ: 書評
見出し:東西からくり文化読み比べ。

1:高梨生馬著『からくり人形の文化誌』(学芸書林)
2:竹下節子著『からくり人形の夢―人間・機械・ 近代ヨーロッパ』(岩波書店)
3:立川昭二ほか著『図説 からくりー遊びの百科全書』(河出書房新社)

日本のオモチャ文化は、海外のそれと比較してはるかに高度で精巧である、という想いから不意に、脇道に逸れるようにして手にしたからくり人形の文化にまつわる三冊。読んだ順番に表記してある。
単純に、日本の、精巧な変型玩具をきっかけに、その源流を探るならば、1と3、および2の前半を読んで比較するのが目的にかなっている。そこで目にするのは東西のからくり人形に関する比較。
 創造という情熱に取り憑かれていたのは、キリスト教的な神=人間の関係と切り離せない西洋の方である。ただし、竹下の論考では、オートマタという自動人形への飽くなき挑戦は、決して異端的・涜神的な動機によって磨かれて来た技術や文化ではなく、むしろ神による創造の御業の偉大さを説き明かし、賛美するためであったことが分かる。同時に2からは、私が手にしてきた日本のオモチャは、厳密な意味におけるオートマタの系譜から外れてしまった、近代技術を駆使した大量生産向けの産業に還元された類のものということを知ることになる。やはり、日本のオモチャはオートマタの埒外の産物なのだろうか。
 逆に、興行およびエンタテイメントとしての文化的源流を持つのは、むしろ日本のからくり人形の文化であるが、これはやがて、各地の祭の山車に載ることで、あとから祭儀的意味を持ち始めてゆく。また、後に工業技術の最先端国として名を馳せることになる日本のからくり人形は、歯車など、機構の主要な部品の素材は木製品やクジラのヒゲなどを使用しており、金属などを使用した量産品でなく、すべて一パーツごとに手作業(歯車に至っては、ギザのある円形を、複数の三角の板を組み合わせて、寸分の狂いの許されないあのからくりの動きの心臓部を、手作業で作っていたという)であり、この精巧にして精密、かつ無駄のない技術としての美しさが、後の工業先進国の土壌になっていると高梨は推論する。
 東西のからくり人形の文化史において共通することは、それぞれ、からくり人形という人間のミニチュア、作り手の情熱が立体化した分身には、いずれも物語性がバックに宿っていたということだ。西洋においては、オートマタの製作は脚本から始まりポエジーが加えられると竹下により説明されているし、日本においては、歌舞伎や講談、伝説などに基づいたストーリーと、人形の動きの面白さが織りなす、エンタテイメントとしてのシナリオを持っていたことが高梨によって説明される。

 結局、私としては1と、2の前半を比較し、ヴィジュアル豊富、一冊の中に東西のからくり人形事情について秀逸なコラムや評論(ピグマリオンから玉屋庄兵衛まで!!)が適切に収録される3をパラパラとめくった上で、2の後半を読む、というのが系統だった読み方だった、という感想を抱いた。この三冊は、読み比べるよりも、相互に関係させて読むことで、東西からくり人形文化誌を大きく把握することができるだろう。
 そしてふたたび、精巧な日本のオモチャに対して、稚拙で大味なギミック(目を剥くような大幅な改良や新技術の開発は実に稀である)を持つ海外トイは、オートマタの持つ“ダイナミックな驚き”を最高の演出としてきた遺伝子の結果なのかと、その価値を再確認した次第である。
 なお、からくり人形については、その動きを実際に目にしないと驚きも面白さも伝わらない。しかし、実際は公共施設・文化施設でのビデオの貸し出しなど以外は、殆ど流通しておらず入手することができない。ちなみに、ネット上では後の東芝の祖であるからくり儀右衛門こと田中久重の設計・製作した 作品 ほか、代表的なからくり人形である弓曳き童子、文字書き人形のフラッシュ・ムービーを楽しむことができる。
(了・文中著者敬称略)

著作です: 何のために生き、死ぬの?


からくり人形の文化誌


からくり人形の夢


図説からくり


大人の科学 弓曳き童子





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Last updated  2008/04/03 09:27:21 PM
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